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文字通り、「火蓋」が落とされる

やっとこ最初のがちのバトル展開・・説明がくどいかもです

そして、シドーが戦場に決めていた山岳地帯に聖王軍が到着する。

山岳地帯の名の通り、きりたった崖やそびえ立つ岩山、僅かに生える細い木など寒々しい光景が広がっている。何故セレナ樹海から程近いこの場所がこのようになっているのかというと、数千年程前の魔王の力によるものだった。


彼女は歴代の魔王の中でも唯一の女性であり、同じく彼女しか使い手のいなかった毒属性の魔法の使い手であった。水魔法の亜流とも言え、毒を霧状に散布しどんな生物も死に至らしめる能力は危険極まりないものだった。その魔法の影響により、当時はセレナ樹海の一部だったこの場所が死滅し、現在のようになったという。

因みに彼女の最期は、銀の鎧に身を包んだ勇者の同じく銀製の剣に突き刺され相討ちになったという。


それはさておき、現在聖王軍はきりたった崖の間に出来た広い道を隊列を組んで進んでいた。ガブリエルはその隊列の中心で部下からの報告を聞き、苦々しい表情を浮かべていた。


「・・・またか、全くだらしのない。もうこれで何人目だ。この山岳地帯に入ってから倒れたという者は。」

「ひゃ、120人です。その他にも軽度の頭痛や吐き気を訴えるものが続々と・・やはり急造の軍でこの場所まで来るのは・・ヒィ!」


息を呑む凄まじい殺気。ガブリエルに睨まれただけで兵士は全身の肌が粟立ち、喉元と心臓に刃を突き立てられたように動けなくなる。この男ならなんの躊躇もなく自分の喉と心臓を引き裂くだろうと。


「黙れ。・・そうだな、全軍に通達。今現在倒れた者達の装備一式を回収し、倒れた者達を谷へと突き落とせ。とな。」

「はっ!た、直ちに!」


なんの感情も感じさせない冷えきった言葉。ガブリエルにとって聖王以外の存在など塵芥程にしか感じていなかった。

怯えきった表情で各部隊へと伝令を回しにいく姿を見てガブリエルはため息をつく。


「全く、あの程度でこの軍隊で私に次ぐ実力者だというのだから驚きだ。やはり争いのない世界では人間という生き物は弱体化する一方だな」


普通の天人族の平均寿命は400年程である。そんな天人族の中でも強い力をもつ『翼持ち』の寿命は1000を優位に越える。この世界でそれだけ永い間生きれば自ずと多くの戦争を経験する。ガブリエル自信も他の種族や、魔物、そして魔王との交戦経験がある。勝利の栄光も、敗北の絶望も知っているからこその発言力である。


「やはり魂を奮い立たせるのは悪き敵を殲滅するとき!敵の断末魔の悲鳴を聞いてこそ、自らの生を自覚する。それすなわち『聖』なり!故に我が王は!」




そこでガブリエルは幸運にも天を仰いだ。だからこそ気づけた。山岳の間の道、仄かに薄暗いため影も移らない。そしてガブリエルも、誰もが思いもしなかった。自分達が待ち伏せされていたことに。そして、巨大な岩山が宙に浮いていることに。気付きもしなかった。

まるでその場だけ時が止まったかのようにそこにいた全員がピタリと硬直する。

そのなかでただ一人、岩山が自分達めがけ落ち始めた瞬間に我に返ったガブリエルがほぼ絶叫に近い声で叫んだ。


「そ、総員転身!今すぐセレナ樹海まで交代しろぉぉぉ!!急げぇぇぇ!!」


更に恐ろしいことにその岩山は炎を纏い、さながら隕石のように落下してきたのだ。










時は少し遡り、魔王城


「結論から言う。まず俺達は敵が来る前にこの魔王城を放棄し、東の山岳地帯で敵を迎え撃つ。」


シドーの言葉にサヤとルシアは「「え!?」」というような顔をする。

それもそのはず、数において圧倒的に不利な自分達が唯一有利とも言える籠城戦という選択肢をシドーが早くも放棄したからである。


「勿論ここにたてこもって籠城するという選択肢も考えなかった訳じゃない。

最後はルシアの転移で逃げればいいじゃないかと・・・しかーし!そこで重大な欠点が生じましたはいルシア!」


びしぃっとまるで学校の先生のようにルシアを指さす。指を指されたルシアは「・・・え?」となっているがいつもより表情がぎこちない。サヤは長いつき合いでルシアが何か隠していると確信する。

シドーもそれに気づいていた。その上で一番最初にルシアがたてた『魔王城に籠城し、敵を最奥部まで誘導して自分達はルシアの転移魔法で城の外に逃げ、魔王城ごとシドーの重力魔法で押し潰す』という作戦を黙って聞いていた。サヤもその考えに賛同し、じゃあどうやって敵を誘い込むか考えようとした矢先にシドーが「却下」と有無を言わせず切り捨てたのだ。

ふぅと息をつき、ルシアを真っ直ぐ見据えてある能力を発動する。


「魔眼発動」

「しまっ!?」

ルシアは焦るがもう遅い。ルシアの体を紅い光が覆い、シドーの目に吸い込まれる。そして今度はサヤに向き直る。


「魔王様?何を・・ふぇ!?」

「いいから黙って俺の目を見ろ・・・え~と確かこうやって・・・」

ズイっとサヤに近づき、頬が触れあう距離でみつめあう。勿論サヤの顔は彼女の種族名レッドオーガに恥じない真っ赤になる。


「なに・・これ・・?」

次の瞬間、サヤの視界にある映像が写り始める。サヤはボーッとしながらもそれがなんなのか確認しようとする。


「え~と、『みっちゃく!72時間、ミラレテイルノニカンジチャウ?マジックミラー・・・」

「ウオオオオオ!?違う!それ違う!やべぇ間違えた!サヤ!今のは違うんだ!誤解だぁ!」


シドーがサヤに行ったのは魔眼で読み込んだ情報の伝達だ。アリーのマニュアルに「目と目で通じあうんですよ!そしてちょっと色っぽ・・」と書いてあったので至近距離で脳内の考えをサヤに移すイメージで行ってみたら見事に失敗し別の情報がいってしまったのだ。

因みにサヤに誤って移した情報とはシドーが生前よくお世話になっていた企画物A・・・


「魔王様?・・今のは・・・?は、裸の人間族が透明な箱の中であ、あんなこと・・・」

「忘れるんだ!いや、忘れてください!・・・兎に角俺が見せたかったのはこれだ。」


そういってもう一度サヤに情報を伝達しようとするも


「い、嫌です!そうやって私に辱しめを受けさせようと・・・そうです!魔王様は初めて会ったときも魔法の練習の時も私にあんな恥ずかしい思いをさせて!今度はそうは行きませんよ!」


そういってシドーから距離を取り、何らかの魔法を発動しようと身構え


「・・・重力拘束(グラビティバインド

「あふん!?か、体がうごかな・・・いつの間にこんな技を」

「いいからじっとしてろ」


ご丁寧に瞬きすら出来ないほど四方八方から重力で押さえつけ、再びサヤの目を覗き込む。サヤが「キャー!えっちスケベ変態魔王!」となんかギャーギャー言っているが鋼の精神で無視してさっき見たルシアの情報をサヤに伝達する。


「これって・・ルシアのステータス?数値化されている?」

「そっか、普通は見えないもんな。じゃあ転移魔法のところ除いてみ」


シドーの言われたように除いてみるとそこには先程シドーが何故ルシアの作戦を却下したのかすぐにわかる理由が書いてあった。


『転移魔法:物質を自在に異なる座標へと移動させる魔法。修練と魔力の量により、移動させる物の大きさや質量、移動させられる距離を増やすことができる。

自分一人だけなら自在に転移できるが他者と一緒に転移する場合人数によって消費魔力が桁違いに増える』


説明を読んだサヤの顔が赤から青に変わる。先程のルシアの作戦の意味を完全に理解してしまったからだ。


「つまりルシアは敵を誘い込んで魔王様だけを城の外に転移させて・・・」


サヤがわなわなと震えている。青白かった顔が今度は怒りで再び真っ赤になる


「そういうこと!つまりこのあほっ子ルシアちゃんは俺に二人ごと敵をプチュンしろって言ってたんだよ」


シドーの結論にルシアは黙って俯く。


「・・・・違う。転移させるのはまおーさまとサヤ。まおーさまだけだと心配出し、私の魔力じゃ城の深くからだと二人を外に転移させるのが精一杯で・・」


サヤは知っている。ルシアは昔からいつもボーッとしていて何を考えているかわからないけど常に最善の手段を考えていることに。そしてそこに自分の身の安全をまったくといっていいほど考慮していないということに。常に誰かのことを思っている優しい女の子だと。


「ルシア」


サヤが声をかけようとした矢先にシドーがルシアの前に立ち、帽子の上から軽く小突く。


「さっきも言ったろ?俺達3人で逃げるんだって。自分を犠牲にするやり方は今日でおしまいだ。一蓮托生。ルシアの命は俺の命だ。ルシアが死んだら俺もサヤも死ぬ。そう思ってくれたらおいそれと死ぬわけにはいかねぇよな。・・・・勿論サヤもだぞ」


サヤが釘を刺されて「うっ!」となっているがすぐに穏やかな笑顔を浮かべる。


「私も道ずれですか?」

「当たり前だろ?・・・兎に角いい方法があるから聞けっての、この『魔法少女アホか☆ルシア』が。さっきも言ったように、東の山岳地帯で敵を迎え撃つ。

敵が山岳地帯の中心、一番空が開けている場所にきたら俺の重力魔法で山を崩して生き埋めに・・・・ってな。」

「おお!流石は魔王様!地形と敵の人数故の小回りの効きにくさを最大限に利用した素晴らしい作戦です!」


ぱちぱちぱちとサヤが拍手をすればシドーはデレデレで鼻を伸ばす。しかしルシアは・・


「・・・崩すだけではダメ。本格的な崩落が起きる前に気づかれる可能性がある。やるなら気づかれないよう、気づいたときにはもう手遅れなぐらいの物を落とさないといけない。」


表情はいつものようにのんびりとしているが発言がしっかりとしている。立ち直り、3人で生き残る・・いや、3人で敵を倒す方法をルシアはシドーの案から考え付いたのだ。

シドーはにやっと笑い、


「聞かせてくれるか、魔王軍参謀長殿?」

「・・・それは・・・・」









そして現在、山岳地帯に巨大な炎を纏った岩山が激突する。

ズドオオオオオンと凄まじい音と衝撃、上で浮かびながら見ていた3人のところにも砂煙が舞う。


「イヤーまさか山を切り取ってプチュンするとかルシアさんぱないわ~」

「・・・えっへん」

「キャアアアア!高いィィィ!」


想像を越える破壊力にドン引きするシドーと、シドーの左腕に捕まって風に飛ばされそうな帽子を押さえながら胸をはるルシア。そして作戦開始前からギャーギャー言いながらシドーの腰にしがみついているサヤ。


シドーが考案し、ルシアが実現させた作戦とは、実に単純かつシンプルな物だった。

まず山岳地帯に誘い込むのは同じ、その前に適当な岩山を見つけて重力魔法で軽くして浮かせる。しかしそのまま浮かせると敵に気づかれる可能性があるので上空までルシアの能力で転移する。そして、敵が下まで来たら投下、シドーが重力魔法で岩山の質量を元の10倍以上にし、ついでにサヤが『憑依魔法:サラマンドラ』を発動。摂氏3000℃の炎を操るサラマンドラの能力で岩山を火に包む。

これで隕石の完成である。


「にしてもとんでもない威力だなぁ、地形が変わっちゃったよ。・・・これじゃあ本当に魔王だな・・・」

「・・・・これで天界を完全に敵に回した」

「それは気にしないようにしてたんだけどな~完全にやり過ぎた感が否めない。」


ゆっくり降下しながら両手を合わせチーンと合掌。

その瞬間、砂煙を引き裂いて何かが高速でシドー達に放たれる。


「!!憑依魔法:メタルビートル!・・・ぐぅわ!」


サヤが一瞬で立ち直り、堅い甲殻をもつ昆虫型の魔物を憑依してシドーとルシアを守る。しかし、弾き飛ばされ落下し、動かなくなる。


「サ、サヤ!?なんだいったい!?」


砂煙が晴れて一人の男が姿を現す。6枚あった翼は4枚程へし折れ、全身を覆う鎧も鎧の機能を保てない程にボロボロ、美しい金髪はぐしゃぐしゃになり、白い肌も所々出血している。それでもなお、あの衝撃から唯一生き残り、地上に降りたシドーに刃を向けている。


「はぁー!はぁー!ゆ、許さん!・・絶対に許さんぞ魔王!貴様を切り刻み、その首を聖王に献上する!死ねぇ・・・魔王ぉぉぉぉぉ!!!」


満身創痍ながらも、ガブリエルは生きていた。怒りの形相で顔を歪めながらも、真っ直ぐ見据えて立っている。


「ルシア、サヤを頼む!・・・てめぇよくもサヤを!こっちも腸煮えくり返ってンだ!聖王だか天使だか何だか知らねえが来いよ!手に入れたこの魔王の力、てめぇで試させてもらうぜ!チュートリアル野郎!」


ガブリエルは金色、シドーはどす黒い魔力のオーラを吹き上げ激突する。

鎌と剣、魔王と天使の最初の戦いが始まる。



因みにシドーの武器の鎌はずっと背中に背負ってました。服装は学ランのまま(笑)

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