19話 第57回宝探し祭り ⑦
火之迦具土はヒノカグツチと読みます。テストに出ます。
『島の北側の幼馴染対決に進展アリ! 優勢に立ったのは「天翔」のヒューゴだぁ!』
悔しいけど、実況はありのままの状況をギルドの観客たちに伝える。
「ひぃちゃん、強くなったねー・・・。」
「俺の方が負け越しているからね。今まで8年間の戦績は449勝450敗、記念すべき900戦目の勝利は俺が貰うよ。あとひぃちゃん言うな。」
いつの間にかひぃちゃんの魔力は格段に上がっていた。両手の特別性二丁拳銃から繰り出される魔力の弾丸も、その威力は桁違い。一発受けただけで体力が大幅に削られる。
「きっついなあ・・・。」
「それなら、もう終わらせようか。」
銃口がボクの顔を睨む。
ひぃちゃんの戦闘はスピードとその二丁拳銃を活かしたスタイルで、銃無しでは・・・正確には、武器無しでは魔法は使えない。それはつまり、銃の無力化はひぃちゃんの戦力大幅ダウンを意味する。
ボクは両手に炎を集める。
「・・・いくよ、火之迦具土。」
頭のよくないボクには隙を突くとか不意打ちなんて無理。お互いをよく理解している幼馴染同士なら尚更。
だから真正面からぶつかる!
地面を蹴り、一直線に銃口へ突っ走る。
「んなっ、そんなバカ正直に・・・!」
動揺しひぃちゃんは慌てて引き金を引いた。
ボクはそれをかわし二丁拳銃両方を掴む。
「つーかまーえたー!」
「な、何する気だ?!」
「さて、なんでしょーか?」
銃を掴んでいる両手の炎を強める。
「熱っ! くそ、放せ!」
もう片方の引き金が引かれた。魔力の銃弾がボクの脇腹に当たり火薬のように弾ける。衝撃が脇腹を突き抜け全身を駆け巡る。頭がガンガンと痛み立ちくらみがする。
「くっ・・・ふぅぅ・・・!」
ボクは歯を食いしばり耐える。ここで両手を放してしまったらもう勝ち目はない。構わず炎の威力を高める。
「お願い、火之迦具土! もっと強く!」
強く握った銃口が、僕の手のひらの形に僅かに歪むのを感じる。今だ!
二丁拳銃2つの銃口を、思い切り引っ張り捻じ曲げた。
うまくいった・・・ひぃちゃんの銃を溶かせる火力を出すまでどれくらいかかるかわからなかったから、ほんとギリギリだった。
「お、俺の双天翔が・・・!」
あ、そういう名前だったんだそれ。
「さてさてさーて、覚悟はいいかなヒューゴくんー?」
「あー・・・えっと、俺ちょっと用事を思い出し・・・。」
「問答無用―!」
ボクたちの記念すべき900戦目は、炎の鉄拳制裁で幕を閉じた。
________________________________________
『キトゥン対ヒューゴの戦いに決着! 一方、島の西側ではギルド最強の「砕剣」アデルとギルド受付嬢の「激怒冥土」エルーによる一進一退の攻防! 勝利の女神が微笑むのはどっちだ?!』
「勝利の女神・・・か。実況のテンプレだな。」
私はエルーの蹴り技を大剣で受け流しつつ、マスターの実況に耳を傾けていた。この実況による激しいテンションの上下と女好きが無ければ尊敬できる人なんだが、まあ彼も一人の人間だ。仕方ない。
「上の空とか余裕こいてんじゃねぇぞ!」
キレさせた相手を吹っ飛ばすか時間が経てばエルーの機嫌は元に戻るんだが、まだのようだな。気が進まないが、やるしかないか。
「エルー。」
「あぁ?!」
「歯くいしばれ。」
エルーを元に戻す方法があと一つ、それは彼女に勝つことだ。
大剣の柄がエルーの頬を捉える。
「・・・・・・!!」
エルーはふらつき後退した後、地面に崩れ落ちる。地味子のときを反省してできるだけ力を抑えた。成長しているぞ、私。
「いたたた・・・あれ、アデルさん?」
「ようやく元に戻ったか。」
「なんのことです? なんだかほっぺがすごく痛いんですけど・・・私のこと殴りました?」
「あはは、そんなわけないだろう。」
元に戻ると激怒モードの間の記憶が無くなるんだった。都合がいい。
「さあ、立てるか?」
エルーの手を取ろうと私は彼女に近づこうとした。足元にある、地面から顔を覗かせている木の根に気が付かずに。
「あっ。」
「え?」
私はつまずき、そのままエルーに覆い被さるように盛大にこけた。その拍子に真っ白なエルーの額に頭突きをくらわせてしまった。
「す、すまんエルー! 大丈夫・・・か・・・?」
「・・・おい、アデル。」
しまった。また入ってしまった、激怒モードに。
「何しやがんだてめぇコラァ!!」
エルーの戦闘用の黒いブーツが私の腹に思い切りめり込んだ。骨の軋む音が聞こえ喉の奥から何か熱いものが上がってくる。
「がは・・ぁ・・・!」
数秒意識が飛んだ。
かなりの距離を吹き飛ばされたらしい。目を覚ますとエルーの姿は見えず声も聞こえない、目の前には空が広がっているだけだった。
「全力で蹴ってくれたな、エルーのやつ。後でキッチリお返しを・・・。」
体を起こした私は、何か生臭いような匂いを嗅ぎ取った。動物のように鼻がいいわけではないが、確かにそれは血の匂いだ。
だが視界にそれらしきものは映っていない。
私はふと、後ろを振り向いた。そこに広がっていたのは、信じがたい光景。
この島に生息する、巨大な猛獣の死骸。
「バカな・・・!」
巨大な体躯。その胴に空いていたのは、有り得ないほど大きな穴。穴の内側は焼け焦げ煙を上げている。他の猛獣の仕業でないことは目に見えて明らかだった。
「魔法で貫かれたのか? いや、うちのギルドにこのような魔法を使う者など・・・。」
この島にはギルド以外の、しかも相当な魔力を持った人間がいる・・・?
この異変に他のみんなは、マスターは気付いているのか・・・?
このとき感じた嫌な予感は後にギルドを、そして私を・・・数奇な運命に巻き込んでいくことを、この時の私はまだ知らなかった。
ありがとうございました。お祭りはもうちょっと続きます。
のんびりいきます。