後から段々恥ずかしくなるヤツ
遅くなりました!
ブゥゥゥンと、響くような低い音をたてながらそれはシドーの周りにいくつも滞空していた。
「な、・・・あれは一体・・・」
「・・・・あれはまおーさまの魔法・・・多分重力魔法の一種だと思う。」
「それはわかるけどなんなのあの異常なまでの魔力の塊は!?」
「・・・・わからない。けど、これだけはわかる」
「何が!?」
「・・・・・まおーさまが、本気になった。」
シドーが手を動かすとそれにあわせて黒い球体も、シドーの周りを飛ぶ。それらを操るシドーの表情は、先程の余裕の一欠片もないほど真剣だった。まるで、少しの刺激で大爆発を起こす爆弾を扱うかのように。
「終わる・・・?この私が?・・・・ふっっっっザケルナアアアアアア!!!!」
絶叫と共に、シドーに切り飛ばされた左腕が禍々しい光を纏って再生する。いや、再生と言うより光のエネルギー自体を腕の形にして顕現させていた。
怒り狂ったガブリエルがシドー目掛けて光球―否、光のレーザーを放つ!1発で小さな城ぐらいなら木っ端微塵に出来るエネルギーを秘めたレーザーを両手、そしてまだ辛うじて感覚の残った1対の翼から計4発放たれる。
「この世から!細胞の一欠片!魔力の残滓すら残さず!きぃえうせろぉぉぉぉお!!!」
放たれた4本の光の線が、大地を抉りながらシドーに迫る。猛スピードで迫り来る破壊の光を前に、シドーは避けるどころか、ただそこに立っているだけだった。
「魔王様!」
「ッ!」
サヤが叫び、ルシアが息を呑んだその瞬間、光のレーザーは無防備なシドーの体に直撃し大爆発を―――――――起こさなかった。
「な‼?・・なぜ!?」
「一体何が・・・・」
二人は一瞬何が起こったのか本当にわからなかった。目も眩むガブリエルの光線の圧倒的な熱量、光量が、シドーに触れた瞬間パッと消えたのだ。
まるで電灯の灯りを消すように。そして直撃を受けたはずのシドーは何事も無かったかのようにそこに立っていた。
これにはさしものガブリエルも焦りを感じずにはいられない。続けざまに魔力を込め、
「『ジャッジレイン』!!!消し飛べ!魔人族ゥゥゥ!!」
絶叫に近い叫び声をあげ、死の光を放つ。
辺り一面を埋め尽くす光の弾幕、虫一匹通る隙間もない程の光弾が迫り来る。
その射程範囲にはシドーは勿論、サヤとルシアもいた。
「まずいっ!!」
「・・・あっ・・・」
死んだ
二人の脳裏にその事実だけが浮かんだ。
いや、その瞬間にはもうとっくに光弾に身を貫かれ、跡形もなく消滅していた。
守るべきはずの主に戦わせた挙げ句何も出来ずに死んでいく。
自身の死の事実より、そんな後悔だけが残る。
はずだった。
「勝手に死のうとするな」
サヤとルシアを飲み込もうとした光は直前で不規則にネジ曲がり、シドーの方に向かっていく。いや、ガブリエルを中心に全方位に放たれた光線が全てシドーに向かっていく。まるでなにかに引き寄せられるように。
「なんだ・・・なんなんだ!それは!?我の光を!裁きの光を!ことごとく飲み込むその黒い玉は!?」
そう、ガブリエルの言う通り、光線は全てシドーではなくシドーが展開しているいくつかの黒い玉、そのうちの1つに吸い込まれて消えていったのだ。
サヤはその様子を唖然とした表情で見ている。逆にルシアは、それがなんなのか、魔法使いとして気になるのかじっと見定めるように視線を送っている。
「この世界には『宇宙』があるのか『星』があるのか知らねーけど、まあ簡単に教えてやるよ、この玉は俺の引力魔法によって超高密度になるまで引き寄せられた魔力の塊だ。」
「魔力の塊だと!?・・そんなものが!我の光を!飲み込んだと言うのか!?」
ガブリエルがまるで信じられないように叫ぶ。
「この玉の中心から全方位に向けて強力な引力を発生させることでお前の光線を飲み込んで消したんだよ!この闇の星は!全てを飲み込み、全てを無に帰す!
一切の抵抗も無駄だ!」
それは超高密度かつ大質量の天体であり、そこから発生する重力は光すら引きずり込んでしまう。
一度捕まれば脱出不可能。空間を歪めるほどの重力で何もかも飲み込んでしまうその星の名は。
「『ブラックホール』!!」
「?・・・魔王様?その玉の名前は確か『マックロ○ロスケ』では・・?」
「う、うるさいぞサヤ!性質的にはこっちの名前の方がしっくりきたんだよ!」
決して途中でなんだか恥ずかしくなってきたわけではない。
「とにかく!今ならまだ間に合う!降参してとっとと自分の国へ帰れ!こいつは本当に加減が効かないんだ!」
ガブリエルに向け、警告をする。前の世界、現代でならそれは通じたかもしれないがここで、ガブリエル相手には寧ろ逆効果であった。額に青筋を浮かべ、激昂する。
「魔王の分際で!我に逃げろだと!?光の御子である聖王様に忠誠を誓いし六天馬が一人、このガブリエルが!背を向けるなどあり得ないのだ!貴様のごときのちんけな魔法など!我光が飲み込んでくれるわ!」
そう叫び、胸の前で両手を合わせる。その瞬間、凄まじい魔力の奔流が、ガブリエルの周囲に渦巻く。そのまま合わせた手をシドーに向けて伸ばす。膨大な量の魔力がガブリエルの両手に集まっていく。
「・・・あれはまずい」
「え!?ま、待てルシア!」
サヤが止めるがもう遅い。ルシアはサヤの首根っこを掴むと転移魔法で先程より遠い場所まで転移する。ルシアはわかっていた。自分達があの場に居れば、巻き込まれて今度こそ本当に死んでいたからだ。
「さすがルシア。後でたっぷり俺の魔法解説してやるからな・・・」
そしてシドーも、ブラックホールを操作し、体の前に展開させる。
「やってみろよ!全部引きずり込んでやるよ!」
「ぎえろぉぉぉぉぉ!『ジャッジメント』!!」
限界まで溜め込まれた光の魔力が、爆発する勢いでシドーに向けて放たれる。
シドーもまた、ブラックホールを掲げて迎え撃つ。次の瞬間、
バチバチバヂバチィ!!!と凄まじい音と共に互いの魔力がぶつかり合いせめぎ合う。
「オオオオオオオオオ!!」
ガブリエルが吠え、さらに光の魔力を放つ。禁忌の業による能力の底上げ。その代償は寿命だった。だかそんなものはガブリエルにとってはどうでもよいものであった。聖王に忠誠を誓ったときからその身は聖王の剣であり盾である。主の望む世界のため、魔王という存在を討ち滅ぼす。例えその結果が自己の滅びであろうとかまわなかった。
ビキキ!
それは唐突に鳴り響いた。
シドーが盾としてかざした黒い玉。ガブリエルの光線を幾度となく飲み込んだブラックホールにヒビが入ったのだ。
「!?」
「ハハ、バハハハハハハハハハ!!我の勝ちだ!消えろ魔王!!」
勝利を確信したガブリエルがさらに力を込める。ヒビはますます広がっていく。
「ま、まずい!お逃げください!魔王様あああ!」
シドーの危機に飛び出そうとするサヤだが、この距離では間に合わない。
ルシアもそれがわかっているからサヤを止めなかった。
唇を噛んで感情を押し殺し、見守ることしかできない自分をルシアは恨んでいた。
「・・・・まおーさま」
「安心しろ魔王!すぐに貴様の部下二人も消し去ってやろう!苦しませず!一瞬で終わらせてやろう!」
ピクッ
ガブリエルの言葉に、シドーのこめかみがひくつく。ガブリエルの光線とせめぎ合いながら少しの間プルプル震えたかと思うと、
「ぷっあははははははは!」
緊迫した場に似合わない笑い声。その声は、今にも光線に飲み込まれそうになっているシドーのものだった。
最近よく電気つけたまま眠ってしまいます