まっ○ろくろ○け出ておいで!
明けましておめでとうございます!
「・・・・すごい」
シドーとガブリエルの戦いを崖の上から見ていたルシアは感嘆する。
ガブリエルのステータスは自分やサヤより遥かに上、技量も比べ物にならないくらい優れており、サヤと二人がかりでも余裕で殺されるレベルである。
そんな化け物の攻撃をいっさい寄せ付けない魔王の力を目の当たりにして言葉を失ってしまう。
「うぅ・・ここは・・?」
「・・・・気がついた?サヤ・・」
「ああ、ルシアか・・・・ルシア!?おい!魔王様は!?魔王様は何処に・・・!?」
「しっ・・・」
捲し立てるサヤの口を両手で塞ぎ、指で崖下を見るよう示す。サヤも落ち着いた様子で、ルシアに従って崖下を覗きこんでみると
「んな!?魔王様が敵と戦っておられ・・!こうしてはいられない!ルシア!私たちも魔王様に加勢を!」
「・・・・うるさい、怪我人」
騒ぐサヤをいらっとした様子で手にした杖でぶん殴る。ゴチンッ!という打撃音とともにサヤの顔が地面にめり込む。
「ぶべらッ!・・・ルシア!お前絶対そう思ってないだろ!」
「・・・・私達が行っても無駄」
「うぐっ、確かに私の全力の防御を軽々貫く奴に勝てるなんて思ってはいないが見てるだけというのも―」
「・・・・大丈夫、そんな奴の攻撃がまおーさまには全く効いてないから」
「なっ!?いくら魔王様でも・・・」
そういって再び崖下を覗きこんだ瞬間、凄まじい轟音と共に崖下からシドーに殴られたガブリエルが、白目を剥いて吹き飛んできた。
「ヒィッ!キャアアアアア!?な、何あれ!?」
「・・・決着がついたみたい・・いこ」
「え?あっ、待ってルシア!」
ルシアに慌ててしがみつき、シドーのところに転移する。
「自分でブッ飛ばしておいてなんだけど、殴られた奴がキラーンってなるの漫画の中だけだと思ってたわ・・」
ガブリエルをお星さまにした後、落ちてた鎌を拾い上げそんな呑気なことをいうシドー。するとすぐに転移してきたルシアとサヤが現れる。
「おお、サヤ!怪我はだいじ「魔王さまぁぁぁぁ!」むぐう!?」
「魔王様!御無事でなによりぃぃ!何処にも怪我などされてないでしょうねェ!?」
シドーに抱きつき、身体中をぺたぺた触りまくるサヤ。ルシアは後ろでその様子をぼっーと見ている。
「もがもが・・・ええい!息苦しいくすぐったい柔らかいいいにおい!」
「え?あっありがとうございます?」
「じゃなくて!無傷だよ!敵もワンパンでKOしたし・・・。サヤこそ大丈夫かよ・・・」
「わ、私のことなどどうでも・・・ッ!」
不意にサヤがよろけて咄嗟にシドーがその体を受け止める。見ると腕に巻かれた包帯に血が滲んでいた。
「・・・・言わんこっちゃない、傷が開いた」
「全く!サヤは暫く絶対安静!それとこれはルシアにもだけど今後俺を庇うのは禁止だ!!」
「しかし魔王さ「いいな!?」・・はいぃ」
「・・・承知しました。まおーさま」
サヤは力なく応え、ルシアもシドーの実力を見てたからこそ納得したように頷く。
「全く!俺のステータスはこの間見ただろ?二人ともドン引きしてて正直傷ついたけど、それぐらい強いんだろ?・・・自分のステータスの癖にあんま実感わかねーけどさ・・・・自分の身ぐらい自分で守れるわ!」
「こんなふうにな!」
おもむろに鎌を振ったかと思うと上空から降り注いだ光輝く一撃を弾き飛ばす。それが岩壁に激突し、爆発してからサヤとルシアは何が起こったのか理解した。
「・・・・!!?」
「な、何今の!?もう敵は全員倒した筈なのに・・・」
「いや・・・まだくたばってねぇ奴が一人いる。」
シドーは空を見上げる。
そこには先程シドーが殴り飛ばしたガブリエルが、変わり果てた姿で宙に浮かんでいた。
「ま・・魔王ゥゥゥ!ぎざま・・・ぎざまはごごでじぬべぎなのだああああ!!」
殴られた衝撃で背中の羽は無惨にへし折れ、砕けた顎からは血と折れた歯が混ざって滴り落ちている。それでもなお、血走った眼でシドーを睨み付け、辺り構わず光弾を撒き散らす。
「な、何てやつだ!魔王様の攻撃をまともに受けてまだあんな力を・・」
「・・・・嫌な魔力を感じる。このままだと・・・」
「「このままだと?」」
「・・・・奴の魔力が暴走して、大爆発する。」
ルシアの言葉にサヤとシドーは焦りの表情を浮かべる。その間にも、ガブリエルの光弾が降り注ぐ。
「じねぇぇぇ!聖王の名の元に!私が貴様の命を捧げるのだあああああ!!」
「・・・・うるさい、これで止まって」
ルシアのかざした手のひらに、水色の魔力が集まっていく。
「水牢獄」
ルシアが魔法を唱えた瞬間、ガブリエルが大量の水の塊に飲み込まれる。
突然のことに驚いたのか、塊の中でガブリエルがもがいている。
「もが!?ごばばば!?」
「おお!なんかすげー苦しそう!いいぞールシア!」
「相手を苦しめることに関してはルシアの右に出るものはいません!」
「・・・サヤ、後で覚えてて」
誤解を招きそうなサヤの賞賛にジロリと睨みを効かせながら、さらなる魔法で追い討ちをかける。
「氷結」
パキィィィンと、ガブリエルを閉じ込めていた水塊が一瞬で凍りつく。
「やった!」
「よし!このまま砕いて木っ端微塵に・・・」
パキパキィ!
「「え?」」
一瞬今度こそ勝ったと思いきや、氷塊に入ったヒビと、額から汗をたらし苦悶の表情のルシアを見て、その考えは否定される。
「・・・・ダメ・・もたない・・きゃっ!」
バリィィィン!と氷を粉砕してガブリエルが出てくる。その衝撃でルシアの軽い体が弾き飛ばされる。
「ルシアァ!」
「俺に任せおぶぅ!?」
シドーが咄嗟に回り込んで受け止めるが、ローブが広がって視界が遮られるのと、柔らかい感触に包まれ、もんどりうって一緒に地面を転がる。
「・・・まおーさま大丈夫?」
結果助けた筈のルシアから心配されてしまった。
「おおう、大丈夫!やっぱルシアは柔らかいなあ・・!じゃなくてルシアこそ大丈夫か?」
「・・・ん、平気・・・でもダメだった・・」
しゅんとして俯いているルシアの頭をポンポンと撫でる
「気にすんなって、にしてもすごかったぜ!あいつを閉じ込めちまうなんて。さすがルシア!」
にっと笑ってルシアを誉めると、ほんの僅か唇の両端が上がっているのが見えた。
「それに、ルシアのお陰であいつを倒す方法を見つけた。」
「・・・まおーさま、それって・・・」
「取り合えず戻ろう!サヤがやられちまう!」
「『憑依:キラータイガー』うおおおお!!」
サヤは、自分が憑依出来る魔物の中で、一番素早い魔物を憑依させていた。
手足の先に肉球と鋭い爪を発現させ、頬の髭による感知で光弾の動きを予測して避けていた。
復活したガブリエルは怒り狂っているのか更に攻撃が苛烈になっていた。
サヤも避けるだけで攻撃する余裕はなかった。
「ちょこまかとぉぉぉ!!鬱陶しいわ小娘がァァァァ!!」
「くぅッ!このままじゃ・・・・」
更にこの変身は普段以上に守りを捨てて身軽になるため、ガブリエルの攻撃が1度でも当たればすぐに動けなくなってしまう。
「じねぇぇぇ!!」
「!!『キラーエッジ』!!」
攻撃が大振りになった一瞬の隙をついて、爪による瞬間5連撃を浴びせる。
しかし、皮膚の表面にうっすら傷がついただけでダメージはなかった。
「ゴアアアアア!」
「ここまでか・・・」
ついには、先程の傷が再び開き動けなくなってしまう。
ガブリエルが動きを止めたサヤに止めを刺そうと振りかぶり、
「サヤァァァァ!伏せろォォォ!」
「!」
バッと、後ろからの声に振り向くことなくその場に伏せる。誰が何をしようとしているかは、強化された耳と髭でわかっていた。
「おおおおおりゃあああああ!!!」
ズバンッ!と、高速で迫ったシドーが、振りかぶったガブリエルの左腕を鎌で切り飛ばす!斬られた腕がくるくると宙を舞う。
「わ、私の腕がァァァァ!?オノレェェェ!!」
吹き出す血に構わず、残った右腕でシドーに襲いかかる。しかし、
「おせぇ」
全ての光弾を避け、右腕の一撃をかわして鎌を振るう。それだけでサヤの攻撃も通さなかったガブリエルの皮膚を、紙のように切り裂いていく。
「ぎゃあああああああ!!!!」
全身から血を噴き出しながらも、光弾を放ち辺りを焼け野はらにする。
「わだしはあああ!!こんなどごろでええ!!」
「そうだよな、いくら斬ろうが殴ろうがお前は止まらねえらだろうな。HPはとっくに0になってるのに『魔物への憎しみ』とか言うチートスキルで体を動かしてんだからな・・・だからもう、これしかねぇんだ。もうこれ以上ルシアとサヤを傷つけないために、二人を守るために!!」
シドーが、両手に魔力を込める。黒く、禍々しい、全てを飲み込むような魔力。
そのあまりの存在感に、ガブリエルも、サヤとルシアも息を飲む。
そして、シドーの、魔王の魔法が放たれる。
「全てを飲み込め、『重力凶星』(まっ○ろく○すけ)でておいで!」
非常に残念な技名と共に黒い魔力の塊がシドーの回りにいくつも現れる。
「お前はもう、おしまいだ!」
これ書いてたらなぜかトトロじゃなくて蛍の墓見たくなってきた。