頑張ったメウロバウト
俺たちが控え室に戻るとメウロバルトが揃えた木剣が並べられていた。タリフの全部の店から買ってきたのだという。控え室には俺たちしかいないので部屋を取り囲むように並べられていてその数は50はありそうだ。
「姐御、旦那、どれでも好きな物を選んでくだせえ」
ロンダは手前にある木剣から順に手に取ると剣先を地面に刺して剣身を足で踏んで木剣をへし折った。
「これは弱い」
「あ、ああ」
「これも駄目だな」
「そうか」
50本ある木剣を次々にへし折るロンダを見てメウロバルトが泣きそうな顔をしている。
「ん? これならいいか、ピヨールどう思う」
ロンダが一本の木剣を俺に差し出した。俺はそれを受け取り軽く素振りをする。
ボッボッ
木剣が控え室の空を斬る。
「ああ、悪くない」
「だろう? 俺はこれにしよう」
ロンダは短めの木剣を2本手に取り軽く振り回す。
ボヒュヒュッ
ロンダが斬った空の裂け目がこちらに飛んで来るようだ。
「なかなかいい木剣だ。お前、決勝は俺でもピヨールでも好きに賭けていいぞ」
ロンダがそう言うと、メウロバルトは全身を振って否定した。
「そ、そんな! 姐御か旦那のどちらかに賭けるなんてとんでもねえ! それよりお二人とも怪我だけはしねえでくだせえ。海の魔王を討伐に行くんですからね」
「それなら大丈夫だ。こいつがいるからな」
「ワン!」
俺の言葉にピヨールが返事をする。
「な、なるほど……そうでしたね。で、ではお二人はどちらを応援してされるんで?」
メウロバルトはそう言ってアンとアンジェリカの方を見た。
お前、いらぬ事を!
俺はメウロバルトを無言で睨む。
「あ! いや……」
俺の視線に気づき慌てて取り繕うとするメウロバルトだが、時既に遅しロンダがその話に興味を持ってしまった。
「それは是非とも聞いてみたい。俺とピヨールのどちらを応援するんだ?」
ロンダが2人に質問すると、アンもアンジェリカも泣きそうな顔で俺に助けを求めて来た。
「まあ、それは俺たちの前では言いにくいだろう」
俺がそう言うとロンダが俺に詰め寄る。
「えらく余裕だな。この2人を既に手篭めにでもしたか? まあいいだろう、2人ともピヨールの応援をするがいい。鼻の下を伸ばしている弟を教育するのも姉の務めだ。ピヨール、お前少しでも気を抜いたら今日が命日になるぞ」
「あ、ああ」
控え室が静まり返ったその時、救いの神なのか死刑執行の合図なのか決勝戦を始めるという連絡が係員によって知らされた。会場に向かうと闘技場の観客は倍ほどに増えている。
「戦鬼! 戦鬼! 戦鬼!」
ロンダが人気者になっていた。ロンダがその声に応えて拳を突き出すと闘技場が揺れ動くような大歓声に包まれる。
「お前の応援はあの2人だけだが、俺の応援は1000人はいるぞ。ふふふ……人気者はつらいな」
「そ、そうか……」
ロンダの機嫌が少し良くなっているので俺は胸を撫で下ろした。
まあ、負ける気はないがな。
闘技場の中央で向かい合った俺たちは手に持った木剣を構えあった。
「え?あれ木じゃねえか?」
「木の棒だぞ?」
「何だそりゃ? ちゃんとやれ!」
「ふざけんな! 金返せ!!」
闘技場の観客が俺達の木剣を見て文句を言い始めた。武器の制限は無いので問題は無いのだが、斬った斬られたの試合を観に来ている客だ。当然といえば当然の反応だ。
そんな中、観客の反応を無視して試合開始の鐘が鳴った。




