絶望の檻
「く、くそがああああ!!」
目の前の光景にそれまでなんとか冷静さを保っていたシドーが、遂に耐えきれなくなり、吐き出すような雄叫びをあげて異形の戦士に斬りかかる。
森人族の戦士が現れたとき、すでにシドーは魔眼でそれが死体だと気づいていた。だからスゥーリアを制することができた。
でも、自分の中の混み上がってきた嫌悪感を制することは出来なかった。生理的な嫌悪感は勿論、一番は他者の命を利用するまさに悪魔のような所業に。それがこの生物の生きる上での習性だとしても、魔眼で理解はしてもシドーの生まれ持った人としての感性がそれを受け付けなかった。
シドーは森人族の戦士だったものを袈裟懸けに斬りふせる。血すら流れず無数の黒いミミズのようなものが断面からあふれでる。
「吹きとべぇぇぇ!!!」
シドーは重力を発生させるが、今までのような全方向から押し潰す重力ではなく、一方向からの真横に数万トンの重力を急激に発生させてブラックパラサイトを吹き飛ばす。
「はあっ!はあっ!・・・うぷっ」
「魔王様!」
青い顔で鎌を手放し蹲るシドーをサヤが介抱する。
えづくシドーの背中を擦る。
「はあ・・はあ・・ありがとうサヤ・・・」
「御気分が優れないようであれば後は私達が・・」
「いや、大丈夫。何も食べずに起きて直ぐ来たのが幸いした・・・」
「ではせめてこれを」
サヤが差し出したのは水筒だった。シドーは水筒を受け取ると中の水を一気に口に含んで飲み込む。冷たい水の清涼感が、こみあがってきた胃液と嫌悪感を洗い流す。
それでもシドーの手は震えていた。
「くそっ!情けねぇ・・」
「そんなことはありません」
「レベルも上がって、強くなったと思ったのにこの様だ」
「いえ、どれだけステータスが高かろうが、どれだけレベルが上がろうと、アレを前にして何も感じないのは強さではありません。ただの狂人です。」
諭すように優しく、鼓舞するように力強いサヤの言葉。その目は、幾つもの死線をくぐってきた戦士のそれだった。跪く暇すらなく戦い抜いてきたその背中はとても頼りに見えた。
そしてそれはルシアも同じく、普段と全く違う引き締まった表情で杖を構えていた。その体の周りには、炎のような冷気のような魔力の渦が表情に出ない荒ぶる感情を現すかのように渦巻いていた。
「・・・・胸くそ悪い。」
ルシアが顔をしかめながら睨むその先から、次々と矢を持った動く死体が出来の悪いマリオネット人形のようにガクガクと上下に揺れながら襲いかかってくる。
「ま、まだこんなに・・・」
「スゥーリア立て!もうあれはお前の知る者達じゃない!」
「やるしかないか」
サヤがへたりこむスゥーリアに活を入れ、シドーも覚悟を決め動く死体達を斬り伏せようとしたその時、死体のうちの一体が突然爆発するように炎上する。
「な!?なんだ!!」
「これは?・・二人とも伏せてください!」
サヤが咄嗟にスゥーリアとシドーに飛び掛かって頭を伏せさせる。
「どうしたんだサヤ!?」
「怒っています」
「え?」
「ルシアが・・・・・怒っています」
それを皮切りに次々と死体達が炎上して焼失、または凍結して粉砕されていく。
「・・・・胸くそ悪い」
彼女は静かにそう言った。普段と同じように抑揚のない声。しかし今のそれは努めて平静を保とうとしているかのようだった。
「・・・スゥーリアの家族を殺し、仲間を殺した挙げ句その死を弄んだ・・・。もうこれ以上、私の友達から何も奪わせない。」
直後、ルシアの周りに刺々しいデザインの氷の塊が無数に展開される。
その光景にシドー達は息を呑むが、死体達は構わず突き進んでくる。
「侵略者に唯々の滅びを!!『ブリザード・デスピアーシング』!!!」
ルシアの叫びに応じて、氷の塊がミサイルのように次々と標的に向かって発射される。そして、着弾した瞬間に凄まじい爆発を起こして辺り一面に鋭利な氷の刃を撒き散らす。これにより、氷の塊の被弾を免れた死体達も次々と串刺しになり、その体を凍てつかせていく。氷のミサイルは休むことなく死体達を蹂躙し、ルシアとシドー達がいる場所以外見渡す限り氷の世界と化す。
「はぁっ・・はぁっ・・っ!」
流石のルシアも、これだけの大規模魔法を使った後では、杖を支えにしないと立てないほど消耗してしまう。意識が朦朧とし、ふらついて倒れそうになるのをシドーが抱き止める。
「大丈夫か!?ルシア!」
「・・・・・・・・・・平・・・」
「言えてねぇじゃねーか!てか体冷てぇ!サヤ!早く火の準備を!」
「・・・・それ・・・より・・・あれ・・」
ルシアが震える手で指し示す先には氷に包まれた空間の中で唯1ヶ所、凍っておらず土が剥き出しになっている。
「・・・あそこに・・・・追い込んだ・・・・もう逃げられない・・・」
「まさかその為にわざと辺りを氷漬けにしたのか・・・わかった!もう休んでろ。」
「・・・・・ザマァ・・・ぷげら・・・」
「休んでろって」
ぐったりとしたルシアをサヤに預け、シドーは剥き出しの地面に向かって鎌を突き立てる。
「ギュシュアアアアア!!!」
現れたのは先程までのような黒いミミズの集まりのような姿ではなく、どっしりとした太い胴から触手を伸ばす怪物であった。
「本体のお出ましか。いい加減SAN値が直葬しそうなんだよマジで。だからこれで最後だ!」
辺りは一面ルシアの氷で覆われ、ブラックパラサイトにとっては逃げ場も身を守る死体もなく圧倒的にシドーが有利だった。それを感じとったのか、触手の手足を巨大化させシドーに襲いかかる。
因みにその後ろでルシアはサヤに口の中に魔力回復薬を突っ込まれてビクンビクンしていた。
「・・・・なんかデジャブんぐ!?・・」
「我慢しろルシア!魔王様が折角決めている雰囲気を台無しにする訳にはいかないんだ!」
「本編でやらない理由それ!?」




