蟷螂の斧
最近のアニメは顔芸が流行ってるのか・・・面白いから許す
(あいつら何ごちゃごちゃやってんだ・・・ったく巻き込まれても知らねぇぞ)
シドーは、『森の悪魔』の斬撃を鎌で弾き、あるいは受け止める。本来凄まじい衝撃波を撒き散らしてシドーが思うようにサヤ達を巻き込んでしまうのだが、そうならないよう鎌に引力魔法を纏わせてその衝撃を全て吸収していた。
本来それは緻密な魔力コントロールなしでは不可能な技術だが、今のシドーはまるで呼吸をするかのように当たり前にこなしていた。
(思い通りに体が動く。体だけじゃない、魔力が内側からどんどん溢れてきて全身を巡っていく・・・それをこの鎌に流し込む!)
「『重力鎌荷重羅』!!」
その瞬間、シドーの手に持った鎌が黒く光りその重量を何百倍にも引き上げる。
常人なら急激な重量の変化に耐えきれず肩が抜けるか腕が千切れたりするが、シドーは魔王の筋力ステータスでその重量をも軽々と持ち上げ振り回すことができる。
「シャアアアア!」
「おおおおおお!!」
『森の悪魔』のうち下ろしの一撃に対しシドーは、鎌を体を捻って後ろに構え、爆発的な速度で切り上げる。凄まじい激突音と火花が散り、『森の悪魔』の体が大きく仰け反って後退する。
「ガアアアア!?」
『森の悪魔』がまるで驚いたように声をあげる。それもそのはず、目の前の小さな獲物が、体格も体重も遥かに勝る自身の攻撃を羽虫を払うかのように弾き飛ばしたのだから。実際、今のシドーの鎌の重量と『森の悪魔』では人間の大人と幼児ぐらいの差がある。
「まだまだぁ!」
シドーは重力魔法を纏ったままの鎌を持ち、そのまま10m程跳躍し、自身の筋力と鎌の重量を合わせ打ちおろす。
「おらぁ!」
「ギギ!」
しかし、『森の悪魔』がギリギリのところで回避し、その脳天を狙ったシドーの一撃は大地に深々と突き刺さる。凄まじい衝撃は樹海全体を揺らし、大地が沈みこむ。勿論その影響は離れていたスゥーリア達にも及んでいた。
「わああああ!?ゆ、揺れ・・うぷっ」
「ちょっ、シドー君!森をメチャクチャにしないで!サヤちんは向こう向いて!」
「・・・・アババババ・・声が震える~~」
若干一名を除き、無事なのを確認してシドーは『森の悪魔』に向き直る。『森の悪魔』は、目の前の小さな獲物が予想だにしない反撃をしてきたことに対し興奮しているのか翅を開き小刻みに動かしてブブブブブと耳障りな音を立てている。
「そっちが来ねーならこっちから―――!」
攻めようとしたシドーの出鼻を挫くように『森の悪魔』が足と翅を使い跳躍、そして滑空して飛び掛かってきた。
「な!?何あれ!?シドー君!」
スゥーリアが叫ぶが遅い。『森の悪魔』は、その巨体でもってシドーに体当たりをかます。
「嘘だろおい!―――――つぅ!」
咄嗟にシドーは鎌を背負い、回避の為足に力を入れるが、
(ダメだ!避けたらあいつらの所に行かせちまう)
シドーは回避を諦め、迫る『森の悪魔』の巨体を両手で受け止める。凄まじい衝撃と轟音が響き、風圧で周囲の木々が大きくしなる。
「魔王様!」
サヤが心配そうに叫んで駆け寄ろうとするが、次の瞬間驚愕に目を見開く。シドーは『森の悪魔』の巨体を受け止め、ビクともしていなかった。
「こんなもんかよ、化け物」
そう吐き捨て、シドーは右手に重力魔法で周囲の大気を圧縮し、自身の桁外れの筋力と共に『森の悪魔』の体に叩きつける。その瞬間圧縮された大気が元に戻ろうとして炸裂するのと、シドー自身のパンチの威力が合わさり、轟音と共に『森の悪魔』の甲殻の鎧を破壊してその巨体を吹き飛ばす。
『森の悪魔』は、体液を撒き散らして樹木を何本もへし折り、最後に大木の幹に叩きつけられて止まる。
「ギギ・・・ギ」
「まだやんのか」
シドーのパンチが当たった場所を中心に、甲殻に亀裂が入り、背中から叩きつけられた為か翅もへし曲がったりボロボロになっていた。
それでも巨体を起こし鎌を振り上げ威嚇する。
「実力差がわからねーところを見るとただデカイだけの虫だな・・・これで終いだ!」
鎌に魔力を込めながらシドーは『森の悪魔』へと突進する。『森の悪魔』も最後の力を振り絞り、シドーに向け鎌を降り下ろす。そして、両者の武器が凄まじい轟音と共に激突する。
「おおおおおおおらぁっ!!」
拮抗したのはほんの一瞬。シドーの鎌が、『森の悪魔』の鎌を腕ごと粉砕して体液を撒き散らす。
「ギャアアアアアア!!」
「はああああっ!」
シドーは跳躍し、武器を失って混乱している『森の悪魔』の頭目掛けて鎌を振るい、その首をはねる。
「ガッ!?ギギギッ」
何故眼下に自身の体が見えるのか、その疑問を理解する間もなく『森の悪魔』は絶命する。頭を失った巨体が地響きと共に倒れ伏す。
「や・・・やった!やったよみんな・・・!シドー君が父さんやみんなの仇を討ってくれたよ!」
スゥーリアが大粒の涙を流しながらその場に崩れる。サヤがスゥーリアの肩に手を置きながら「流石です、魔王様・・」と感嘆の言葉を漏らすも、その内情は何も出来ずに主の手を煩わせた自分に対する不甲斐なさや情けなさでいっぱいだった。せめて労いの言葉一つでもとシドーの元へ駆け寄ろうとするが
「・・・まだ行かないほうがいい」
と、静かにだが真剣身を帯びたルシアの声に止められる。何事かとシドーの方を見てみると、シドーは鎌を背負いもせずただ『森の悪魔』の死骸を睨み付けていた。




