激突!獣人王
『嫌われ者異世界に捨てられる』の方もよろしくお願いいたします!
「シドー君、サヤちん達上手くいったみたいだよ」
「そうか・・なら一安心だな。」
スゥーリアが長い耳をぴこぴこさせながらシドーに耳打ちする。
サヤとルシアが荷車の人質の中に紛れて侵入すると言い出したときは驚いたが人質の救出が最優先だという二人の意思を尊重した。
因みにシドーとスゥーリアはサヤ達が建物の中に入った直後に気配を消して侵入。一応魔人族の王と森人族の次期族長という獣人族の王とほぼ対等な二人が直談判という流れだったのだが、
「てめぇらここが何処だかわかってんのか!?ああ⁉」
「ゴイヅライヅノマニ・・・」
獣人族の王に報告に行くクロとベヒモスの跡を追跡して、王がいる大広間に出た瞬間スゥーリアが魔法を解く。突然背後に現れたシドー達に焦ったのはクロ。
跡をつけられてるとも知らずに正体不明の奴等を王の間へと案内してしまったからだ。
「俺はマノクニの魔王シドー。旅の途中、麓の村が壊滅しているのに気づき、獣人族の王に直接事態の報告と確認をしに参りました。」
「同じく、私も森人族の族長の娘として、魔王殿と共に参りました。」
「・・・・・・」
シドーとスゥーリアが名乗りをあげると玉座に腰かけている獣人王以外、クロや獣人王の側に控えている幹部達の間に緊張がはしる。
「ま、魔王だと!?それに森人の族長の娘がなぜ?」
「新たな魔王が生まれたと風の噂で聞いたがあんな小僧が・・・」
「ええいクロ!ベヒモス!何をしている!そいつらは不法侵入者だ!捕らえろ!」
幹部の一人が叫ぶと同時にクロがサーベルを抜いて凄まじい速度でシドーに迫るが、
「獣人族の王よ、これはどういうことだ?」
「な・・!?なんだこいつ・・・うわあああ!!」
サーベルを鎌で受け止め、そのまま重力魔法で壁まで弾き飛ばす。「ぎゃんっ」と短い悲鳴をあげてクロが綺麗に壁にめり込む。
「ア、アニギィィィ!コノォォ~~!!」
ベヒモスがその巨体を揺すりながら豪腕を振り上げるとシドーとスゥーリアに向けて振りおろす。
「はあっ!」
豪腕が振り下ろされる直前、素早い身のこなしで弓に魔力の矢をつがえたスゥーリアが無数の矢をベヒモスに向けて放つ。
「グワアッ!?イダダダダ!?」
たまらず仰け反るベヒモス。それでも矢の勢いと数はおさまらず、押されるままクロがめり込んでいる壁を巻き込んで倒れこむ。
「・・・・これが答えか?獣人族の王よ」
スゥーリアが鋭い眼光で睨み付ける。狼狽える幹部達を余所に獣人族の王がその重い腰をあげる。
「うちの者が無礼をはたらいた、獣人族の王として謝罪する。しかし、あくまでもこれは我ら獣人族内部でのこと。他国の王が口をはさむことではない。どうかお引き取りを」
他の獣人族を遥かに上回る筋骨隆々の体はその気性の激しさを表すかのように至るところに浅くはない傷痕がついている。鋭く大きな牙の生えた口から発する口調こそ丁寧だが、その鋭い眼光から放たれる威圧感は並大抵のものではなかった。
(これが正真正銘の『王』ってやつか・・・)
シドーとは違う、自らの力で手にいれた力と地位と自信。やり方はどうであれ王として一国を束ねる長としての覇気がまるで違う。でも、それでもシドーは許せなかった。
「いくらなんでも村をあんな風にして、無理矢理女性達を連れ去るのは酷すぎるんじゃねえのかよ・・・」
「腑抜けた先代王に代わり新たな帝国を築くために必要なことだ。強いものが弱いものを支配するという遥か昔からの我々のあり方に戻るだけのこと。」
「そのために多くの人が傷つき、悲しんでも構わないのか?」
「先代が残した腑抜けの種を一掃し、より強い種を残すためには必要な犠牲だ。」
それが当然と言わんばかりの言い種にシドーとスゥーリアは憤慨する。
前世のライオンと同じで群れのボスが代わると前のボスの子どもを皆殺しにして新しく自分の子を産ませるやり方と同じだった。獣人族という人としての面を持ちながらの行為にシドーは憤りを感じていた。
「ライオン面してるだけあるな・・・。親を奪われた子どもがどんな顔をしていたと思う?」
「なに?」
「父親を殺され、母親を奪われた女の子が泣き叫んでいたんだよ。それを知ってあんたはなにも思わないのかよ」
シドーの言葉に獣人族の王はたてがみを撫でながら、苛立たしげに眉間に皺を寄せる。
「生き残りがまだいたか・・・。おい、誰でもいい。麓の村へ行って生き残りのガキを始末してこい」
「な!?」
「言ったであろう?先代が残した腑抜けの種を一掃すると。無力な者は我の作る国には必要ないわ!」
興奮した様子で腰かけていた椅子の装飾を握りつぶし、シドーの目の前に撒き散らす。まるで力なき者はこうだと言わんばかりの行為にシドーは鎌を抜き、腰だめに構える。
「・・・交渉は終わりだ。あんたを叩きのめして、この国は魔王シドーが支配する!」
「やれるものならやってみるがいい!この世は力が全て!力で以てこの我、獅子王レオルドを倒せるものならな!」
獣人族の王レオルドも、身の丈程の巨大な戦斧を頭上で振り回し叩きつける。
その巨体から繰り出される一撃は容易く岩盤の床を叩き割る。
「スゥーリア!周りの連中任せていいか!」
「足止めだけならなんとか!でもそんなに長くは持たないからさっさとやっちゃってね!」
スゥーリアはそう言って軽やかに跳躍して壁から突き出た足場に着地すると、シドーを取り囲もうとする獣人族の足元に矢を放ち動きを封じる。
「この!森人の小僧が!」
「かっちーん!小僧じゃなくて小娘なんだけど!しばらく小娘の遊びに付き合ってもらうよおじさん達!」
殺気だちながらスゥーリアを追いかける獣人族と逃げながら矢を射かけるスゥーリアで広間内は大混乱に陥る。
そんな広間の中心で、大鎌と戦斧が激突する。
「おおおお!!」
「ぬぉおおお!!」
シドーは、大鎌に重力を付与して大質量の連撃を放つ。それはかつて森の悪魔ブラックパラサイトの鎌を一撃で弾き飛ばす程の威力だが、レオルドはたたらを踏みながらもシドーの攻撃を受け止め、すぐさま切り返してくる。
両者の体格差からシドーは下から掬い上げるように、レオルドは上から叩き潰すかのように斬撃を放ち、その衝撃波で広間内の壁に亀裂が入る。
「はあああ!」
シドーは内心驚いていた。相手はこの世界で初めて自分の攻撃を受け止め、反撃までしてくるという自分に匹敵する力の持ち主。恐怖は勿論あるがそれ以上にだからこそ、自分が戦うしかないという思いで鎌を振るう。
対してレオルドも、自身より二回りも小柄なシドーの振るう鎌の連撃に驚いていた。動きは荒削りだが速度と威力は自分より遥かに上。今まで戦った誰よりも目の前の魔王は強い。強くなる存在だと感じていた。だが
(フェイントもなにもない型もでたらめな素人には出過ぎた力だな!)
王という立場では同格だが、強さでいえば魔王に軍配が上がる。それが現段階では互角の勝負となっている。知性のない魔物や狂信者には通じても、武人としてのレオルドにとっては子どもの遊び同然だった。そしてそれはシドーもわかっている。
(この人強いな・・・こっちが攻めてもかわされ受け流されてすぐに反撃がとんでくる。勿論狙いは急所か足元。小回りも俺の方がきくのにまるで通用しない)
ステータスだけでは表れない経験の差がシドーとレオルドの地力の差を埋めていた。そして、互いの一撃がぶつかり合い、お互いに大きく弾き飛ばされ両者の間に距離が空く。そこでシドーが仕掛ける。
「引力強化!」
「なに!?うおお!?」
体勢を崩した瞬間シドーは片手をつきだし暗黒の魔力の塊を生み出す。そこから発生させられる引力でレオルドを引きずり込んで鎌を袈裟懸けに振りおろす。しかし、凄まじい引力に引きずられながらもレオルドは空中で体勢を立て直しシドーに戦斧を叩きつける。
「ぐうぅ!!」
「おおお・・・・!!」
シドーは魔王としての圧倒的防御力により戦斧の一撃を防ぐが傷みと衝撃が全身を貫く。一方レオルドは鎧ごとぶあつい毛皮を切り裂かれ大ダメージを受けるが気迫で迫り、追撃する。完全に気迫で押されていた。
「はぁ・・・・はあ・・」
「その程度の覚悟で王を名乗るな!」




