召喚早々に戦闘っていうのもテンプレだよな
ドサア「いてぇ‼・・・ちくしょー、いきなり落としやがって・・・・え?」
永遠に続くかと思いこのまま寝てしまおうかと考えた矢先に落下が止まった。
辺りを見て、落とされたことに対する怒りは吹き飛んだ。まさにそこは『魔境』であったからだ。
空は分厚く黒々とした雲に覆われ、僅かな日の光が差すだけ。薄暗いのはそのせいであった。独特の色や形をした草木がまばらに生えているだけでそれ以外何もなかった。
遠くには巨大な城のような建物も見えたが霧が濃くて全部は見えなかった。
「反対側の空は晴れてる・・てことはここは《マノクニ》の入口ってとこか。入口でこれなら中央区はどうなってんだ?」
ウヘェと思わず声を漏らす。道の先は薄暗くてよく見えない。丘のような場所に落とされたからからか《マノクニ》の様子がある程度見えるが広すぎてよくわからない。
「でも・・わかる。あの場所・・魔王城で誰かが俺を呼んでいる。とりあえずはあそこに行こう」
城のような場所から綺麗なソプラノボイスで俺を呼ぶ声がする。きっとキュートな美少女だろうな~だったら良いな~何て思いながら《マノクニ》の方に歩き始めたその瞬間
「動いたぞぉ‼はなてぇ!!」
後方から勇ましい叫び声と共に無数の矢が飛んできた。
「なぁ!?嘘だろ!?」
完全に虚をつかれた!避けられない!咄嗟に身を屈めるも矢は一直線に俺の頭、腕、足、目、手、胴体、喉にクリーンヒットした。
カツンッという小石が鉄の塊に当たったような音をたてて。
「え?」
「「「「「え?」」」」」
思わず目を開ける。確かに矢が飛んできた。そして当たった。その感触は残っている。しかし服に穴すら空かず、体に当たって弾かれたであろう矢が俺の足元に転がっていた。
相手の方を見ると全員同じように「え?」という顔をしていた。
全員白を基調とした鎧に身を包み、白馬に騎乗していた。それが30人程( ゜д゜)ポカーンと口を開けて俺の方を見ていた。まるで確実に仕留められると思っていたのにその相手が生きているなんてと言わんばかりに。
「なんなんだあいつら、いきなり矢なんか射ってきやがって。もしかして俺が魔王だからか、アリーの言ってた通り全人類から命狙われてんのか俺!?」
「くっ!怯むなぁ!一発で仕留められないのなら何発でも打つまで!第二射構えぇ!」
集団の指揮官らしき人が号令をだす。その指示に従って呆けていた数十人もの兵士が気を取り直し矢をつがえる。
「やべぇまた矢が飛んでくる。逃げなきゃ!」
「喰らえ、そして滅びろ『魔王』!!これが『聖王』様より授かった魔を滅ぼす力を宿した矢の威力だ!」
そしてバシュッという音と共に再び無数の矢が飛んできた。
感覚で理解する。これは避けられないと
「うわあああああ!!」
思わずその場で身構えるがそれで無数の矢が避けられる訳がない。
そして矢は俺の体に当たってカツンと情けない音をたてて弾かれる。
勿論痛み何てものは微塵も感じない。
「「・・・・・・」」
その場を沈黙が支配する。そしてその次の瞬間
「て、撤退ぃぃぃぃ!!」
『うわあああああ!!化け物だああああああ!』
『『聖王』様の力がこめられた矢が効かないなんて!』
『 《アハト》に報告を!今度の魔王は普通じゃない!』
『おかあさーーーーん!!』
兵士の一団が悲鳴をあげて逃げ出していく。俺はただ唖然としてその光景を見ているだけだ。
「こ、これが200000の防御力か・・・本当に俺魔王になっちまったんだな・・それより『聖王』って確か天界の王様だったよなぁ。まさか召喚早々に命を狙われるとは・・・待てよ、つーことは俺が新しい『魔王』だっていうことは既にバレているってことか。こうしゃいられない、ここにいたらもっと沢山の兵士がやって来そうだ。とんずらとんずら~・・・ッとその前に」
おもむろに足元に転がっている矢を1本拾う。その矢は触れた瞬間ボウッと光を放ち、若干の熱を感じたがそれだけだ。
「漫画とかだと気を込めるってこんな感じかな?」
ふん、と力のようなものを押し込めるイメージ。すると矢はブオンッと黒いオーラに包まれる。
「これが俺の魔力か・・・なんか黒いなあ。『魔王』だからかな?・・・
さてどこかな~」
矢を持ちながら明るい方の空を見渡す。すると太陽とは別に一点だけキラリと光が見えた。
「感覚だけどあの辺に《アハト》があって『聖王』が居そう・・・な気がする。」
そして大きく振りかぶると
「いきなりぶっ殺しに来るとかちょっとビビっちまったじゃねーか!このやろー!!!!!」
槍投げの要領で持っていた矢をぶん投げた。
勿論届くはずないと思っていた。俺自身海に向かってバカヤローと叫ぶ感じでぶん投げたから。しかし投げられた矢はビュオッンと黒いオーラを纏いながら遠くの空に消えた。
「多少気は晴れた!よし、行こうレッツ《マノクニ》へ!」
そして俺は《マノクニ》へと歩きだす。まずは住居を探さないと。こんな場所で野宿なんか現代っ子の俺にできるはずがない!
こうして、獅童が歩き始めた頃天空城では・・・・
「『魔王』が生きているだと!!?白騎士兵団は何をやっているのだ!我が法力を込めた矢はどうした!」
一人の男が伝令役の者に詰め寄っていた。その身を豪奢な服に包み、流れるような金髪をひとつにまとめている。何より目を引くのは大きすぎて腰にさせず背中に背負っている十字架のような大剣。
まさしく、天界を支配する『聖王』その人である。
「し、しかし報告ではその矢は魔王に当たった瞬間力を失い地に落ちたと・・」
「そんなバカな!あれは我が三日間法力を込め続けたもの、放てばA級モンスターであろうと一撃で葬れる代物だぞ!それが効かないなんてことは有り得ん!」
事実、200年前先代魔王を討ち滅ぼしたのは聖王の矢により魔王を弱らせたことが勝因となった。その後その矢を一般の兵士でも持てるように改良したものを使わせたのだが結果は散々だった。
「おのれ魔王め、一体どんな手を使って「聖王様!《マノクニ》の方よりものすごいスピードで何かが来ます!」なんだと!?」
次の瞬間壁を突き破り、黒いオーラを纏った矢が聖王めがけて飛んできた。
「ちぃ!小賢しい‼」
背中に背負った大剣『グランシャイン』を抜き放ち、叩きつける!
バチバチバチバチィィィィ!!と凄まじい音をたてて火花が散る!あまりの衝撃に部屋の窓ガラスが粉砕する。
「な、なんだこの力は!?ぐおあ!?」
バチンッ!と聖王の剣が弾かれ宙を舞う。矢はそれて聖王の横を通りすぎ、壁に突き刺さる。
「聖王様!御無事ですか‼」
すぐに部下が駆けつける。
「ああ、問題ない、壁の修復を急げ!」
「ハッ!」
あわただしく部下達が走っていく。
残った聖王は壁に突き刺さった矢から感じる魔力を感じとり、戦慄した。
「矢に込められた魔力だけで我が全力の法力を上回るとは・・」
未だ震えの収まらない右手を押さえ、そう呟いた。