13話 第57回宝探し祭り ①
こういうゲームっぽいのやってみたかったり。
「これより、第57回宝探し祭りを開催します!!」
翌朝ギルドに行ってみると、辺りは耳をつんざくくらいの歓声が沸き起こっていた。私は人ごみを掻き分けてなんとかギルドの中に入る。
「うわぁ、本当に大きなお祭りなんだね。ギルドのみんなだけじゃない、町の人まで集まってる。ていうかうるさ・・・。」
「地味子、こっちの席空いてるわよ!」
「アンジェ! もう、どうして先に行っちゃうの? 起こしてくれればよかったのに・・・。」
「ふふ、ちょっとね。」
テーブルにはアンジェだけじゃなく、アデルさんとキトゥンが一緒にいた。なんだか楽しそうに話している。アンジェってアデルさんのこといけ好かないとか言ってなかったっけ。
「3人とも知り合いだったの?」
「けっこう前からね。たまに3人でお茶したりもしてるわよ。」
「ちょっ・・・ナチュラルに私をハブるのやめてくれない?!」
今度乱入してやる。
「アデルさんとキトゥンはお祭り参加するんですか?」
「ボクは毎年参加してるよー。」
「私は初参加だ。」
そういえばアデルさんって1年前にギルドに来たばかりなんだっけ。キトゥンよりも年上っぽいのにギルドでは新人・・・なんだか変な感じ。
「それにしても、アデルが参加するなんて意外ね。祭りとかお宝とか興味なさそうだけど。」
「宝自体に興味は無いな。」
「じゃあなんで?」
アデルさんをよく見ると、さっきからそわそわしていて落ち着きがない。
「その・・・ほら、あれだ。宝探しって、なんだか楽しそうでワクワクするだろう?」
「あぁ・・・そうね。」
部屋の趣味といい、アデルさんはどこか子供っぽいところがある。まるで遠足前の小学生のよう。
「もしかして、昨晩は楽しみで眠れなかったとかですか?」
「な、なぜわかる?! 私の部屋を覗いたのか?!」
「覗くとか以前に、そもそも私たち同じ部屋ですし・・・。」
体質も子供なのだろうか。普段は大人っぽくて格好いいのにそういう一面があるなんて、ギャップって言うんだっけ。可愛らしくてなんかズルい。
「地味子ちゃんってアデルちゃんと同じ部屋なのー? いいなぁ、アデルちゃんの部屋入ったことないんだよねー。今度入れてよ!」
「いや、それは・・・。」
そういえば、アデルさんのファンシーなベッドルームについては他言禁止だった。アデルさんに睨まれる。
やばいやばい・・・余計なこと言っちゃった。ヘタしたら殺される・・・!
「ダメなの?」
「えーっと・・・あ! ほらキトゥン、もうすぐお祭り始まるみたいだよ!」
「ほんとだ、マスター出てきたー!」
助かった。アデルさんも一息つき安堵している。
奥の扉からマスターが登場したと同時、ギルド全体がより一層の歓声に包まれる。マスターはなぜか壇上に上がらず、真っ直ぐに私たちのテーブルの前まで近づいてきた。
「ここの席は随分と美人が揃っているね。このまま祭りなんて中止にしてみんなで遊びにでも行こうか。それともホテル・・・痛っ!」
「いいから早く進行してください変態。」
アデルさんが女好き変態マスターの脇腹を大剣の柄で小突く。マスターは年下の女の人に喝を入れられると、そそくさと壇上へ逃げて行った。ギルドマスターなのに威厳の欠片もない。
「えー、では・・・今年の宝探し祭りの参加者を早速発表しよう。ルールの説明は参加者全員を転送してから行う。今年の参加者はこの8人だ!」
マスターが合図をすると、魔法によって宙に描かれた長方形がモニターのように変化し、ギルドメンバーの顔と名前が映し出される。あまり話さないけど、よく知っている顔ばかりだ。
「受付のエルーちゃんも参加するんだねー。」
「私とキトゥンはもちろん、ヒューゴにダグラスも参加するのか。」
「私が知らない人もいる・・・タケルにシュン、地味子・・・ん?」
地味子・・・? 見間違いかな?
でも明らかに私のあだ名と顔写真が・・・。
「あの、アデルさん・・・このお祭りって、新人は強制参加とかそういう風習があるんですか?」
「いや、今日の早朝までにエントリーしないと参加できないぞ。」
「私、エントリーした記憶無いんですけど・・・。」
「代わりに私がやっておいたわよ。」
アンジェの発言に耳を疑った。
「えぇっ! その為に今朝早く出て行ったの?! ていうかなんで?! 私参加する気なんてなかったのに!」
「何言ってるのよ、お宝を見つけると賞金が出るのよ? 金欠の私たちにはうってつけのお祭りじゃない!」
「じゃあアンジェが出ればいいでしょ! 金欠はアンジェの大食いが原因なんだから!」
「こんな危なっかしいお祭り、私が出るわけないでしょ! 殺す気か!」
「そのセリフそっくりそのまま返すよバカ!」
私とアンジェの言い争いをよそに、マスターは進行しギルド中は盛り上がりを増していく。
「さっそく転送するから、参加者は僕の横に並んでくれるかな。」
ギルドの名だたる戦士たちが続々と壇上に集まっている。私、本当に参加するの・・・?
「何をやっている? ほら行くぞ。」
「地味子ちゃん、早く早くー!」
アデルさんとキトゥンにも急かされ、アンジェにも背中を押される。私はアンジェを横目で1度睨んだ後、思い切って腹を括った。
こうなってしまったからには仕方ない。どうせ参加するなら、少しでいいから賞金を持って帰る! 今後の生活のために!
私たち参加者は壇上で円になり手を繋いだ。マスターが魔力を解放すると次の瞬間、見慣れたギルドの内装とは打って変わって視界一面に緑色の景色が広がった。今の今まで手を繋いでいた参加者たちの姿は無く、私は鳥や動物たちの鳴き声が響き渡るジャングルに1人でぽつんと立っている。
「ここが宝探し祭りの会場の孤島?」
辺りを見回していると、上空にギルドで見たものとは比べ物にならないほどの巨大なモニターが現れる。画面にはマスターの顔がどアップで映し出されている。距離感を考えようマスター。
あのモニターでギルド内にも島の様子が映し出されるって仕組みらしい。
『みんなをアクシア海の孤島にランダムに配置させてもらったよ。さて、これからルール説明するんだけど・・・面倒だから箇条書きにさせてもらうよ。』
第57回宝探し祭りルール説明。
1、各所に配置された宝箱を探し出す
2、参加者と遭遇した場合強制バトル(初期持ち点は0P、勝者は+1P)
3、宝箱を発見した場合賞金獲得(宝の額×持ち点が賞金)
4、持ち点は1度賞金を獲得すると0に戻る
5、制限時間は日が沈むまで
『以上が今回のルールだ。』
うわ、説明のしかた雑だなぁ・・・。確かに一言一言口で説明するのは面倒臭いけど。まあシンプルでわかりやすいし別にいいか。
「強制バトルは嫌だなぁ。なんとか誰とも遭遇せずに宝箱を見つけて、それから日が沈むまでどこかに隠れ・・・ん?」
私はあることに気が付き凍りつく。
獲得できる賞金は見つけた宝の額×持ち点。それで、初期持ち点は0・・・。
・・・・・・ぜろ?
0にはどんな数字をかけても0になるってことを、小学校の算数で習った気がする。
それってつまり、屈強な参加者たち相手に最低でも1勝しないと賞金を貰えないってこと?!
「やばい・・・変な汗出てきた・・・。」
私本当に参加する意味無かったかも・・・。
『それでは、第57回宝探し祭り、開催!!』
ありがとうございました。このお祭り何話続くんでしょうね。