17話 第57回宝探し祭り ⑤
今更ですが、地味子の普段着は高校の制服です。そういう設定です。はい。
目を覚ますと、私は穴の中にいた。
島に転送されてすぐ、バケモノから逃げ込んだときに隠れていた穴だ。体には1メートルほどの長さの大きな葉が毛布のようにかけられていた。
「あれ・・・なんで私、こんなところで寝てるの?」
気を失う直前の記憶が無い。なんだかよくわからないけど全身痛いし、制服にも血が付着している。血って洗濯すれば落ちるかな。落ちるよね・・・?
私は辺りを見回した。護身用ナイフにロープ・・・道具は残ってる。よかった。
立ち上がろうと体に乗っかっている葉に手をかけると、木の側面に文字が書かれていることに気が付いた。たぶん、小石などで傷を付けて書いたんだと思う。丸みのある女の子っぽい可愛い字だ。
「この字・・・アデルさんの字だ。」
やりすぎた、すまん!と書かれている。
その一言で私の身に起きたことを全て思い出した。開始早々巨大なバケモノに出会って、その後バケモノみたいなアデルさんに出会って、そのままアデルさんにボコられたんだった・・・。
頬に触れてみる。傷は残っていない。体を確認してみても、目立つ傷は残っていない。アデルさん、ちゃんと治しておいてくれたんだ。おっかないのか優しいのか・・・。
「私、何時間寝てたのかな・・・早くお宝を見つけないと・・・!」
早くお宝を・・・。
あれ・・・?
どうしてだろう・・・?
ついさっきあんな目に遭ったのに、さっきよりもやる気に満ちている。アデルさんに勝てるわけがないなんて分かりきっていたことなのに、思い出せば思い出すほど悔しさが込み上げてくる。
どうしてだろう・・・?
「悔しい・・・。」
シェブールに来てから初めて抱く感情。最初はどうやって生きていくのかもわからず必死で、ギルドに入ってからは周りはみんな凄い人だらけで、自分が勝てないことなんて当たり前だった。
初めて抱く、劣等感。
そして・・・初めて生まれた、勝ちたいっていう気持ち。
「・・・よしっ!」
アデルさんと戦ったときも成功はしなかったけど、作戦は思いのほかうまくいってた。アデルさんだけじゃない。当然だけど、参加者は全員私よりも格上。腕力だって強いし、魔法だって使う人もいる。
でも、だからこそ。
「1勝・・・!」
必ず1勝する。いつまでも弱いままじゃいられない。
『地味子、これ以上は危ないから棄権しなさいってば! 私が勝手にエントリーしただけだし・・・!』
私が決意を固めてから1時間。モニター越しのアンジェはそれに反し、ずっと戻ってきなさいの一点張り。
「だーかーらー! 棄権なんかしないの! 絶対に1勝してついでにお宝も持って帰るの!」
普段憎まれ口を叩くアンジェだけど実はとても優しい子。今もたぶん私の怪我の心配とか、自分のせいで私が酷い目に遭っているとか、そんなことを考えてくれているんだと思う。
『そもそも1勝って、ついさっきタケルにも秒殺されてたくせに・・・。』
「う・・・。」
つい20分前、お祭り参加者の1人であるタケルと遭遇。風属性の魔法を操る彼に軽々と吹き飛ばされた。結果、右足首を捻挫。
戦績、0勝2敗。依然持ち点は0P。
「あ、足痛いだけだし、大丈夫だもん!」
『・・・お願いだから、あんまり無茶しないでよ?』
「アンジェ・・・?」
申し訳なさそうに少し目を伏せるアンジェ。やっぱり心配してくれているみたい。正直、大金星を挙げるために多少の無茶はしたいけど、そのせいでアンジェに心配をかけるのは私の本望じゃない。
胸が痛む・・・。
「これは私が決めたことだから、私が最後までやり通すよ。」
『・・・地味子。』
「本当は今すぐにでも手を貸してほしいくらいだけど、今回は私1人でやりきらなきゃいけない気がするの。だから、最後まで見守っていてくれると嬉しいな。」
無茶や大きな怪我をしない保証はできない。だから今は、これくらいしか言えないけど。
『・・・わかった。ただし、絶対に無事に戻ってきなさいよ?』
「ん、了解!」
破れない約束が1つできてしまった。期待されるのは好きじゃないけど、アンジェの期待にだけはちゃんと応えなきゃって、思う。
「問題は、私がどうやって大金星を挙げるか・・・。」
考えこむ。アデルさんと戦っているときはアデルさんに勝つ方法を必死に考えていた。でも、今思えば参加者誰にも勝てるビジョンが浮かんでいない。
最強のアデルさん。火を纏う魔導士キトゥン。超パワーのダグラスに風属性のタケル。エルーとヒューゴ、シュンは・・・よくわからない。
「なんとかなりそうなのはパワータイプのダグラスかなぁ・・・単純そうだし。」
「誰が単純そうだって?」
「うわあっ?!」
考え事に集中していて気づかなかった。いつの間にか目の前には強面の巨漢、ダグラスがいた。しかも最悪なことに、今の失礼極まりない独り言を聞かれていたらしい。
「だ、れ、が・・・単純だって?」
「いや・・・その、冗談っていうか・・・。」
ドスのきいた顔で迫られ逃げるように後ずさり。学校の帰り道で絡まれカツアゲされた不良を思い出す。こっちの方が断然怖いけど。
「まあいい、俺もまだ0Pなんでな。ここは確実に獲らせてもらうぞ。」
「えっと、できれば一旦落ち着いて・・・きゃあっ!」
後ずさりし続けていると私の踵に何か硬いものが当たり、バランスを崩して後ろ向きに倒れてしまった。
妙に甲高い声出ちゃった。恥ずかしい。
「いたた・・・あれ、これって・・・。」
私の足元に転がっていたのは小さな宝箱のようなもの。私は慌ててダグラスに見られないように隠した。
「おい、今隠したやつって・・・!」
「・・・見ちゃった?」
「ようやく見つけたぞ。お前を倒してそれを手に入れればめでたく賞金ゲットってわけだ。」
「あはは、そうなるよね・・・。」
ダグラスは自身の武器である大斧を振りかざす。私もすぐにナイフを取り出した。宝探し祭り開始から何時間も経った今、ようやく見つけた宝箱。次いつ見つけられるか分からない以上、これを盗られるわけにはいかない。
「悪いが嫁の金遣いが荒いせいで今月は厳しいんだ。本気でいかせてもらう。」
「私だって毎月厳しいんだから。アンジェのせいで。」
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3時間ほど前。宝探し祭り開始直後。
島の南側。
謎の男女が3人。
「ちょっと! この辺人の気配全然無いんだけど!」
「仕方ねぇだろ。遭遇したくないやつだっているんだよ。アデルとか。」
「えー、そんなやつ私がぶった斬るのに。」
「へぇ、お前にできんのか?」
「できるもん! 楽勝だもん!」
まるで子供のように言い争いをする2人と、それを無視して海岸をじっと見つめる少女。右手には鈴の付いた杖のようなものを持ち、地面に突いている。
「・・・静かにしてください。できるだけ場は荒らさずに。我々は喧嘩を売りに来たわけではないのです・・・。」
少女が口を開くと、2人は大人しく従った。
「けどよぉ、あんたが会いたいって言うからわざわざこんなところまで来たんだぜ? 俺が祭りの開催日を知ってたからよかったけどよ、もしそいつが参加しなかったらどうするつもりだったんだか・・・。」
「・・・それは有り得ません。私と彼女は必ず出会う。運命によって決められていることです。」
「そーかよ。」
少女は海岸に背を向けると、ジャングルへ向かって歩き出した。杖の鈴が綺麗な音色を奏でる。
「・・・行きますよ・・・シリウス、スパーダ。」
私の知らない脅威が、すぐそこまで迫っていた。
ありがとうございました。次もぜってー読んでくれよな☆