干物と珊瑚と
「ずるいぞピヨール!」
俺が魚を獲って帰った事が気に入らないロンダは開口一番そう言った。口ではそう言いながらも、俺が獲ってきた魚を既に捌き始めている。
開いて、水で洗って、塩水に漬けて、少し置いてから、干す所まで始めてやるとは思えない動きだ。
一応、ロンダの指示でアンとアンジェリカも手伝うが、魚の滑りや臭いが苦手らしくずっと顔をしかめている。
「姐御、マルンに着く頃にはいい一夜干しになってますよ」
メウロバルトが感心しながらロンダに言う。
「そうか、なら半分はお前にやろう」
「え?半分も?」
たくさん獲れたと言っても俺が1人で獲った量だ。たかが知れている。それを半分もやるなんて、普段のロンダからは想像出来ない。恐らくメウロバルトはそう思ったのだろう。だが、ロンダは調理に限らず、あらゆる技法についてそれを教えてくれた事に最大限の敬意を払い、感謝を忘れない。
「ピヨール。その持っている物をこいつに渡せ」
俺がゴツゴツした綺麗な物の欠片を持ち帰った事に目ざとく気づいていたロンダはそう言った。
「ああ、いいぞ。だが、これとこれ、あとこれはダメだ」
俺はそう言って、綺麗な物から順に3つ摘んだ。
「あの、旦那・・・これは何処で?」
「海の底にあったゴツゴツした山肌から獲ってきただけだ」
「こ、これは・・・珊瑚ですよ!海の宝石とも長寿の秘薬とも言われている!」
そんなに凄いのか?
「ここ、この下にあるんですか?」
「ああ、まだいっぱいあったぞ。欲しいのか?」
「も、勿論です!!」
「そうか、まあお前には世話になったから採ってきてやろう」
「ワン!」
俺とピヨールは、海の流れで縄が届かなくなるまでの間、何度も潜って珊瑚を採ってきてやった。メウロバルトは俺が船に戻るたびに泣きながら俺に感謝し、船員達は小躍りしてはしゃいでいた。可笑しな奴らだ。
「これはアンとアンジェリカ、それにロンダの分だ」
俺は最初に摘んだ3つの欠片をそれぞれに渡した。どれも木の枝の様な不思議な形の欠片で、篝火の炎で真っ赤に輝いている。
「わ、私に!?」
「神の思し召しです」
「俺はあっちのデカイのがいいぞ」
アンとアンジェリカは嬉しそうに受け取ったが、ロンダは後から採ってきた皿の様な白い物を選んだ。
「すまんが、これと交換してもいいか?」
「も、勿論です!!」
メウロバルトと船員達が声を揃える。
「すまんな」
珊瑚の山を前に酒盛りを始めた船員達をよそに、ロンダはまだ出来ていないだろう干している魚を1匹引きちぎって食べていた。
「少し生臭いな。だが、食えなくは無い」
朝まで待てなかったか・・・さすがだな。




