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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
15/75

15話 第57回宝探し祭り ③

このお祭りは本当に何話続くんでしょうか・・・。

『おーっと、島の西側で新たなバトル発生だ! 我らがギルド最強の女戦士、「砕剣」のアデルと相対するのは・・・なんとギルドに加入してわずか数週間の新人、「奇跡の少女」地味子だぁぁぁ!』


上空のモニターから、鬱陶しいくらいに場の空気を読めていない実況が流れてくる。

なんだよ奇跡の少女って。一度たりとも呼ばれたことないよ。恥ずかしいよ、普通に。


「ぼーっとするな、怪我じゃ済まなくなるぞ。」

「ひぃっ・・・!」


間一髪でアデルさんの剣閃をかわす。運動神経皆無の私がアデルさんの攻撃をここまでかわし続けているのは奇跡に近い。まさに奇跡の少女だ。いや、やっぱ恥ずかしいわ。


「すぐに終わらせるつもりだったんだが、意外にすばしっこいな。」

「まあ、怪我するの嫌なので・・・。」

「ならもう少し本気を出しても問題なさそうだな。」

「・・・はい?」


本当に一瞬だった。

反応するどころか視界に捉える事すらできない。槍のように突き出された大剣が私の頬を掠める。しばらくして頬が熱くなり、耐え難い痛みが私を襲う。


「うぁ・・・!」


思わず足の力が抜け尻餅をついてしまった。体を丸め、ズキズキと痛む頬を手のひらで押さえることしかできない。

痛い・・・今まで味わったどの痛みよりも、遥かに痛い・・・!


「どうした、腰が抜けたか?」

「正直、顔を狙ってくるのは・・・予想外でした・・・。」

「安心しろ、ちゃんと治癒で治しておいてやる。」

「ならいいですけど。」

「なんだ、顔に傷が残るのを気にするなんて意外だな。」

「・・・いちおう、女の子ですから!」


喋っている隙に懐の煙幕を握り、アデルさんへ向けて投げつけた。アデルさんは大剣で防ごうとするけど関係ない。ボールが弾け白い煙が辺り一面に広がる。


「煙幕か・・・なんだ、逃げたのか?」


逃げたわけじゃない。アデルさんの視界が遮られているうちに、すぐそばの木の陰に隠れた。逃げると脱落になっちゃうし。


「さて、これからどうしよ・・・。」


私なんかがアデルさんに勝てるビジョンなんて当然見えていない。でもアデルさんはパワーファイターだから、不意打ちならなんとかなる。たぶん。

アデルさんが予想できないような攻撃・・・。


「いい加減出てきたらどうだ、地味子。」


足音が徐々に近づいてくる。頬の傷はまだ痛む。頬を押さえていた手を見ると、べっとりと血が付いていた。心臓の鼓動が早くなるのがわかる。

今までずっと味方でいてくれたアデルさんを、初めて怖いと感じる。恐怖と緊張で息が切れてきた。


「怖い・・・。」


初めて言葉にした瞬間、より一層強い恐怖心が私を押しつぶそうとする。

ドクン、ドクン、ドクン・・・。

鼓動はさらに早くなり、はっきりと聞こえてくる。


「そこか。」


私は嫌な予感を感じ取り、とっさにその場にしゃがむ。私の頭のすぐ上で大剣が、まるで紙を斬るかのように木を両断する。真っ二つにされた木が周りの枝を巻き込みながら大きな音を立てて倒れる。


「な、なんで・・・?!」

「気配が消せてないな。それではどこに隠れても意味がないぞ・・・私を相手にしている限りはな。」


逃げられない。隠れられない。

アデルさんの凄まじい迫力が私の肌にビリビリと響く。これが本気になったギルド最強の戦士。突き刺すような威圧感。面と向かっているだけで呼吸が苦しくなってくる。


以前の私なら迷うことなく脱落を選んでいたはず。

そのはずなのにどうしてだろう。シェブールという魔物の溢れる危険な世界でもう何日も過ごしているから、少し図太くなったのかな。もちろん怖いし、痛い思いもしたくない。それなのに今は・・・。


負けたくない。


僅か。本当に僅かだけど、そんな気持ちが私の中で生まれていた。

護身用ナイフを取り出し、アデルさんの動きに全神経を集中させる。頬の傷の痛みはいつの間にか感じなくなっていた。


「・・・目つきが変わったな。何があった?」

「別に何もないですよ。ただ、ちょっとだけ頑張ってみようかなって思っただけです。」

「そうか。まあ、なんでもいい。」


アデルさんはクスッと笑い、私に刃を向ける。


「私はお前に全力でぶつかるだけだ。」


落ち着け私・・・落ち着いて行動しろ。どれだけ強くても、相手は私と同じく魔法の使えない生身の人間。勝てる可能性は1%くらい残ってる。

自分にそう言い聞かせ、煙幕を握りしめる。


「なんだ、また隠れる気か?」

「さあ、どうでしょうね!」


再び煙幕を投げつける。大量の煙に囲まれ視界の遮られたアデルさんは、下手に動こうとせずに立ち尽くす。

私はアデルさんが完全に煙に包まれるのを待ち、ナイフを構えた。


「普通に当たって傷を負わせられれば嬉しいんだけど、それはないよね。」


それを思い切り投げつけるも、渇いた金属音が鳴る。見えていないままあっさり弾かれた。これは予想通り。私は慌てずに次の行動に移る。


しばらくして徐々に煙が晴れてきた。もう足元を覆うくらいにしか残っていない。でも、それで十分。あとはうまくいってくれれば・・・。


「煙の中で何かしていたようだが、特に変わったところは見当たらないな。」

「それはどうでしょう。」

「お前と会うまでに何人か倒したんだが、まだ宝箱を見つけられていなくてな。悪いがそろそろ終わらせるぞ。」


土埃が舞うほど地面を強く蹴り、アデルさんは一直線に私に向かってくる。私も迷わずアデルさんに向かって走り出す。距離はわずか数メートル。


「真正面から向かってくるのは予想外だな。闇雲に攻撃しても私には通用しな・・・っ?!」


かかった。残った煙に紛れて姿を隠していた、地面近くに張ったロープ。それに足が引っ掛かり、勢い余ったアデルさんはバランスを崩して宙に投げ出される。

その瞬間、私は一気に距離を詰めて拳を思い切り握りしめる。

人を殴った事なんてもちろん無い。私は覚悟を決めてアデルさんの頬に照準を定めた。


「アデルさん・・・ごめんなさい!」


全体重、全腕力の乗ったパンチを放った。

他人の血はあまり見たくなかったから、目は瞑ったまま。だけどこの距離なら外れることは無いと思った。


手応えは無かった。

的を外したわけじゃない。アデルさんは空中で素早く体を捻り、私の渾身のパンチをかわしていた。

宙に浮いたままでは避けられないだろうと考えていた、私の判断ミスだった。


「うそ・・・。」

「惜しかったな、10年前の私なら避けられなかっただろう。」


次の瞬間、お腹に強い衝撃が走る。鍛えられていない私の柔肌にアデルさんの回し蹴りが、ブーツの踵が見えなくなるくらいめり込んでいた。一瞬の出来事で全く反応できなかった。

私はそのまま蹴り飛ばされ、クモの巣状のクレーターを作るほど強く巨木に叩きつけられた。


「ぐっ・・・ぁ・・・!」


力なく地面に崩れ落ちる。

お腹が引き裂かれるかのように痛い。背中は焼けるように熱い。口の中は血の味がする。呼吸ができない。

苦しい・・・痛い・・・。

死ぬ・・・・・・?


「まずいな、少し力が入りすぎたか・・・今すぐ治癒で治してやる。」


両手足に力が入らず、立つことはおろか動くことすらできない。口からは唾液と混じった血が滴り落ちている。視界がぼやけてきた。


「おい、地味子?!」


徐々にアデルさんの声が遠くなり、聞こえなくなってきた。私の名前を何度も呼んでいるみたい。呼びかけに応じたいけど、今は無理・・・。


全身がたまらなく痛いのに、不思議と眠気に襲われる。



私の意識は、そこで途切れた。




ありがとうございました。長くなりそうですが、どうぞよしなに・・・。

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