魔王の棲家
島は切り立った岩で出来ていて人が住める様な場所では無かった。ただ、島の形が三日月の様に湾曲している為、その内側に入ると波も穏やかで船をその中に入れて、小舟で島に渡るのだと言う。
「あれが魔王の棲家です」
メウロバルトが指さした場所には岩の裂け目があった。この船でそのまま入れるのでは無いかと思えるほどの大きさだが、水面下に岩がせり出しており船底に穴が開くので無理なのだと言う。
「俺が行ってくる」
「タコの腕を取りに俺も行く」
「わ、私も行きます」
「私は・・・」
「無理はするな」
アンはまだ良いとして、アンジェリカにはまだ無理だろう。タコも苦手な様だからな。
俺は初めて海で船を漕いだ。日が落ちても俺達が戻らない場合は先に帰れとだけ伝えて、俺とロンダとアンは小舟に乗って魔王の棲家に向かった。
穏やかだといっても海なので、島に近づくとその他の波の大きさで小舟は揺れたが、流れは強く無い様で意外とすんなり裂け目にたどり着いた。
「いるな」
ロンダが呟く。
あの腕がこの小舟にまとわりついたら1発で沈められるだろう。だから俺は船をアンに任せて船首に立ち、ピヨールを光らせた。
裂け目の内部はコウモリの様な小さな黒いものが頭上を蠢いていたが、特にこちらに襲いかかってくる事は無かったが、けたたましくキィキィと唸りを上げている。
「侵入者が来たことを知らせている様だな」
ピヨールが照らす岩壁の奥で何かが動いた。俺が光の剣を構えると同時に小舟の両側に水柱が立った。
タコの腕だ!
「2本もらった!」
ロンダの声が裂け目に響く。水面から出ている腕を短刀で素早く切り落とすとそれを素早く船に回収した。のたうちまわる腕を見てアンが泣きそうな顔をしているが、ロンダは新鮮新鮮と上機嫌だ。
「ピヨール、生け捕りが無理そうなら本来を狙え。腕を付けたまま縄でここから引っ張り出すぞ」
さすがのロンダも小舟では腕を全て持ち帰れ無いことを認めた様で、本体を倒して本船で引っ張る作戦に切り替えた様だ。
こちらの都合通り魔王が動いてくれたら上手く切れるだろうが、このまま腕だけで攻めてこられたら次々に腕を斬っていくしか無い。
「おびき出すか」
ロンダが玉を取り出して前方に向かって放り投げた。
「耳を塞げよ」
急に言うな!俺は自分とピヨールの耳を咄嗟にしゃがみ込んで塞いだ。
ぽちゃん・・・キィィィィィィン!
激しい光と音が裂け目の奥から響いてくる。
プギュウウウゥゥウウルウウゥルグルゥウ!
何か柔らかい物を擦り合わせた様な音と生臭い風が裂け目の奥から噴き出してきた。
「来るぞ」
ロンダがニヤリと微笑み。アンが顔を背ける。
「任せろ」
「ワン!」




