林での調理
まだ遠目にマルンの町が薄っすらと見えるんじゃないかという様な場所で早々に魔王と出会うとは、ある意味かなり期待できそうな道であることは分かった。
この調子でいけばいく先々に魔王と呼ばれる魔物が居そうだ。
林の入口で恐怖のあまり気を失っている女を荷馬車まで運んだ後、魔王との戦闘に巻き込まれて死んだ鳥や動物がいたのでそれらを回収して捌き、火を焚いて炙った。
まともな物を食べていない女に急に肉を与えるのはどうかと思ったが、鍋の様に汁を作れる様な道具を持っていないので仕方ないかと荷馬車の荷物を漁ると鍋があったのでそれを取り出して鳥とイタチらしき動物の汁を作った。
林には薬味になりそうな草が生えていたので少し混ぜて味を調整する。何の草か名前は覚えていないが、ピヨールに毒の確認をしたから大丈夫だろう。
俺が作った汁の匂いにつられて、女が目を覚ました。目を開いて俺ではなく鍋の中身を凝視している。
「食べるか?」
「はへる」
「おお、喋れる様になったか。だがまだ舌の動きが良くないな噛まない様に気をつけろ」
俺は具の殆ど入っていない汁を深めの皿に入れ女に差し出した。女はその更に直接かぶりつき汁を飲み始める。
いやいや、自分の手を使えよ。
どうやら、長い間手を使わないで食事をしていた様だ。唇の先で器用に皿を傾けて汁を飲んでいる。
「まだ食うか?」
「はへる」
結局、3回おかわりをした女は食い過ぎたのか少し戻しながら荷台の上に寝転んだ。そしてボロボロの服を自ら脱いで俺に両手をのばす。
抱けと言っている様だ。無理矢理されるよりましという事か。
「この汁は全部お前にやる。俺にはやらねばならん事がある。だからこんな昼間からお前を抱いている暇はない。汁を食って元気になったら自由にするがいい」
俺は女が脱いだ服をかけてやる。すると急に恥ずかしくなったのか、そのボロボロの服で自分の体を隠した。
「まって」
「何だ?」
「ひとり、こわい」
まあ、怖いだろうな。
「この先に町はあるか?」
「ある」
「なら、そこまでは一緒に居てやる。その後は勝手にしろ」
ゆっくり旅すると決めたのだ。次の町ぐらいまでなら構わんか。
それにしてもこの女の耳はえらく長い。というか耳の先が尖っている。この辺りではこれが普通なのだろうか。
「ピヨールお前も食うか?」
「ワン!」
俺はピヨールと女と共に遅めの昼食をとった。




