魔王の在り方
決着がつき、気を抜いた瞬間シドーの体をとてつもない疲労感と頭痛が襲う。
「あ・・れ・・?。今回は、そんなに魔法使ってないのひ・・・」
膝が笑いその場に崩れ落ちる。脳は立てと命令しているのに体がちっとも反応しない。
「シドー君!?」
スゥーリアが慌てて駆け寄る。ちなみにスゥーリアを追いかけ回していた獣人兵士たちは一人残らず床にのびていた。装備が充実した分、獣人本来の素早さが失われ、それを見抜いたスゥーリアの風魔法を用いた加速と遠距離射撃というチキン・・・ヒット&アウェイ戦法がハマりにハマったのだ。
「んしょっ!シドー君意外と重い!自分の体重も軽くできないの?」
「悪い・・・今はそんな余裕もない・・・」
スゥーリアに肩を貸してもらい、息も絶え絶えに広間から出ようとすると、凄まじい地響きと共に天井の崩落が始まる。どうやらシドーの意識が弱まったことで、重力魔法の効果が切れたようだった。
「ちょっちょっまっ!?ヤバイよヤバイよシドー君!てかこれシドー君のせいじゃん!」
スゥーリアが前世にいた某リアクション芸人のようなことを叫んだり怒ったり、それでも疲弊した体に鞭を打って動けないシドーを引っ張る。
「置いて行け・・・俺の防御力なら、こんな瓦礫ぐらい・・・」
その言葉を聞いた瞬間、スゥーリアの堪忍袋の緒が今度こそ切れた。形の良い眉を吊り上げ、普段の彼女からは想像できないほどの怒声をあげる。
「何バカなこといってんの!?友達を置いていけるわけないじゃん!次そんなこと言ったらぶっとばすよ!」
「!?・・・悪い、スゥーリア。ありが」
「それにもし置いていったりなんかしたら、私がサヤちんとルシアたんに殺されちゃうよ!」
「・・・返せ、さっきまでの俺の感謝の気持ちを。」
内心呆れつつ、スゥーリアらしいなと思った。同時にシドーは嬉しく思う。
(友達か・・・・そういえば、スゥーリアだけは俺に対して普通の同級生みたいに接してくれるのは)
サヤは言わずもがな、ルシアも敬語ではないがシドーに対しては自身の王として接している・・・はず。
そんな二人に対してスゥーリアは君付けで名前を呼び、フランクに接してくれている。元々サバサバしているというのもあるだろうけど。
「ありがとうな、スゥーリア。」
「・・・ん。べ、別に。当然でしょ?あと、さっきの発言はちゃんとサヤちんに報告させてもらうからね。」
「聞かなかったことにしてくれないか?友達だろう?」
「やだ」
そんなやり取りをしながらも、なんとか瓦礫に潰されずに広間の出口にたどり着く。その瞬間、轟音と共に広間の天井の一部が崩落し、レオルドの遺体を埋め尽くす。
「・・・・スゥーリア。もう大丈夫だ。」
「いいの?」
スゥーリアの問いにシドーは頷き、自力で立つと、レオルドの墓標代わりとなった大岩の方に向き直る。
「和平を結べたら、一緒に飯でも食べながら国の在り方について話したかったな」
「しょうがないよ。獣の本能を抑えきれずに戦争を起こそうとしていたんだから。それより、サヤちん達は上手くいったかな?」」
「・・・・二人は上手くやってくれたみたいだ。遠くに二人の魔力と、大勢の人の魔力を感じる。」
魔眼を発動させられるぐらいには回復したシドーが告げる。なら急ごうと二人は獣人達の城を後にするのだった。
「!!御無事でしたか魔王様!」
サヤとルシアは、囚われていた獣人族の女性達を連れ、城から数キロ離れた集落の跡地へと避難していた。そこで休息を取りつつシドー達の帰りを待っていた。
そこへシドーとスゥーリアが合流するが、一番にサヤが飛び出してきて、シドーの無事を確認する。
「あ、ああ。城を乗っ取ってた獣人族の新王と戦ったけど特に怪我らしい怪我
は・・」
「ああ!!魔王様!頬に痣が!それにどこかぎこちない様子ですし、服を脱いで見せてもらえないでしょうか?」
「いや、本当にもう大丈夫だから、ああ!やめて、脱がそうとしないで!」
「あたしの心配はないのかよ・・・あれ?ルシアたんは?」
「ああ、スゥーリアも無事で良かった。ルシアなら、ここについた後、ミリアを連れてくると言って転移魔法で・・・っと、ちょうど戻ってきましたね。」
みょんみょんみょんみょんみょんみょんみょんと不思議な空間のうねりと共に、その中心から見慣れた青髪とローブ姿が飛び出してくる。
「・・・・呼ばれてとび出てなんとやら、・・・おや、お取り込み中でしたか」
ジトッと睨み付ける視線の先にはシドーに覆い被さって服や鎧を脱がそうとするサヤ、傍から見れば事案発生である。
「バッ!?バカなことを言うなルシア!私が魔王様を・・だなんて恐れ多い!・・その逆ならまだしも・・・」
「「え?」」
「え?・・・ああ!違うんです!魔王様誤解です!
誤解み”ゃっ!?」
「・・・小さい子の前でふしだらな」
脳天にルシアの杖の一撃を喰らい沈黙するサヤ。
そして何事も無かったかのようにローブをまくり上げるルシア
「ってお前も他人の事言えるか!」
「そのわりにはがっつり見てんじゃんシドーくんのすけべぇ」
「おにいちゃん!」
ローブの中から5歳くらいの犬耳としっぽを生やした女児がとびだしてきてシドーに抱き着いた。
「ミリア!元気だったか?」
「うん、ミリア元気だったよ!」
その無邪気な笑顔に安心すると同時に、これから伝えなければいけない残酷な現実にシドーは一抹の不安を感じるのだった。
新作もお願いします
https://ncode.syosetu.com/n1520hp/




