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いざ出発・・その前に

文の量が2倍、かかった時間は3倍・・・

荷造りはすぐに終わった。

この世界でも、旅支度というものは変わらず、身を隠す為のマント、薬などの医療品、食料、ナイフ、簡易式のテントなどありふれたものだった。

ちなみにトイレに関しては、魔人族はエネルギー吸収効率が非常に良く、食べたものがほぼすべて血肉あるいは魔力となるらしい。ただし、水分に関しては、人間と同じく老廃物の排泄に必要なため出るそうだ。

トイレのことをサヤに聞いたら恨みがましい目で見られながらも教えてくれた。どうやらまだ根にもっているらしい。


「これはもう要らないか・・・」


シドーが手にしたのは前世からの持ち物である学ランやスマホだ。スマホはすでに電池がなくなり、学ランもガブリエルとの戦いでボロボロになっている。そのためシドーは今、要所を金属プレートで覆ったのみの軽装備を着ている。


「・・・・それを捨てるなんてとんでもない。」

「うおっびっくりした・・ルシアか・・・」


突如出現したルシアが、シドーの手からサッと学ランとスマホをひったくり、まじまじと見つめている。


「・・・・こんな見たことも触ったこともない生地に、不思議な機構の道具・・・バラしたい・・・・」


ルシアさんの目がいつになくキラキラしている。無表情かと思いきや、意外と表情が豊かなのだ。


「研究者としては気になるってか・・。でも学ランはともかくスマホはもう電池切れだし、充電器もないからただのガラクタだぞ。」

「・・・ジュウデン?デンチ?」

「あれ?雷属性の魔法があるからそういうのもあるかと思ったんだけど・・」


つい前世の文化水準と比べてしまうが、この世界では、科学の代わりに魔法が発展しているのだと思うとルシアの反応も合点がいく。


「・・・それ以前にこの『ガクラン』?っていうのは服なのはわかるけど、こっちのスマホは何に使うの?」

「まあ、簡単に言うと、同じ機械を持っている相手と、離れていても通信が出来るんだよ。俺がいた世界では魔法がない代わりにこういう機械技術が、発展してんだよ。」

「・・・・行ってみたい」

「この世界で死んだら行けるかもな」

「・・・やっぱり遠慮しておく」


それからルシアとたわいのない会話をしながらも、出発の準備を進めていった。因みにスマホと学ランはルシアにプレゼントすることとなった。




準備を終えて魔王城からでると、既に準備を終えたサヤが神妙な顔で待っていた。

「お待たせ、んじゃ、出発するか。まずはどこに向かえばいいんだ?」

「この間戦った場所から東に3日程歩くと森人族が治めるセレナ樹海があります。まずは森人族の妖精王に謁見して、和平条約を結びましょう。彼らはマノクニとの戦争に最後まで反対していた種族です。気難しいところもありますが、きっと魔王様の力になってくれるはずです!」


サヤ曰く、数百年前、森人族はその見目麗しい外見から、拐われて性奴隷として売り飛ばされていた時代があり、他種族との関わりを拒否すらしていた。やがて、森人族と獣人族と冥人族による奴隷革命が起こり、奴隷や種族差別がなくなり魔人族以外の全ての種族は同盟の名の元に平等とされた。

しかし、マノクニと目と鼻の先に存在しているため、魔物や、それを狩る傭兵達からも狙われ、今現在においても森人族は余り他種族に対し良いイメージを持っていないという。


「それなら魔物の親玉でもある魔王も敵として見られるんじゃないのかよ」

「魔王様、あくまで魔王というのは魔人族の王であるだけで、魔物とは一切関係ないのですよ。確かに魔物から進化した我々ですが、知性のない魔物からして見れば魔人族も森人族もただの餌なのです。なので被害が出れば駆逐したりもします。その関係で、先代魔王様と先代森人族の王の間には他種族とは存在しない協力関係があったんですよ。」


森人族のみが、魔人族に対し良い印象を持っていたということである。

王同士だけでなく、物流も盛んだったらしい。


「・・・でも、先代様が倒れて以来、森人族との交流は途絶えてしまった。」

「もしかしたら、もう以前のように手を取り合うことは出来ないかもしれませんね」


シュン・・とサヤが落ち込んでしまう。サヤの表情から、交流があった頃は、幼かった二人も森人族と仲良くしていたであろうことが伝わってくる。もしかしたら友達もいたかもしれない。そう思うとシドーは、なんとしてでも、森人族を味方にしたくなってきた。


「よーし!それなら俺の神がかった交渉術で、新しい森人族の王さまをハートキャッチしてやんよ!大丈夫!きっと森人族にも、サヤみたいにまた仲良くやりたいって思ってるやつがいるさ!」

「魔、魔王様・・・そうですよね!森人族には子どもの頃、ルシアと3人で遊んでた幼馴染みがいるんですよ!きっとその子も同じことを考えてるはず。そうだよなルシア?」

「・・・・私はあいつ嫌い」

「ええ!?なんで!?よく一緒に遊んでたじゃん!」


満面の笑顔で同意を求めるサヤに対し、ルシアはまるで苦虫を噛み潰したかのように渋い顔をする。


「・・・・それはサヤが毎回私を無理矢理連れていくから・・・嫌だって言っても・・・」

「そ、それはルシアも一緒に遊んだ方が楽しいかと思って・・・」

「・・・・私は違う。」

「ぅぅ・・・」


なんだかだんだんサヤが小さくなっていってる気がする。シドーがそう思いながら、いつ助け船を出すか迷っているうちにルシアはジト目で続ける。


「・・・サヤよりもあいつ。年上だからって変にお姉さんぶるし、ローブの裾引っ張るし、杖を奪って松明にするし、本を汚すし・・・etc」

「まあまあルシア、その辺で」

「・・・でも・・・」


段々と口調が荒くなってきたため、シドーは宥めに入ったが、それは杞憂だったようだ。


「・・・・そんなやつでも、会えなくなったらサヤが悲しむ。」


この魔術師は、本当に感情や、気持ちの表し方が下手くそなのだ。そんなルシアの態度に、サヤの涙腺が崩壊する。勿論嬉し涙で。


「ル、ルシアああああ!」

「ルシアたんのクーデレ来たああああ!」

「・・・五月蝿い」

「あべべべべべぱばばば!?」

「のおおおおおおおおっ!?」


騒ぐ二人に文字どおり、ルシアの雷が落ちた。




「さて、おふざけもここまでにして行こうか。・・・俺達の旅の始まりだ!」


シドー本人はビシッと決めたつもりだが、実験に失敗して爆発した博士みたいな髪形では、全く決まらない。


「魔王様・・・その前に、無礼を承知で、頼み事がございます。」

「どうしたんだよ、改まって急に・・ぶふっ!なんだよサヤ!その頭は!?」

「!!っ。魔王様だって同じではありませんか!!・・・ではなくてですね!」


バババっと、シドー以上に爆発していた髪を一瞬で直してシドーに向き直る。

サヤの、その尋常じゃない雰囲気にシドーは思わずたじろぐ。横のルシアも、心なしか身構えているようにみえる。

そしてサヤが、意を決したように口を開く。


「私と、いえ、私達と手合わせしてもらいたいのです。この旅は、苛烈なものとなるはずです。お互いの能力を知っておけば、いざというときの連携も上手くいくはずでしょうし。」

「・・・一理ある」


それまでシドーの隣にいたルシアも、サヤの隣に行き、シドーに向き直る。

確かに一緒に戦う仲間の能力を知っておくに越したことはない。


「でも、俺とお前らじゃあステータスに差がありすぎて、勝負にならないんじゃ・・」

「そんなことは百も承知です。勝負ではなくて、我々の力を知ってもらいたいのです。」

「・・・・嘗めないで」


勝負ではないと言いつつ、サヤは、武装である手甲と脚甲を装着し、ルシアはお馴染みの杖を構える。二人ともヤル気満々である


「さあ!魔王様も武器を構えて!」

「・・・いざ尋常に」

「よし、わかった!二人とも全力でかかってこい!」


シドーも腹を括り、背負っていた鎌を引き抜き、やや引きぎみに構える。

サヤとルシアも更に距離を取り、魔法の詠唱に入る。


「いきます!『憑依:キラータイガー』!ガオォォォ!!!!!」


サヤの体の周りを、視覚化出来るほどに濃密な魔力が渦巻き、サヤの姿を変えていく。鋭く発達した牙と、ナイフのような爪がはえ、手足は元の倍近く太くなって黄色と黒の毛皮に覆われていく。


「グルルルルゥ!行きます!」


すぐさま、虎の獣人と化したサヤが、鋭い爪を振りかざして猛スピードで突っ込んでくる。

シドーも油断なく身構え、迎撃体勢をとる。

強化されたステータスの影響か、突っ込んでくるサヤの髭の一本一本、筋肉の動きなどがはっきり見える。ガブリエルの方が速かったが、シドーは爪の一撃を鎌で受けようとしてーー


「おぉっとっと」


首筋がぞわっとして、慌ててその場から飛び退く。瞬間シドーの立っていた場所から氷柱が飛び出す。


「あっぶね!ルシアか!?」

「どこを見ているのですか‼」


息つく間もなく、氷柱を細切れにしてサヤが襲いかかる。

長く鋭い爪の連撃を、技術より、とにかく体を動かしてかわしたり、鎌の峰で受け止める。


「ハアアア!!!」

「このぉッ!」


このまま攻めこまれたら何も出来ないと判断したシドーは、鎌を横一線に振るってサヤを追い払う。

しかし、シドーが鎌を振るう直前にはすでにサヤは鎌の間合いから離脱していて、鎌の一撃は、凄まじい風切り音と共に、その軌道の延長にあった木や岩を粉々にする。


「うわ~・・・これはヤバイな・・・」

「ええ、ですがどれだけステータスで速かろうが強かろうが、軌道が分かれば対処は簡単です!」


闇雲ながらも神速で振るわれる鎌の連撃を、経験とキラータイガーの髭のセンサーでかわしていく。ステータスの差で大きく負けているため、受け流すことは出来ない。防戦一方ながらも、サヤは何十倍もステータスが上の素人の攻撃を捌いていた。

そして、焦ったシドーが大振りした一撃をかわし、鎌を踏み台にしてシドーに肉薄する。


「『キラーエッジ』!!!」

「ッ!」


鋭い爪の五連撃が、ガードの甘いシドーに襲いかかる。

怒り狂ったガブリエルに喰らわせたのと同じ攻撃だが、シドーの腕に伝わってきたのは鋭い衝撃ではなく、あまりにも軽い衝撃だった。


「・・・え?」

「そしてこれに関しては、ステータス・・・特に防御面に関してですが、これほど差があると、私の最高速の攻撃程度では虫にたかられる程の感覚しかないでしょう。」


サヤが悲しげに呟く。シドーにとってはそれこそ顔の周りで虫が飛び回った程度の感じしかしなかったが、サヤにとっては会心の攻撃だったらしい。鋭い爪が衝撃に耐えきれずにへし折れたり、ヒビがはいり、サヤ自身の血が滴り落ちる。


「尤も、攻撃力重視の変身であったとしても、逆に私の腕が吹っ飛んでしまうでしょうね。」

「こればっかりは純粋なステータス差が出るわけか・・・・。にしてもその変身メチャメチャはえーな。来るのはわかったけど体が追い付かなかった。」

「ステータスと魔王様の意識のズレは鍛練していくうちに慣れますよ。・・・さて、これで私は戦闘不能です。憑依魔法の弱点は過度のダメージで憑依が解除されること、憑依させた魔物の生態や弱点も一緒に受け取ってしまうこと、憑依時に受けたダメージは、解除後も肉体に残ることです。いかがでしょうか魔王様」

「それでもスゲーよ!他にも色々な変身があるんだろ?それも見せてくれよ!」

「それはまたの機会に。今はあの子の相手をする方が先です。」

「え?」


不意にサヤがその場を飛び退く。いつの間にか辺りは霧に包まれていた。


(霧にしては熱い・・・なんだこれは)


とりあえず、霧を吸い込まないよう口をふさいで姿勢を低くする。


「・・・・安心して、毒とかじゃないから」

「ルシアか・・・霧で俺の視界を封じた訳か・・・」

「・・・・水魔法と火魔法の合わせ技」

「それなら極大の炎と冷気を同時に浴びせれば良かったんじゃないのか?」

「・・・・メド○ーア?」

「だからなんで知ってるの!?」


姿が見えず、声だけのルシアとメタい話をしている間も、霧は深くなっていく。

鎌を振って霧を吹き飛ばそうとするも、すぐにまた覆われてしまう。


「くそっ・・・どうしたもんか・・・ん?なんか段々寒く・・」


ぴきぴきと、嫌な音と共に、辺りの気温が一気に低下していく。

吐く息も白くなり、嫌な悪寒を感じる。


「このまま凍らせる気か、そうは上手くは・・・」


ぐぐっと、その場を踏みしめ、


「いかねぇぞ!」


全力で跳躍する。

途端に分厚い毛布のような空気の壁がのし掛かってくる。


「こ・・・の・・・」


それでも強引に突破しようとするシドーに向けて、どこからともなく雷光が襲いかかる。


「うおおお!?っぶね!?」


ぎりぎりでかわすが、次々と、別々の方向から雷が襲ってくる。


「ぎゃああああ!?ル、ルシアー!?お前分身の術とかも使えんのかよ!?」

「・・・・そんなわけない」

「だよね~、思いっきり世界観狂っちゃうしな!」

「・・・まおーさまを閉じ込めた雲に、雷を混ぜただけ」

「何てことしやがるこのドSロリ!」


つまりシドーは雲の中に閉じ込められたということだ。それも凶悪な雷雲の中に。

そして、雲の中ということは、雷だけでなく、拳大の大きさの氷の玉、雹もシドーに向かって襲いかかる。


「うおおお!?マジかああああ!」


四方は分厚い空気の壁に阻まれ、絶え間なく雷や雹が襲いかかる。まるで天候を相手にしているようだ。


「・・・・ちょっと水を加えて混ぜてみた。」

「そんなねるね○ねる○みたいに気軽にやるもんじゃないぞこれはああああ!」

「・・・・まおーさまはもう私の掌の中。これが私の技、火と水と雷の融合魔法『雷雲結界(ゼウスマキナ』」


準備に時間がかかるのが難点だが、1度発動させれば相手を一方的に蹂躙できる協力な魔法である。


「どうすっかなこれ・・・走ろうが飛ぼうが空気の壁に阻まれちまう。俺のステータスでも破れないとかどんだけだよ。」


実はシドーが逃げようとすると、その場所にめいいっぱい雲を集めて全力で防いでいるのである。

それに気づかないシドーは雷や雹を避けながら走り回っては壁にぶつかるのを繰り返していた。


「考えろ!吹き飛ばそうにも俺には風魔法が使えない!ならどうする・・」


思い浮かべるのは先日のガブリエルとの戦い。光のレーザーを飲み込んで無効化した・・・・


「・・・・そろそろ降参する?」

「いや。でも、これで終わりにする!」


シドーは魔力を籠め、ガブリエル戦で出した黒い玉を1つだけ生成する。


「飲み込め!『重力凶星(ブラックホール)』!!」

「・・・あれ?この間と名前が違う」

「い、いいんだよそんなことは!」


決して前の技名が、かなりハズレているとか思ったわけではない。


「と、とにかく、吹き飛ばせないなら飲み込んでしまえばいい!」

「!・・・させない」


ルシアが新しく雷撃を雲に放つ。雲の中で反発、増幅した雷がシドーに襲いかかるがもう遅い。

黒い玉が発生した時点で全ての雷が、シドーではなく黒い玉に吸い込まれていく。もちろん雷だけでなく、『雷雲結界』も、全て『重力凶星』に吸い込まれていく。

雲が晴れ、シドーから離れた場所で魔法を行使していたルシアの姿がはっきりと現れる。


「・・・・くっ」

「見つけたぞ!」

「『水爆弾(ウォーターボム)』!」


シドーを近づけさせまいと、ルシアはなけなしの魔力を絞って水の玉を三連射する。シドーはこれを鎌で切り裂いて突進しようとするが、その瞬間水の玉が凄まじい高温になり、水蒸気をあげて炸裂する。


「うおあちゃちゃ!!・・・って、熱くない!!」


しかし、その程度の魔法では、シドーの耐久力は崩せない。

構わずルシアに肉薄し、杖で防御の構えをとるルシアに鎌を振りかぶり、寸前でとめる。


「・・・・まいった」

「いやいや、すげー魔法だった。何にも見えない聞こえない中であの雷撃はかなりヤバかった。」

「・・・・でも無傷」

「正直貰い物のステータスで勝っても、喜べないんだよな」

「魔王様~ルシア~お疲れ様です!」


そこへタオルと、幾つかの薬瓶を抱えたサヤが小走りに駆け寄ってくる。


「魔王様、濡れたままでは風邪を引いてしまいます。これを使ってください。・・・ルシアはこれ飲んで」


てきぱきと、濡れ鼠のシドーにタオルを渡し、ルシアには青い色の液体が入った薬瓶を渡す。その薬瓶を見た瞬間、ルシアの顔色が更に青白くなるのがわかった。


「・・・・・やだそれ不味い」

「ダメ!飲まないとルシアぐでんぐでんになっちゃうでしょ!」

「・・・・い~や~、犯される~・・んぐッ!?」

「誰が犯すか!」


逃げようとするルシアだが、魔力を使い果たしているのかその場から動けず、サヤに口に瓶を無理矢理突っ込まれる。小さな手足をパタパタと振って抵抗するが、体格も、力のステータスもサヤが遥かに上のため、抵抗虚しく、手足がパタリと動かなくなる。


「・・・南無三」


そんなルシアを見て、シドーはポツリと呟いた。     

鎌って実際の武器としてはめちゃくちゃ使い勝手悪かったらしい・・・

それでもやっぱりロマンを感じるのは俺だけじゃないはず

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