表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/47

覚悟

職場の異動やらでバタバタの毎日

「ははははははははは!」

「ま、魔王様?」


シドーは笑い続ける。ガブリエルの最大威力の攻撃。今ならわかる。


これくらいなら余裕で耐えられる。


そう、自分一人だけなら。防がなければ、かきけさなければサヤとルシアは死ぬ。


神に匹敵するステータス、全てを見通す魔眼をもってすればこの程度の敵最初の一撃で倒せたはずだった。

ならなぜこんなことになっているのか、全てシドーの慢心のせいだった。

生前漫画などで「ここで敵を倒せたはずなのに」と思ったシーンは数えきれないほどあった。物語のなかとは言え、シドーはそう思わざるを得なかった。


なのに・・・・この様である。


倒せるはずの敵に最後の手段まで使わせ、この世界で自分を受け入れてくれた大切な人達を危機に晒した。シドーはそんな間抜けな自分が可笑しくて仕方がなかった無様で滑稽でまさに「漫画の主人公」のようであった。


「消えてなくなれ!!魔王!」


そうだ。俺は『魔王』だ。残忍で冷酷で一切の情け容赦もなく、油断、慢心、躊躇なくただ目の前の障害を排除する。もう俺は人間じゃないんだ。人間だった頃の美和 志童は死んだ。死んで魔王シドーとなった。


「~~~!!!」


ガブリエルが何か叫んでいるがもう何も聴こえない。聴こえるのは今自分を王として慕い、身を案じてくれる二人の女の子の声しか聴こえない。


「「魔王様!!」」


あ~あ全く、二人してそんな心配そうな顔して。サヤに至っては泣きべそかいてんじゃねーか。後でお仕置き確定だな。これは。

二人をこんなに傷つけて、不安にさせた俺自身に、二人がもうこれからなんの心配も不安もなく俺についてきてくれるようにけじめをつけないとな。


「サヤ、ルシア」


二人がはっと顔をあげる。遠く離れていてもわかる。二人の感情が、不安、焦燥。そんな感情を吹き飛ばすようににっと笑ってシドーは言った。


「任せろ。俺は魔王だぞ。世界の半分なんてケチ臭いことは言わねぇ。世界の全てを手にいれて、魔王的に平和にしてやる。だからもうそんな顔はさせねぇ。」


そして、ガブリエルに向き直る。


「あんたが聖王?のために俺らを滅ぼそうっていうのならこっちのやることは1つだ。俺は、俺たちのために、向かってくるお前らを一匹残らず滅ぼそう!エゴはお互い様だろ?!!」


シドーの言葉にガブリエルがプルプル震えているのがわかる。先程のシドーのように笑っているわけではない。シドーに対する底知れぬ怒りによる震えだった。


「平和?・・・平和だと・・・。魔王ごときが平和を口にするなど!。貴様らは混沌と破壊しかもたらさない存在だ!聖王こそ、この世界の秩序であり、正義であり、平和の象徴なのだ!故に!聖王が貴様らの滅びを望んだ今!貴様らは滅びるべきなのだあああ!!」


さらなる光線をうち放つ。苛烈さを増して迫り来る光線を前にシドーは、ブラックホールを手放した。

ポンっと軽く手で押し出すように力を加えられた黒い玉はゆっくりと、放たれる光線を吸収しながらガブリエルに近づいていく。


「な、なんだこれは!?くっ!・・・打ち落としてくれるわ!!」


更に翼からも光線を打ち出すがことごとく飲み込まれ消えていく。玉が近づいてくるとガブリエルは自分の体が、目の前の玉に吸い込まれ始めていることに気がつく。

慌てて距離を取ろうと両足と翼に力をこめるが


「遅い」

「!!??」

そう、遅すぎた。既にブラックホールの効果範囲内に入ってしまっていた。

動かない。動けない。自らの手足が、翼が、鉛のように重く感じられ、目の前の玉に吸い込まれ、否、落ちそうになる感覚が全身を支配する。


「くぉっ!の!?」


それでも全力を振り絞り、飛び上がる。その瞬間、脚が地面から数センチ離れた途端、ガブリエルの体は猛烈な勢いで玉に吸い込まれて行った。


「な、なにぃぃぃぃい!!バカな!?こんなはずが!こんなことが!あるわけがああああ!」


めきめきと、重力でガブリエルの足の骨が潰されていく嫌な音が響く。シドーはもう何もしていない。なにもしなくても、ブラックホールが全てを飲み込んで終わらせてくれる。シドーは何の感情も感じさせない顔でその処刑の様子を見ていた。

不意にシドーの視界が暗闇に覆われる。柔らかな感触がそっと瞼に触れるのがわかる。


「サヤか・・」

「無礼を承知で失礼致します。恐らくではありますが、魔王様は人を殺した経験がないのではありませんか?」

「・・・・なんでわかるんだよ・・」

「そのお顔と、震えている様子をみればすぐにでも。」


そう、シドーは震えていた。初めて人を殺す恐怖に。自分の魔法で、手足を潰され、断末魔の悲鳴をあげて絶命しようとしている命が目の前にある。

仲間を、大切な人を守る為とは言え、目の前のガブリエルを、先程は大勢の兵士を手にかけた。人を殺した事実は揺るがない。普通の高校生だったシドーには荷が重すぎた。

普通の高校生なら。


「かっこわりーなちくしょう・・・・ありがとうサヤ。正直改めて人を殺したって罪悪感と不安とショックでチビりそうだけど・・・」


すっと、瞼にかけられた手を退ける。


「もう決めたんだ。お前らを守る。そのためなら誰が相手でも戦うって。

なら、その結果がどうなったか、どうなるかっていうのはちゃんと目に焼き付けておきたいんだ。魔王として、その責任は背負っていかなきゃいけないんだ。

やるだけやって、辛いことから目をそらすのはもう出来ないんだ。もう、子どもじゃないんだ。」

「魔王様・・・」


サヤはシドーを昔の自分に重ねていた。

ルシアと共に初めて自分達を襲ってきた天界の兵士を、見境のない魔獣を殺した日のことを。親も殺され、子どもの自分達が身を守るにはどうすれば良いかはわかっていた。わかってはいたが命が失われる感覚にサヤもルシアも震え、声をあげて泣きわめいた。

シドーはその頃の自分達より年上だったが、それでもこの世界より命の価値が重く、争いとは無縁の生活を送ってきた者にとってはかなりショッキングなものだろう。下手をしたら精神を病んでしまうほどに。


(だけど貴方はまっすぐ見据えて、受け入れようとしている。

魔王という立場の責任と業を・・・・)


サヤは改めて自分が遣える主をじっと見つめる。

目の前の光景を見るその表情が焦りを孕んだものとなり、


「下がれ!サヤ!」

「ふぇ?」


ばっとシドーが呆けているサヤの前に立ち、庇うように両手を広げる。

何事かとサヤが前を見ると


「まあおおおおぉぉぉ!!!」

「ヒィッ!?キャアアアアア!!」


ずるりずるりと黒い玉から少しずつ這い出してくるガブリエルの姿があった。

全身血みどろで無事な所を見つけるのが無理なくらい手も足も胴体もグシャグシャになっているが、目だけがギラギラと呪うようにこちらを睨み付けている。


「・・・・・まおーさま止めを」

「いや、いい。俺がやる。」


ルシアが杖の先端に氷の刃を展開させるがシドーはそれを制し、

玉に向けて手をかざす。


「まおぉぉ!!ぎざまだげば、ぎざまだけばああああ!!!」

「いい加減くたばりやがれクソ天使が!」


シドーがかざした手をぐっと握りこむ。その瞬間玉は一瞬でビー玉位の大きさに収縮し、ガブリエルの姿も消える。


「『超新星爆発』(スーパーノヴァ)!!!」


シドーが呪文を唱えると黒い玉は大爆発を起こして消え去った。

ただ、一枚の真っ白な羽を残して。


「・・・・完全に消えた」

「や・・・やったあああ!やりましたよ魔王様!2万の軍勢と天界アハトの幹部を倒しましたよ魔王様!」


どことなく嬉しそうな顔でルシアが、ピョンピョン跳ねて喜ぶサヤがシドーの方に向かう。


「お・・・おう。やったぜ~~」


しかし当の本人は、やつれた顔で死人のようにその場に倒れ伏す。

「「まおーさま/魔王様」!?」


突然のことにサヤは勿論、ルシアもぎょっとした顔でシドーに詰め寄る。

すぐにルシアがぐったり萎れているシドーの具合を見る。


「・・・これは・・!」

「一体どうしたんだルシア!?魔王様は!?」


ルシアのローブを掴んでサヤががっくんがっくん揺らす。

あ~あ~あ~とルシアの声が震えた聞こえる。


「・・・これは」

ぐぅぅぅぅきゅるるるるぅぅぅぅ


「え?」


その奇っ怪な音は、サヤとルシアに介抱されている干からびたシドーの腹から聞こえてきた。


「・・・まだ魔力の制御も録に出来ないのにあんな大技を使ったのと、初めての戦闘の緊張が解けたのが重なったみたい」

「えっとつまり・・」

「急に大量の魔力を使ったことによる魔力酔いと・・・」


きゅるるるるる


「・・・空腹」


チーン・・・と、その場をなんとも言えない空気が流れる。


「は・・・腹へった・・・あ、頭いてぇ・・・・」


ゾンビのようなシドーの呻き声だけが、戦闘でもはや山とは呼べなくなったさら地に響いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ