樹海にはinしてないけど、布団にはinした
それから二人は無言で自分達の体を洗い、そそくさと服を着てルシアの所へ戻った。勿論道中も、お互いに声をかけようとするが、気まずいやら恥ずかしいやらで何も話せずにいた。
「・・・おかえり・・・どうしたの?」
「いや~・・何もなかったぞ!うん!」
「ええ!何もなかったぞルシア!」
「・・・・そう」
ルシアはそれだけ言うと、かき混ぜていたスープからおたまをとりだして、人数分の器によそっていく。
「・・・・『ヤブシカの野草スープ』。デザートはモノの実」
「うまそうだなぁ~いただきます!」
よそわれたスープを一口。肉の臭みは香辛料で消され、旨味のみが、野草の風味とマッチしていて
「とにかくうめぇ!肉もこんなに柔らかいのは初めてだ!」
「・・うぅ、私の嫌いなニマニマ草が入ってる・・・ルシア~」
「・・・・お残しはゆるしまへん」
「懐かしいな・・・てかなんで知ってんの?」
雑談をしながら食べ進めていくうちに、先程の気まずさもなくなっていた。サヤも同じように笑顔で会話していた。
鍋一杯にあったスープはあっという間になくなり、サヤは寝床の設置に、シドーとルシアは先程の清流で食器を洗っていた。
「あ~うまかった~ごちそうさま!」
「・・・おそまつ」
「体に力がみなぎるというか、体がポカポカするというか」
「・・・ニマニマ草には、体を温めてくれる作用がある。肉の臭みとりや、消毒にも使える。」
「生姜みたいなもんか・・・」
「・・・・ショウガ?」
「ああ、前世にも同じような植物や香辛料があるんだ。」
「・・・興味深い」
「もう戻れないけどな。因みに力がみなぎるのもニマニマ草の効果か?」
「・・・・それはヤブシカの血や内臓の効果。スープのコクを出すために新鮮なのをたっぷりと・・」
「わかったもういい」
シドーはなんだか背筋がゾワっとして、ルシアの話を途中で打ち切る。
なんとか話題を変えようとすると、ルシアのローブの裾や、足元が汚れているのに気づく。ずっと熱い鍋を相手にしていたためか、髪や顔に汗をかいているような気もする。
「後は俺がやっとくからルシアも体洗ってこいよ。」
「・・・私はいい。お風呂めんどい」
「せっかく可愛いのに勿体ない。クンカクンカして、ペロペロしちゃうぞ~」
「・・・・・・」
「あれ?ルシアたん?」
ルシアは無言で清流の方にいくと、両手で水を掬って呪文を唱える。
「『清浄水』(クリアウォーター)』・・・フラワーフレグランス(ぼそっ」
ボウッと水が淡く光ると、ルシアの体を包み込むように回転する。そして一瞬ルシアの体が光ったかと思うと、光の粒子を散らして消える。
ふわふわの髪や白い肌は先程よりツヤがあり、ローブや帽子の汚れも綺麗に落ちていた。
「・・・ジャーン」
「おお!スゲーなルシア!なんかプ○キュアみてぇ」
「・・・キュ○ア○ア」
「今日はもう疲れたから突っ込まないぞ」
シドーは洗い物を再開しようとするが、ルシアがシドーの服の裾を摘まんで引っ張る。何事かと振り返ると、目と鼻の先に水色の髪が近づいてきた。
「・・・ん」
「どうしたルシア?」
「・・・匂い。もう臭くない。」
「ちょっ、近い近い!ルシア近い!」
短い手と、低い身長をうんと背伸びしてシドーに詰め寄る。
色素の薄い唇や、普段は眠たそうにしている瞼の奥にある瞳が間近に迫り、シドーは、自分でもわかるぐらい心臓がバクバクいっていた。
(なんか怒ってるみてぇだな・・・やべぇどうしよう)
「・・・・匂い」
「え?」
「・・・嗅いでみて」
「ええ!?」
驚くシドーを他所に、ルシアは帽子を脱ぎ、ローブの胸元を少し開ける。
その普段とは違う扇情的な姿に思わず生唾を飲む。
(これやらなきゃずっとこのままのパターンだよな・・・ええい!ままよ!)
シドーは意を決して、ルシアの両肩を掴むと、なるべくルシアの顔を見ないよう首筋に寄って匂いを嗅ぐ。
魔法の効果なのかルシア本来の香りなのかはわからないが、甘い花の香りが鼻腔に広がる。
(やべぇ・・・これ下手したらずっと嗅いでいたいかも・・・)
「んっ・・・くすぐったい」
「え!?ああ!悪いルシア!すげぇいい匂いだったからぼっーとしてた!」
(ってなにいってんだ俺はあああ!?これじゃあ変態みたいじゃねえか!)
慌てて離れるも、自分がやったことのあまりの恥ずかしさに身悶えするシドー。
しかし、それとは対象に
「・・・・ならいい」
と、納得がいったらしいルシアは、またすっぽりと帽子をかぶってしまう。
「・・・・眠い」
「そ、そうだな・・・戻るか・・」
今回はシドーだけだったが、サヤの時と同じく気まずいような、でもちょっとドキドキしながら戻るのであった。
途中で眠気が限界に達したルシアを背負ってキャンプに戻ると、密集した木葉を重ねてできた寝床と、その横に達成感に満ちた顔のサヤがいた。
「あ!魔王様!お帰りなさいませ!魔王様の趣向に合わせてみたのですが・・・・・・」
最初はまるで飼い主を見つけた犬のように尻尾を振りながら(尻尾ないけど)近づいてきた犬のような顔をしていたが、背中で爆睡しているルシアに気づいた瞬間表情が『無』になる。
「スゲー!これ一人で作ったのかよサヤ!スッゲー寝ごごち良さそう・・・ってどうした?」
そのまま無言で、寝ているルシアの首根っこを掴むと、寝床目掛けて放り投げる。「ふぎゅっ!」っと短い悲鳴が聴こえた気がしたが、すぐに寝息に変わったので大丈夫であろう。
「あのー、サヤさん?」
「いかがなさいました?背中でルシアの胸の感触を楽しんでいた魔王様」
「誤解だ!途中でルシアが寝ちゃったから仕方なくだよ!」
(鎧越しだから少ししか感じられなかったし)
「そうですか・・申し訳ありません。ルシアがいつもご迷惑をおかけして」
「わかればいいんだ」
謝罪するサヤに申し訳なく思いながら、サヤの作った寝床に腰かける。
「やわらけぇ・・」
「そのままお休みになられてください。私は見張りをしているので」
「サヤ、命令だ。横になって休め。」
サヤはシドーの言葉にキョトンとした表情を浮かべ、すぐにはっとする。
一瞬の葛藤ののち、観念したようにぽすっと音をたてて寝床に横になる。
「ずるいです魔王様」
「こうでもしないとサヤは休まねぇだろが。サヤもルシアぐらい俺にたいして遠慮しなくていいのに。」
柄ではないのは自分でもわかっていたが、サヤの性格を元に扱い方など少しずつわかってきた気がする。
ちなみにルシアぐらい遠慮がないほうがかえって気が楽なのは本当である。
「そんなとんでもない!・・・・ほんとに度々ルシアがすみません。あの子は先代魔王様に対しても甘えてばかりで、私は両親共々冷や汗ものでしたよ。」
「サヤはしっかりした姉ちゃんみたいだな。」
「ええ・・・あの頃は本当に・・・・・」
そのまま声が聞こえなくなる。寝たのかと後ろを振り返ると、サヤが涙を一滴こぼしながら眠っていた。
「・・・御父様・・・御母様・・・うぅ・・・・」
「・・・・・・・」
シドーはその涙を指で拭い、サヤとルシアに毛布をかけた。
すぐにサヤも穏やかな寝顔になり、二人仲良く寝息をたてていた。
「考えてみればこの二人とそんなに年変わらないんだよな。クラスの女子よかずっとしっかりしてるぜ。・・・・ったく見習ってほしいぐらいだぜ。」
それがもう叶わないことだとしても、シドーは呟かずにはいられなかった。
前世の同年代の女子達のようにおしゃれを楽しんだり、ちょっとしたことで笑ったり、恋をしたり、そんな姿をこの二人に重ね合わせてみる。
「サヤならスポーツ系の部活でヒーローになれそうだ。男より女に好かれてファンクラブとか作られてて・・・・いや、読者モデルとかもいけるかもな。
ルシアは・・・科学部とかにいそうだな。1日中理科室にこもって研究したり
・・・・あ!図書室にもいそうかも。隠れファンとかスゲーできそう。」
そんなくだらないことを呟きながらも、シドーは願う。
この世界が、二人が前世の普通の女の子のように楽しんで暮らせるようにと・・・・
次は必ずinします。
拙い文ですがよろしくお願いいたします。




