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獣の少女

「きゃああああああ!!!」


少女が悲鳴をあげながら崖下へ落ちていく。


「!!・・・ええい!いったれぇ!!」


ゾッとする光景に足が一瞬すくむが、自信の耐久ステータスを頼りにシドーも崖から飛び降り、更に壁を蹴って少女に飛び付く。


「よし!追い付いた・・ってうわああああああ!」


少女の体を空中で捕まえたはいいものの、シドーも一緒に崖から落ちていく。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」


幸い少女は気絶していたため、シドーの情けない悲鳴は聴かれなかった。


「そうだ!」


シドーは漫画やアニメで崖から落ちたキャラが武器を崖に突き立てて落下を止めるシーンを思いだし、背負った鎌を片手で崖に突き刺す。が、しかし、現実はそう上手くはいかず、シドーの鎌は魔王の武器に相応しい切れ味を以て崖をバターのように切り裂いていく。勿論落下の勢いは全く衰えなかった。


「畜生!空でも飛べさえ・・・あ!『無重力(ゼログラヴィティ)』!!」


咄嗟に自身と少女にかかる重力をゼロにすると海面まで残り10m程のところでピタリと止まる。



「・・・・・・・ふぅー、危なかった。ルシアから魔力の制御法を教えてもらってよかった・・・ん?」


額から珠のような汗を流しながら一息つき、さてここからどうしようかと考える前に、巨大ななにかが接近してくるのを感じた。


「ま、まさか・・」


その時シドーの脳裏に先程のサヤの話していたことがよぎる。

『この先は海で魔力反応は恐らく海中の魔物のものかと。海の魔物は皆大型なので』

『海に落ちない限りは大丈夫です。』

『海に落ちない限りは大丈夫です。』

ウミニオチナイカギリハ



「ギュルルルアアア!!!」

「ぎゃああああ!!??」


突然海面から勢いよく波しぶきをたてて、巨大なウミヘビみたいなモンスターがシドーと女子を二人まとめて飲み込もうと口を開けて襲ってきた。


「うわああああああ!!」


迫り来る牙を迎え撃つ形で鎌を振るい、ガチィッ!と硬質な音をたててシドーと女子は真上に凄まじい勢いで吹き飛んでいく。


「む、無重力にしてたの忘れてた!!」


シドーが魔法を解除すると途端に勢いが弱まり、再び自由落下が始まる。


「えっと確かルシアが言うには・・・」

『・・・・まおーさまは重力と引力を操れる。それなら重力の押す力と、引力の引く力をまおーさま自信に働かせれば、空も飛べる・・・はず』


本来は体の上からのし掛かる重力を足の裏、体の下から押し上げる力に変換。

地面に引っ張られる力を空から引っ張られる力に変換

するとシドーの体は少しずつ上昇を始める。


「で、できた!おっとっと!」


重力と引力のバランスが崩れるとすぐに体勢が崩れてしまう。

シドーは自身の体をマリオネットの人形のように上から引っ張られる力を利用して、時々足の裏から重力の力を発生させ加速しながら崖の上に戻ってきた。

丁度そこへサヤ達が駆けつけてくる。


「えっと・・・ただいま?」


3人とも崖下から上がってきたシドーに驚愕するも、シドーが無事だとわかると三者三様の反応を見せる。

ルシアは無事だとわかっていたけれど、それでも安堵するような「・・・・ほっ・・」というため息。

スゥーリアは飛んでいるシドーを見てポカンと口を開け、サヤは


「凄いシドー君!なんか飛び方変だけど空飛んで「どいて」うわっ!なにサヤちん・・!」


興奮気味なスゥーリアを押し退けてシドーの前に立つと有無を言わずパシンッ!とシドーの頬を張った。


「・・・・!」

「サヤちん!?」


突然のサヤの行動にルシアとスゥーリアが驚愕する。しかし当の殴られたシドーは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「・・・悪い。心配かけたよな」

「当たり前です!御一人でキングウルフの率いる群れに向かっただけでもそうですが、少女を助けようと崖から飛び降りた時は心臓が止まるかと・・・うぅ!」


凛々しい顔を悲しみで歪め、大粒の涙を流しながらシドーにすがり付く。

自分より背の高く、常に凛々しくて自分やルシアを引っ張ってくれるサヤが泣きじゃくる姿にシドーはただただ立ち尽くすだけしか出来なかった。



「落ち着いたか?」

「・・・ぐす、・・・はい、申し訳ありませんでした。」

「それは俺の台詞だよ」


しばらく泣いていたサヤが恥ずかしさのあまり背を向けてへたりこんでしまう。

シドーもなんだか気まずそうにしていると、


「・・・・まおーさま」

「おひゃあっ!?どうしたルシア?」

「・・・あの子そろそろ目を覚ます。」


突然目の前に現れたルシアに驚きながらも、シドーは意識を取り戻そうとする少女の側に行く。スゥーリアが少女の手を取り、癒しの魔力を流している。


「ありがとうスゥーリア」

「これぐらい大丈夫だよ、シドー君にもヒールかけてあげようか?」


スゥーリアが先程サヤに叩かれたシドーの頬を見ながらニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる


「頬より心にヒールをかけてほしい」

「シドー君って割とメンタル弱いよね~。まぁ、人族同士の争いも魔物もいない世界でずっと暮らしてきたから無理もないよね」

「それもあるけど、あんな風に真正面から心配して怒ってくれる人もいなかったからな」


シドーの両親は共働きで、家族が全員揃ってご飯を食べたりすることはあまりなかった。シドーと妹が大きくなる頃には二人揃って家にいないことが当たり前だった。それが両親がシドーを信頼しているからなのか、単純に仕事の方を優先していたからなのか今となってはたしかめることも出来ない。


「ならサヤちんはシドー君の新しいお母さんだね」

「その言い方は色々と誤解を招きそうだぞ!?せめて姉にしてくれ」

「シドー君は姉萌えなのかなぁ?」

「なんでそんな言葉知ってんだよ!」


スゥーリアとシドーがじゃれあっていると、その声がうるさかったのか少女が目を覚ます。


「ん・・ここは・・・?」

「あ!気がついたんだね!」


すぐさまスゥーリアが駆け寄って身を起こそうとする少女の体を支える。


「君、ウルフの群れに襲われて崖から落ちたんだよ」

「うん、・・・確かあの人が助けに来てくれたんだよね・・・?」


すっと、少女がシドーを指差す。その指先には獣のような尖った爪があった。

それ以外にも、少女の体には頬の髭のような模様や簡素な服から覗く体毛に覆われた尻尾等獣の特徴がみられる。勿論、頭には三角に尖った獣耳がぴこぴこと動いている。


「もしかしなくても獣人族ってやつか?」

「うん、そうだよ。ミリアって言うの。助けてくれてありがとう。」


そう言って少女、ミリアは


「お兄ちゃん」


きゅっとシドーの腰に手を回して抱き付いた。

八つ当たりのような愚痴の吐き処として新作出したのでよかったらそちらもどうぞ

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