16話 第57回宝探し祭り ④
ちょこっと設定変えましたが、どうかお気になさらず。どうか。
『一方、島の北側では意外すぎる幼馴染対決だぁ! 「炎猫」のキトゥン対「天翔」のヒューゴ、勝つのはどっちだ?!』
「意外って・・・マスター、わざとボクらを近くに転送したくせに。ていうかマスターってなんで実況になるとあんなに性格変わるの?」
毎年そう。転送位置はマスターの自由だから、自分の好きなようにボクたちを配置する。最初に誰が誰と戦うのかは全部彼が決めているようなものなんだよね。シナリオもある程度彼の想定通り。まあ、それがちょっと気に食わないから覆すために頑張っているところもあるわけだけど。
「こんな時に考え事するなんて、余裕だな!」
「うわわ・・・!」
危なかった。ひぃちゃんことヒューゴの二丁拳銃から放たれた魔力の弾丸がボクの脇腹を掠める。
「ちょっとひぃちゃん! 不意打ちは卑怯だと思うんだけどー! それでも男か!」
「んなっ・・・きぃがぼーっとしてるからだろ! あとその呼び方やめろ!」
「えー、ひぃちゃんはひぃちゃんだよー。でも確かにひぃちゃんってのは変かも。ヒューゴだから、次からはひゅーちゃんって呼ぶね?」
「そういう問題じゃねぇぇぇ!」
ひぃちゃんもひゅーちゃんも可愛いと思うんだけどなあ。
「それにさっきから魔法も使わずに逃げ回るだけじゃないか。もしかして、さっきの実況が気になってるのか?」
「うん、まあ・・・。」
私が気になっているのは、30分くらい前の実況内容。
それを聞く限り、地味子ちゃんはアデルちゃんとぶつかったらしい。アデルちゃんはこういうとき絶対手を抜かないから、地味子ちゃんのことが心配すぎて戦いに集中できない。勢い余って殺しちゃったりしないよね? そこまで鬼じゃないよね?
「気になるなら尚更さっさと勝負をつけた方がいいんじゃないか?」
「うん、確かにそうなんだけどさー・・・。」
「・・・ちなみに、今ここで俺にわざと負ければ、すぐに地味子ちゃんの様子を見に行けるぞ?」
「あー、言われてみればそれが一番早いねー。」
全身の力を抜き、ボクの体の中に秘められた内なる魔力を解放する。体の中心から外へ向かって一気に熱が広がっていき、その熱が足元の草花をチリチリと焼いていく。
ボクの全身を真っ赤な炎が包む。これが、ボクが「炎猫」と呼ばれる理由。
「でもそれ、一番ありえないから。」
「言うと思ったよ。」
憑依型火属性魔法、火之迦具土。
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島の西側。
地味子の治療を済ませた私は、次の対戦相手を求めてジャングルの中を彷徨っていた。途中でシュンを見かけたので宝箱探しついでに軽く倒しておいたが、それ以降は誰とも遭遇しない。
「それにしても、さっきの地味子の行動には驚いたな。」
道具を使って逃げ回りながら時間を稼ぐだけかと思っていたが、まさか拳を握りしめて真正面から挑んでくるとはな。しかも、ただ馬鹿正直に向かってきたわけじゃない。どうすれば私に一撃を与えられるかをしっかり考えていた。
「無謀といえば無謀だが、保守的なだけの今までの地味子とは違うということか。これも1つの成長だな。祭りが終わったら褒めてやるか。」
私に褒められたときの、地味子の照れながらも喜んでいる表情が目に浮かぶ。普段は地味めで大人しいが、感情を表に出したときは魅力的で可愛らしい。いや、変な意味じゃなくて。
それにしても、本当に誰とも会わない。さっさとポイントを溜めて宝箱探しに集中したいんだが・・・。
「いやぁぁぁ! 助けてください~!」
「む・・・。」
遠くで女の叫び声が聞こえる。これはギルドの受付嬢、エルーの声だ。私は声のした方へ走る。
エルーの姿が見えた。誰かに追いかけられているようだ。だからといって助けるつもりはない。私は木の陰から様子を窺う。
「み、見逃してください~!」
「そういうわけに行くか! ポイントは頂いていくぞ!」
受付嬢の仕事をしている時とほぼ同じメイド服姿のエルーを、ギルド屈指の大男、ダグラスが斧を片手に追いかけている。強面の男がメイドを追いかけ回すという、ギルド内でもなかなか見慣れない珍しい光景だ。
エルーのいつもと違う点があるとすれば、戦闘用の黒いブーツを履いているところか。
「いい加減止まれぇぇぇ!」
「無理です! ダグラスさん怖すぎます! ポイントはあげますからどっか行ってください!」
「ポイント譲渡システムなんてねぇだろうが!」
「きゃあっ!」
ダグラスが斧を振り下ろすと刃が地面を叩き割り、凄まじい突風と土埃を巻き起こす。風圧に押され、エルーは前のめりに倒れてしまった。そのまま丸まってうずくまっているところを見るに、膝を擦りむいてしまったようだ。私は確信した。
「いたたた・・・あ、血が出てる・・・。」
「そろそろ決めさせてもらうぜ。」
「・・・おい。」
エルーの勝ちだ。
「ダグラス、てめぇ・・・。」
「へっ・・・?」
「乙女の体を傷つけるとか、何さらしてくれてんだコラァ!!」
「ぎゃあああああ!!」
鉄の強度を誇るブーツを履いたエルーの強烈な蹴りがダグラスの鍛え上げられた腹筋を破壊し、2メートル超えの大男を軽々と吹き飛ばした。ダグラスは何本もの木や枝を突き破り地面を転がった後、そのまま気絶した。
エルーは軽い物理的ダメージを負うとまるで別人のように豹変し、格段に戦闘力が上がる。ギルドの受付ばかりをしていてあまり目にすることは無いが、たまに行く仕事先で悪党や魔物に罵詈雑言を浴びせながらボコボコにしているらしい。ギルド内でも誤ってエルーの肩にぶつかってしまった屈強な戦士が病院送りにされたこともある。その姿から付いたあだ名は「激怒冥土」のエルー。
普段のおしとやかで温厚な姿からはとても想像できない。
「いつもメイド服着せられて膝出してんだからその辺り気を遣えっつってんだよ! まったく最近の男どもはどいつもこいつも・・・気遣いの1つや2つできねぇのか! あぁ?!」
「まあエルー、その辺にしておけ。」
「わっ、アデルさん?!」
眉間に皺をよせ悪言を吐いていた顔とは打って変わり、一瞬で受付モードの優しい顔に戻る。
「いつ見ても迫力あるな、お前の激怒モードは。」
「うわー・・・見られちゃってました? は、恥ずかしいです・・・。」
頬に手を当てて顔を赤らめる。さっきのエルーと今のエルーは本当に同一人物なのか。
「ところで、私もお前を倒してポイントを頂きたいんだが。」
「えぇっ?! わ、私とアデルさんが戦うんですか?! 無理! 無理ですよぉ・・・!」
慌てて逃げ出そうとするエルーの腕を掴む。
「離してください~!」
「まあ待て、一度落ち着いてこっちを向け。」
「な、なんですか・・・?」
普段は戦闘になると臆病ですぐに逃げ隠れしようとするエルーだが、どうしても戦いたい時には単純な方法がある。そう、激怒モードにしてやればいい。
私は軽いデコピンをくらわす。
「いたっ。」
デコピンした瞬間は可愛らしい反応をするエルーだが、徐々に表情が険しくなってくる。私は大剣を手にし、構える。
「おい・・・。」
「ふふっ、どうしたエルー。」
「どうしたじゃねぇよ・・・乙女の顔を傷つけるなんざ、トチ狂ったか? いい度胸してんじゃねぇかアデルぅ!!」
この豹変ぶりはいつ見ても面白い。
「3年前の仕事先で一緒になったとき、魔物と一緒にてめぇの攻撃に巻き込まれて怪我したこと忘れてねぇぞ! そのときの借り、キッチリ返してやる!!」
「そ、それ私じゃないぞ・・・?」
「つべこべ言ってんじゃねぇ! 覚悟しやがれ!!」
理不尽な因縁をつけられてしまったが、これでいい。
・・・いや、やっぱよくない。後でちゃんと誤解を解こう。後で。
ありがとうございました。秋ですね。読書の秋です。これからもどうぞよしなに。