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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
21/75

21話 第57回宝探し祭り ⑨

台風にはお気を付けください。21話です

『島の西側で三つ巴のバトルが勃発! どうやら2対1の戦いのようだが、なんとまさかの仲間割れだぁぁぁ!』


私は戦闘には集中せず、オレンジ色の美しい夕焼けを眺めていた。理由はマスターが実況で言った通りだ。かれこれ30分はこの状態が続いている。


「ちょっとひぃちゃん! なんで魔法使わないのこの役立たずー!」

「お前が俺の双天翔を壊したからだろ!」

「そうだった! ごめん!」


どうやらヒューゴの武器はキトゥンとの戦いで壊れてしまったようだ。それなら都合がいい。確かヒューゴは武器を使用することで魔力を発揮できる後天性の魔導士。言い方は悪いが、もはや魔法の使えないヒューゴはただ身体能力が高いだけの男だ。


問題はキトゥン。あいつは生身で魔法を使える先天性・・・いや、そんなことはどうでもいい。本当に問題なのはあいつが獣人族であることだ。


「じゃあボクがやるからひぃちゃんは下がっててー!」

「1対1でいいのか?」

「格上を下してこその魔導士だよ! 魔力解放、火之迦具土!」


キトゥンの全身が真っ赤な炎に包まれ、凄まじい熱気が辺りに広がっていく。炎属性魔法、火之迦具土は体に炎を纏わせることによって一撃の破壊力を上げることができる。


「いくよアデルちゃん・・・戯れの猫爪(ラブリィ・クロウ)!」


キトゥンの細長い10本の指から炎が生きているかのように伸び、鋭い爪を形作る。

こんな芸当も可能なのか・・・面白いな。


「ぼーっとしてたらバラバラにしちゃうよ!」

「おっと・・・。」


私が感心しているとキトゥンは瞬時に距離を詰め切りかかってきた。少し距離をとる。


「熱いのはあまり好きじゃないんだが。」

「だったらすぐにやっつけてあげる! 戯れの猫尾(ラブリィ・ウィップ)!」


炎の爪が今度は鞭のように伸び地面を打った。


「ずいぶん自在に操れるんだな。だが鞭だと言うならば・・・。」

「わっ・・・?!」


爪よりも対処は簡単だ。相手の反応できない速度で距離を詰めてやればいい。私は容赦などせず、彼女の腹に一撃を入れる。


「うぐっ!」


低い呻き声を上げ地面を転がると巨木へぶつかった。これで追い詰めたが、下手に引き伸ばして傷つけるわけにはいかない。次の一撃で決着をつける!


「これで終わりだ!」


膝を付き咳き込んでいるキトゥンへ向け大剣を薙ぎ払う。

先端が掠ったのか、巨木には刃の通った跡が残る。


勝負を決めるつもりだったが、手応えが無い。いつの間にか目の前から姿を消していた。


「あぶな・・・もう、アデルちゃん殺す気マンマンじゃん!」

「あの体勢から避けるとは、さすがだな。」


キトゥンは私の遥か頭上、巨木の幹に片手片足でしがみついていた。これこそが獣人が厄介な相手である理由。人間よりも身体能力が高く、稀に重力すらも感じさせないような動きをすることがある。

人間と同じように相手をすると思わぬ反撃をくらうことは嫌というほど経験した。


「だが、逃げてばかりでは何も変わらんぞ?」

「それはどうかなー? 言っとくけど、アデルちゃんの弱点は知ってるんだからね!」

「私の弱点・・・?」


身に覚えが無い。

弱点、弱点だと・・・?

まさか、私のぬいぐるみ収集の趣味がバレたというのか?! いや、それは地味子とアンジェが周りに言いふらさない限り有り得ない。まあ・・・もし本当にあの2人が口を割ったというのならば、今晩がお楽しみの拷問タイムになるわけだが・・・。


「アデル・・・。」


ヒューゴが私に向かって恐る恐る指をさす。また私をバケモノを見る様な目で見ているな。私というよりは、私の肩か?


「な、なんだ・・・どうしたヒューゴ?」

「お前の肩、虫がついてるぞ。」

「・・・っ?!」


そのワードを聞いた瞬間背筋が凍り寒気に襲われた。全身の力が抜け、自分の顔が青ざめていくのがわかる。


「ひっ・・・む、虫だと?! どこだ、どこにいる! 火炙りにして魔物のエサにしてやる! 今すぐ出てこい!」


私は我を忘れ慌てて体中を探しまわったが、見当たらない。


「噂には聞いていたけど、本当に苦手だったのか・・・きぃ、今のうちだ!」

「オッケーひぃちゃん!」


私が虫に気を取られているうちにキトゥンが迫る。まずい、反応が遅れた・・・!


「一発で決める・・・戯れの猫爪(ラブリィ・クロウ)!」

「くっ・・・!」


咄嗟に防御しようとしたが、炎爪が左腕を切り裂いた。激痛と同時に鮮血が飛び出し、焼けるような耐え難い熱を感じる。傷を手で押さえるが血は止まらない。少し掠っただけかと思ったが、長さを自在に操れるのは厄介だな。


「あれ、外しちゃった・・・。」

「なるほどな、肩の虫など嘘だったというわけか。」

「これで終わらせるつもりだったのにー。でも、焦ってる可愛いアデルちゃんが見れたからよしとしようかな!」


キトゥンの炎爪が10本の鞭へと変化する。燃え盛る炎の鞭が地面を打ち、草木を燃やし真っ黒な炭へと変えていく。


「今度こそ決めるよー! 戯れの猫尾(ラブリィ・ウィップ)!」


迫りくる炎鞭を前に私は大剣を構える。左腕を負傷した状態でできるかどうかはわからないが、やるしかない。


私の大剣、砕剣ティルウィングはただの大剣ではない。私も理由はよく知らないが、ティルウィングは私の力を最大限、もしくはそれ以上に引き出してくれる不思議な剣だ。呪いの剣と呼ぶ者もいる。砕剣ティルウィングは鋼鉄を破壊し、地面を叩き割り、時に魔法すらも両断する。


「うそ、そんな・・・魔力の炎を斬るなんて!」

「ヒューゴの武器と同様に、私の大剣も特別製でね。」


動揺し隙を見せたキトゥンに一撃を与えるのは容易い。間髪入れずに接近し拳を握った。


「しまっ・・・!」


キトゥンの反応も遅れ、私は勝利を確信した。

しかし、私の拳が捉えたのはキトゥンの腹ではなかった。キトゥンを庇ったヒューゴが、私の鉄拳を両手で受け止めた。


「ったく、相変わらずなんてパワーだよ・・・!」

「そういえば、私を騙したのはお前だったなヒューゴ。」


拳に少し力を込める。


「なっ、まだ力が増して・・・?!」

「お前は退場していろ。」

「うぉあああ!!」


そのままヒューゴを力任せにぶん投げる。彼はまるで流星のように空の彼方へと消えていった。ちょっと飛ばし過ぎたか?


「ひぃちゃん! ボクを庇って死んじゃうなんて・・・。」

「いや、殺してないんだが。」


突然、キトゥンの火力がさらに増した。私は危険を感じ距離を取る。


「犠牲になったひぃちゃんのためにも、負けるわけにはいかない!」

「だから犠牲になっては・・・もう聞いてないな。まあいい、これで正々堂々1対1だ。思う存分・・・。」


「ただのサシじゃつまらねぇだろ!」


背後の気配と怒号に振り向きティルウィングで攻撃を防ぐ。白黒のメイド服に鋼鉄並みの強度のブーツ、眉間に寄った皺。激怒モードのエルーだった。また三つ巴に戻ってしまったか。というか、なぜエルーは激怒モードのままなんだ?


「さっきの借り、まだ返し終わってねぇぞアデル!」

「しつこい女は嫌われるぞ。」

「ちょっとエルちゃん邪魔しないで! アデルちゃんを倒すのはボクなんだからねー!」



「いいえ、私です。」



この声、まさか・・・!

私が咄嗟に体を反らすと、目の前を見慣れたナイフが通り過ぎた。あれは武器屋に売っている安物のナイフ。


「驚いたな、この戦いにお前が参戦するとは・・・地味子。」


全身傷だらけ、服もボロボロの地味子。とても私やキトゥン、エルーと戦える状態とは思えないが。


「こんなに悔しい思いをしたのは、生まれて初めてなので。」

「・・・私を倒すつもりか?」

「それは後でのお楽しみです。」


もう体力も限界で余裕は無いはずだが、地味子は私ににこりと笑いかける。ただ笑っているだけじゃない。

その目は本気で私だけを見つめていた。


間違いない、地味子は私を倒すつもりだ。


「このまま帰るわけにはいかないですしね。」

「いいだろう、私とこのティルウィングがその挑戦を受けてやる。」



日没まで、あとわずか。





ありがとうございました。

宝探し祭り編もクライマックスに突入した気がします。気がするだけです。

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