14話 第57回宝探し祭り ②
14話です。のんびりいきます。柿の種うめぇ。
宝探し祭り開始から10分。
私は巨木にぽっかりと開いた穴の中に隠れていた。
無理無理無理無理。怖い。怖すぎる。
他の参加者が怖いわけじゃない。いや、もちろんそれもあるんだけど。
さっきから地響きのような音と振動が絶え間なく続いている。この感じ・・・似たようなものを記憶している。初めての仕事で森にいた時に聞いた、巨大なレッドウルフのボスの足音。
しかも今回の足音は、それよりも遥かに大きい。
「あのバケモノよりもでかい奴がこの島に・・・いやもう無理絶対無理。さっさと帰りたい・・・。」
私が穴の中で丸まって震えていると、上空に浮かび上がっているモニターから聞き慣れたやかましい声が聞こえてくる。
『地味子、あんたさっきから何やってんのよ! さっさと穴から出てお宝探してきなさい!』
「うっさいクソ妖精! 人の気も知らないで!」
今日はアンジェの晩ご飯は抜き。決定。
「でも、アンジェの言う通りだよね。日没までここにいるわけにもいかないし・・・気をつけて進めばきっとバケモノには見つからずに・・・。」
意を決して穴から出ようとする私は、すぐに足を止めた。覚悟を決めた私の決心は一瞬で崩れ去った。
私を含めた辺り一面を、黒い影が覆っていた。猛獣の威嚇するような低い声がすぐそばで聞こえる。
「・・・まさか・・・・・・。」
だいたいどういう状況か理解はできているけど、とりあえず顔を上げる。
目の前にいたのは、見たことも無いようなサイズのバケモノ。以前対峙したレッドウルフのボスが可愛く見えてしまうほど、圧倒的な威圧感をまとう巨大な猛獣だった。シェブールに来てから数週間、死を覚悟したのはこれで何回目だろう。
「いやあああ!」
私の中に眠る乏しい運動能力をフル稼働させ穴の奥へと逃げ込む。バケモノは手を突っ込んで私を引っ張り出そうとする。が、幸い穴は奥深くまで続いていて、バケモノの爪はギリギリ私には届かない。
「あ、危な・・・今度こそ本当に死ぬかと思った・・・。」
助かったはいいけど、どうしよう。バケモノは諦めずに何度も私に手を伸ばしている。その鋭く大きな爪はガリガリと地面を抉り、傷を繰り返しつけていく。このままじゃ出られない。
「以前のレッドウルフの時は、アデルさんが助けてくれたんだっけ。私、いつも助けられてばかりのような・・・。」
いい加減自分でなんとかできるようにならないとね・・・。
私は手持ちの道具で何ができるのか考えてみる。護身用ナイフ数本、逃走用煙幕数個、ロープ、ヘルココナッツの即死ジュース(瓶詰)、お昼に食べようと思っているコロ肉サンドイッチ。
「ナイフに即死ジュース付着させて刺す? いや、それは鉤爪が危なくて無理。じゃあ煙幕で目くらまし? そもそも逃げ場がない。ロープは・・・今は使えなさそう。」
うわー、私の手持ちアイテム酷すぎ・・・ゲームの初期装備でもこれよりまともなアイテム持ってるよ。もうちょっと使えそうなものを買っておくべきだった・・・。
「お腹空いたし、サンドイッチ食べちゃお。」
紙袋を開け、サンドイッチを一切れ取り出す。指に付いたソースを舐め取り、かじりつく。肉汁が口の中に溢れ、柔らかなお肉とシャキシャキとした野菜の食感の違いが楽しい。
「ん、美味しい。お肉はジューシーで野菜も新鮮、まるで旨味の宝石箱や・・・。」
バケモノの魔の手がすぐそこまで迫っていることも忘れ、一時の至福に浸る。シェブールに来てからパンやお肉、果物しか食べていない。どうやらこの世界にはお米というものが無いらしい。日本人としては少し寂しいけど、その分お肉が美味しいので良しとする。
それにしても、本当にお肉が美味しい。お肉が・・・お肉・・・。
「これだ!」
私は閃いた。サンドイッチをもう一切れ取り出し、お肉以外のパンと野菜を食べる。残ったお肉に瓶詰の即死ジュースを付着させ、バケモノの顔に向かって投げつけた。
「ほーら、ご飯ですよー!」
バケモノは警戒もせずそのお肉に食いついた。まともに咀嚼もせずに飲み込む。見た目肉食獣っぽかったから、予想通り!
飲み込んで僅か数秒、バケモノは白目をむいて崩れ落ちた。相変わらず恐ろしい威力の即死ジュース・・・。
私はようやく穴から脱出することができた。何分経っちゃったかわからないけど、早いとこお宝見つけに行かないと。そして隙を見つけて参加者を不意打ち・・・それはちょっとズルいかな。
「誰かと思えば、地味子じゃないか。」
「この声・・・アデルさん?」
バケモノの死体の陰から、かじりかけの蒼リンゴの果実を片手にしたアデルさんが顔を覗かせる。
「さっきからこの猛獣が何をしているのか観察していたんだが、地味子を狙っていたのか。よく1人で倒せたな。」
「はい、なんとか・・・。」
「さすがは私の命の恩人といったところか。」
「それ、やっぱりアデルさんが広めてたんですか・・・なんか噂に尾ひれが付きまくってるんですけど。」
とんでもない戦闘力を隠しているとか、最強のルーキーだとか。最近はもう期待されているのかバカにされているのかよくわからない。
期待されて勝手に期待外れとか言われるくらいなら、バカにされた方が断然マシだけど。
「どうした地味子?」
「あっ、いえ・・・なんでも。」
「なら、そろそろ始めるか。」
「始めるって、何を?」
アデルさんは私から少し離れると、背負っていた大剣を構えた。
「何って、ルールを聞いていなかったのか?」
私の全身の血の気が引いていくのがわかった。ルールその2、参加者と遭遇した場合強制バトル。
今私の目の前にはギルド最強の戦士、アデルさんがいる。
「・・・放棄した場合、どうなります?」
「ルールを破ったら脱落だぞ。」
「・・・トイレ休憩とか。」
「じゃあ待ってるからその辺でしてこい。覗かないから。」
さっきのバケモノと遭遇した時以上の恐怖が私を襲った。
あ、でも大丈夫だよね。アデルさん優しいから手加減してくれるよね。うん、きっとそう。だから安心。私たちお友達だもんね!
「あの・・・怪我するのも良くないですし、お手柔らかに・・・。」
「言っておくが手加減はできんぞ。やるからには本気で潰す。」
泣きそう。
ありがとうございました。コツコツ投稿していきたいです。