もう一人の男
林に入ると中は思っていたよりも鬱蒼としていた。外からは気づかなかったが生えてる木々にまとわりつくように蔦が絡み、その蔦が繋がりあって網のように木々の間を埋め尽くしている。
何の為に俺が林に入ったのかというと、応急処置として車軸に使えそうな木を切り出すためだ。蔦を斬りながら林の奥に進むと手頃な木があったのでその木の上下を光の剣で斬り、その後、丸い幹を縦に斬って加工できそうな細さにした。
俺が林に入ってから直ぐに何か騒めく様な気配がしたが、木を斬って出てくる時にはその騒めきも消えていた。
気のせいか?
俺は切り出した木を持って荷馬車の男達の元に戻った。
「これを車軸にすれば、町までぐらいなら保つだろう」
俺が差し出した木を見て男達が荷台から飛び上がった。
「あ、あんた・・・それを何処で?」
俺は素直に質問に答える。
「あの林だがマズかったか?誰かの領地と言う訳でも無さそうだったが」
「な、なんて事を!?あんた、林の魔王に殺されるぞ!やばい、こうしちゃおれねえ俺は逃げるぞ!!」
それだけ言って男は1人で逃げ出した。
おいおい仲間を残して行くのか?
残された男を見ると、ボロをまとったそいつは俺や逃げた男の話を聞いていなかった様で全く動こうとしない。
「お前は逃げないのか?」
魔王と聞いて目的が変わった俺とは異なり、逃げれるなら逃げた方がいい。残された男に近づくと俺の事にやっと気づいたと言うように男がこちらを見上げた。
「・・・」
声にならない様な小さな呻きを出して、俺を見つめるその顔はどう見ても女だった。女はやせ細った顔で目を閉じたまま口を開いた。
口の中には舌が無く、切られた後焼かれた様な傷が見える。
奴隷なのか?
このあたりではまだ奴隷がいるのか。確かに辺境に行けば行く程そう言う文化は残っているが、実際に目にするのはあまり無い。
動かないのには別の理由もある様だ。手足を縛られていたのだ。これでは逃げれない。俺はその手足の鎖を斬り、そしてピヨールをその女の頭の上に乗せてみた。
「治せるか?ピヨール」
「ワン!」
ピヨールが元気よく吠える。
が、何をされているか分からない女は荷馬車の荷台の上に這いつくばり手足をばたつかせて逃げようと暴れた。
おいおい、暴れたら治せないだろ。
俺が肩を掴むと更に暴れ出したが、その力は弱々しく逃れることは出来ない。それでも動かれるとうまくピヨールを乗せることが出来ないので、俺は女を正面から抱きしめた。
男に無理やり抱かれた女は諦めたのか暴れるのをやめて大人しくなる。俺は聞こえていないだろうことはわかっていたが声をかけた。
「大丈夫だ。治してやる」
大人しくなった女の頭の上に俺は再びピヨールを乗せる。
「ピヨール、治せ」
「ワン!」
次回投稿は3/22(火)の予定です。




