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第47話 魔王の力

「3人とも、相談なんだけどいいかな?」


時刻は夜、シドーに宛てがわれた仮設住宅内にサヤ、ルシア、スゥーリアを呼び話を切り出した。


「どうしました?魔王様?何か御困り事でも?」

「・・・・ウミウシの話の続き?」

「こんな時間にお風呂上がりの美少女3人捕まえて何する気なの~シドーく~ん♡」


スゥーリアの言う通り、3人とも湯上りといった様子で髪をおろしていたり、色白な肌が少し赤く染まっていた。服装も寝間着に近いかなりラフな格好だった。


「それに関しては申し訳ない。丁度3人一緒だったから都合が良いと思って。時間は取らせない」

「いえいえ!こちらこそ、こんな御見苦しい姿で・・・」


サヤは恥ずかしそうに身をよじって隠そうとするが、よく鍛えられ引き締まった肢体をより強調する形になってしまっている。いつもはポニーテールにしている髪もおろしているため、何時もと雰囲気が異なっている。


「・・・・眠いから手短に」


以前にもあったようにルシアは風呂上がりは眠くなるようでかなりウトウトしていた。普段帽子で隠れている水色の髪と火照った頬は薄ら湿っており、緩い服装も相まって浮かび上がる身体のラインが独特の色気を醸し出していた。


そしてスゥーリアも・・・


「ん、わかってるよルシア。たいしたことじゃないからすぐ済ませ」

「ちょいちょいちょい!あたしには?あたしの湯上り姿にはなんの感想も無しですか?」

「?・・・何を言ってるんだ?俺は何も・・」

「いいから!ほら!あたしの格好を見て!何か思う事はないの?」

「ええ・・・?」


シドーは困惑しながらもスゥーリアを見つめる。

透き通るような長く薄い金髪、華奢な手足、寝間着から除く火照った白い肌・・・


「・・・風邪、引かないようにな?」

「短い間、クソお世話になりました」


そう言い捨てて部屋から出ていこうとするスゥーリアを必死に宥め、シドーは改めて話を切り出す。


「話っていうのは他でもない。俺の、魔王の力のことだ」


シドーの声色と話の内容に、3人の顔に緊張が走る。


「それは・・魔王様の魔法のことですか?」

「・・・闇属性・・・重力魔法」

「あの・・・森の悪魔とか獣王の大広間を潰したり、瓦礫を浮かばせる魔法・・だよね」

「それらはあくまで俺自身の魔法の力だ。俺が今気になっているのは・・・俺の中にあるドス黒い力の塊のことだ。・・・戦っている最中気分が高まると急に出てくるんだ。俺の意識とは明らかに別の何か・・・誰かの力が」


天使ガブリエル戦、森の悪魔戦、獣人王レオルド戦、どの戦いの最中にもその片鱗は見えていた。それは3人も見ている。普段のシドーとは異なる異質なものを。


「ルシア・・・もしかして」

「・・・もしかしなくてもそう、継承している」

「継承?」

「まおーさまの中に、歴代の魔王の力が継承されている」

「え?」

「ちょっ・・ちょっとまって!」


声をあげたのはスゥーリア。その声音は若干震えていた。


「あたしはシドーくんは別の世界?から魔王の資格を持ってこの世界に来たって聞いてたけど、元々別の世界にいたはずのシドーくんにこの世界の歴代魔王の力がいつ引継がれたの?」

「・・・・おそらく魔王様がこの世界に来た時に、魔王の資格と共に与えられたとしか・・・」

「継承って・・・魔王の座と力は魔人族の中の誰かが代々引き継いで来たってことだよな?」

「ええ、そうです。魔人族の中で力、魔力、統率力、知力に優れた者の中から選ばれた者が魔王となり、力を継承してきたのです。

「もしかして・・・異世界から来た人が魔王になったのって俺が初めてなのか?」

「そうだよ!そんな話聞いた事」


「違う」


ぴしゃりとルシアが断言する。普段の様子とは異なる姿にその場にいる全員が唖然とする。そんなシドー達を無視してルシアは続ける。


「・・・何万年・・それこそ、この世界の始まりの時にいた始祖の中に初代魔王もいた。初代魔王も含め始祖達は皆、異なる世界の住人だったと言い伝えられている」

「てことは・・」

「・・・初代と同じ。もっとよく調べればもしかしたらまおーさまと同じように異世界から召喚された魔王もいるかもしれない。珍しいケースではあるけど前例がないわけではない」


ルシアの話を聞いてシドーは内心ほっとする。前例も何も無い全くのイレギュラーな存在だった場合、この未知の力の根源を知ることができなかったからである。とはいえ


(まさかガチャ引いて当てた・・・なんて今更言えないよな。まさかあのガチャの時点で歴代魔王の力が入っていたなんてことはない・・はず。歴代魔王が死んだ俺にあのガチャを当てさせたなんてのは話がうますぎる)


シドーは転生時のことに関して多くは語らない事にした。それよりも、と3人に向き直る。


「話を戻すけど、要はその歴代魔王の力を制御できるようにしたいんだ。セレナ樹海も獣人の山も滅茶苦茶にしちまったからな。もし万が一、暴走なんてことになったらこの世界を滅ぼす正真正銘の『魔王』になっちまう。魔人族の今後のためにも、この力を制御しなきゃならないんだ」

「流石です魔王様!・・・ですが・・具体的にどのような方法をお考えでしょうか?勿論、必要とならばこの身を捧げてもかまいませんが」

「それは・・・最初は魔力の扱いに長けてるルシアに手伝ってもらうつもりだったんだ。でも、今の歴代魔王の話を聞いてスケールが違うなって思ってさ。なにか良い方法はないかな?」

「・・・魔力の制御ならなんとかできるかもしれないけど、まおーさまの力は大きすぎ。歴代魔王について詳しい人が・・・」

「それなら、あたし達よりずっっっと永く生きてる人に聞けばいいんだよ!」


全員の視線がスゥーリアに向く。


「あたし達よりって、森人族の長老衆とかか?失礼ながらその人達よりうんと昔の話になるかもしれないぞ?」

「違う違う、あーんなボケ始めてるじいちゃんばあちゃんより永く生きてる・・・ていうかこの世界をずっと見守ってきた一族がいるじゃん」

「・・・・もしかして、冥人族・・」

「ルシアたん正解!」


ペチンっとスゥーリアがルシアの胸を叩く。ぽよんと音が聴こえそうな勢いでルシアの胸が弾む。


「・・・痛い」

「うん、あたしも心が痛くなったわ」

「そんなことより、確かに彼等なら歴史の全てを知っているはず!きっと何かしらの手がかりがあると思います」


それぞれ肉体と精神に苦痛を覚えた2人を置いてサヤが身を乗り出す。


「冥人族か・・・確か寿命の概念がない種族だよな?話は聞いたけどどんな人達なんだ?」


シドーは嫌な予感を感じながらサヤに尋ねる。


「私も直接会ったことはありません。なにしろ彼らの住まう冥界グリモアはマノクニからも離れてますからね」

「・・・グリモアは別名、『世界の裏側』とも言われてる。冥人族自体あの国から滅多に出てこない。先の魔王大戦時も最後まで中立を貫いていたとしか知らない」

「あたしも同じく~。・・・あ、もしかしたらエドワードとルークなら、グリモアの場所ぐらいなら知ってるかも!」

「本当か!」

「たぶん・・・昔父さんと一緒に各国を旅したことがあるって言ってたし」

「それなら明日2人に聞きに行こう!3人ともありがとう!」


シドーが礼を言うと3人は顔を見合わせて微笑む。


「いえ、こちらこそ。魔王様が私達を頼ってくれたこと、嬉しく思います」

「・・・・(コクリ)」

「照れるなあもう!よし!今日はここでみんなでお泊まり」

「魔王様、おやすみなさいませ」

「ああああ!待ってサヤちん自分で歩くから引っ張らないで耳ちぎれる~らめえぇぇ・・・」


サヤが駄々をこねるスゥーリアと、眠気の限界に達していたルシアを連れて自分達の仮設住宅へ戻っていく。あっという間にシドーの部屋は静かになってしまった。


「いいな~幼馴染ってのは。あんなふうに気兼ねなく接してくれる友達・・・いなかったな、

俺には」


ゴロンとベッドに横になる。自分もいつかサヤ達と気軽に接したり、あるいはサヤ達の様な友人関係を結べる相手ができればな、と密かに願いながら瞳を閉じて眠りについた。


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