ゴギンと響く音
3戦目の俺の相手は真っ当な剣士だった。構えも剣筋も悪くない。だが、それでも俺の相手ではない。俺は相手の剣を斬り、ギリギリで胴鎧を斬り捨てて相手に負けを認めさせた。
殺すには惜しい。
顔を隠す様な兜を着けたそいつは俺に何かを言って立ち去った。
俺の試合の後すぐにロンダの試合が始まる。俺はアン達と合流し試合を見守った。ロンダの相手はまたも巨漢だった。
先程の試合の事もありロンダは試合開始前から怒っている様だ。
そいつは別の奴だぞ。
試合開始の鐘が鳴り終わるのを待たずロンダの一方的な攻撃で試合は終わった。最初にロンダが放ったのは、石でも短刀でもなく右の拳だった。指先まで包み込む鋼の手甲が巨漢の脇腹にめり込む。巨漢は全身鎧を着込んでいるので脇腹に大した傷はつかなかっただろうが盛大に体勢を崩して横によろけた。
そこをロンダの左足が狙い膝頭を蹴り抜かれた巨漢はその場に尻餅をついて転げてしまう。身動きの取りにくい鎧で転げた巨漢の上にロンダは馬乗りになり左右の拳で巨漢の兜を揺らし続けた。
ゴギン、ゴギン、ゴギン、ゴギン、ゴギン
鉄と鉄がぶつかり合う音が闘技場に響き渡る。最初は湧いていた観客も終わらないその音に次第に怯え始め、最後には悲鳴があがり始めた。だが、全身鎧の巨漢の様子は不明で誰も試合を止める者は居ない。当のロンダは鳴り響く音に酔っているかの様に薄っすらと笑みを浮かべている。
「ひぃぃいいぃい」
ロンダの笑みを見たメウロバルトが悲鳴をあげて頭を抱えた。
まあ、お前はあの拳を何度か食らっているからな。
ロンダの拳を受けた事がある人間ならそうなるのも頷ける。結局、巨漢の兜が変形し留め金が壊れて中の顔があらわになる迄試合は止まらなかった。静まり返った闘技場に試合終了の鐘の音が鳴り響いてやっと闘技場は歓声に包まれた。
「鬼だ……」
メウロバルトが漏らした言葉に俺やアン、アンジェリカだけでなく、近くにいた闘技場関係者や観客もうなずいた。
「いい準備運動になった」
ロンダが俺の肩に手を置いて笑う。次の試合、本気でやらねば俺があの巨漢のように木剣で殴られまくる事になりそうだ。俺は乾いた笑いでロンダを迎え入れ控え室に戻った。




