タコという生き物だった
魔王の腕は美味かった。前に食ったぶよぶよよりも少し大味だと言う事でロンダが塩を振りかけたのだがそれが良かったようで結局、ロンダと俺とピヨールで全て食べ切ってしまった。
子犬のくせにどれだけ食うんだと言うぐらいピヨールは良く食べた。どう見てもそれ以上は無理だろうと言うぐらい腹がふくれるとワンと吠えて自分で光だす。するとさっきまでぱんぱんに腫れていた腹がすーっと元に戻って行くと言うことを何度も繰り返していた。
食うという喜びを味わい続ける犬。ピヨール、お前、性格変わってきたな。少しだがロンダに影響されてるんじゃないか?
ピヨールを肩に乗せているとピヨールの考えることが分かるようになるが、逆に俺の考えもピヨールに分かるという事なのかも知れん。
魔王の腕を食べ切った俺たちの所に恐る恐る近づいて来たメウロバルトや船員達によってあのぶよぶよしたものの正体がわかった。タコと言う生き物で、海の魔王はこのメウロバルトの冒険号と同じぐらいの大きさだという。
更に驚いたことに、タコは腕を失ってもまた生えてくるのだと言う。海の魔王を倒せない理由の1つに、斬っても斬ってもまた直ぐに生えてくるというのがあるらしい。それを聞いてロンダが吠えた。
「ピヨール!海の魔王は生け捕りにするぞ!そうすれば腕を食べ放題だ!」
「ワン!」
ピヨールも同意する。
「姐御、そりゃあ無理です。捕まえられたとしても船に乗りませんよ」
「引いて帰ればいいだろ」
「え?」
「筏を作って引いて帰ればいいだろ」
「いや、その・・・」
「腕を全部切り落としたら小さくなるだろ。それで運べる筈だ。だから運べ」
「腕を!全部!?そ、それはちょっと無理ですよ。魔王の腕は普通と違って何十本も生えてるんですよ!」
「何!そんなにか!」
メウロバルトとは異なりロンダは嬉しそうだ。
「心配するな、腕は全部ピヨールが斬る。何本だろうとな」
ロンダの言葉を聞いてメウロバルトと船員達が俺を見た。
「ああ、任せろ」
俺の返事を聞いてメウロバルトだけが少し安心した顔をした。どうやら、魔王が船を襲ってきたことに相当肝を冷やされたようだ。
「ここはもう魔王の棲家なのか?」
俺がそう聞くと、縄張りではあるがこの辺りではそうそう見かけないのだと言う。最近、この縄張りを通る船が減っているので腹を空かせた魔王が狩りの縄張りを拡げているのだろうということだ。
特に夜から朝にかけて船を襲うことが多いらしく、船員達と共に俺やロンダも警戒する事になった。
船員達は出てくるなと願い、ロンダとピヨールは出てこいと願っているようで、警戒の目的は真逆だがな。
だが空が明るくなるまで魔王は現れることはなく、俺たちは魔王の棲家と言われる孤島にたどり着いた。
次回投稿は、3/7(月)の予定です。




