嘘ついて、すまんかった
結局、その日は村の中で比較的被害が少ない家に泊めてもらうことになり、俺とピヨールは翌日の昼過ぎ頃に目が覚めた。あの後、朝方まで村人から祈られ続けてしまった。もう祈られるのはこりごりだ。このまま居たら村人が貢物を持って来そうな勢いなので俺は早々に村を去ることにする。
何か御礼をとしつこい村人から旅の食糧を少しだけ別けて貰った。最初、馬車で運ぶのかという程の量が集まったのだが、それは村の復興にと勇者らしい事を言うと再び感謝の祈りが始まりそれが朝まで続いたのだ。
俺が勇者だと言う誤解を解く事は出来なかった。
空気を読んで言えなくしまったと言う感じだ。まあ実際、魔王を斬ったのは俺なのでまるっきり嘘と言うわけではない。ピヨールを肩に乗せ、村人に挨拶しながら村の入口に向かうと門の前で若者が立っていた。この若者、名をダストンといい、この村の村長らしい。こんなに若いのに村長を任されるとは人望が厚いのだろう。確かに頼りがいのありそうな見事な体つきだ。農村で村長をさせているのは勿体無いと思う者もいそうである。本人はこの村で農家をやるのが好きだと言っていた。彼女も居るから幸せなのであろう。
ちょっと腹が立つが。
そして驚く事にこの村の名前もダストンと言う。ダストンの曾祖父が100程前にこの地に住み着いたのが村の起こりということだ。
やるなダストン。
「勇者様、もう旅立たれるので?」
俺を待っていた風のダストンが門の前に立ちはだかる。
「ああ、旅を続けるよ」
俺はダストンの肩を掴み、その横を通り抜ける。
「残っては頂けないのですか?」
背後からダストンの声がする。まあ村の事を考えたら、無限治療装置とも言えるピヨールの価値は計り知れない。後、また魔王が出ないとも限らないからな。
「勇者だからな」
ダストンは俺の返事に言葉を詰まらせる。俺は、あまり色々言うと邪魔臭い事になりそうなので言葉を選ぶ。
「では、村に再び魔王が現れた時には」
そこまで言ってダストンは自分の言葉を飲み込んだ。勇者が一つの村を救う為に何度も訪れるなどあり得ない事を知っているのだ。
それでも村を守りたいと思って問い掛けてきたダストンに俺は振り返って微笑んだ。
「任せろ、俺は勇者だからな」
ダストンはその言葉を聞いてその場に跪く。感謝しているのだろう。そしてその後ろにはいつの間にか大勢の村人が同じ様に跪いている。
俺は血の気が引いた。
調子にのって格好付けすぎた。要らぬことを言ってしまった。俺は勇者では無い。そしてこの村の危機にも今後訪れる予定は無い。
すまんかった……嘘ついてすまんかった。
何度も心の中で謝りながら、俺は逃げるように道を急いだ。ダストンの村からは大き目の街に続く道がある。馬車がギリギリ2台すれ違える程度の道幅があり、山道と違って起伏もなだらかで歩きやすい。それに加えて兜とピヨールの効果で全然疲れない。腹は減るが疲れないのはかなり助かる。ま、それでも走って行くほどではないが。
今向かっているのはイーストクロスという街道の拠点となる町だ。その名の通り東西南北に十字のように街道が交わっている場所にある。かつては王国の王都の次に大きな町と言われていたが、王都の南にある港町の開発が進み、そちらに金も人も奪われて、今では空き家が目立つ。
俺はその町に着いたらしばらく滞在して、これからの事を考えようと思っている。
かつての栄光を失っているとは言え、街道の拠点である事に変わりのないイーストクロスには、今でも4、5000人の人が住んでおり、毎日人口の1/10程度の人々が訪れるのだ。
このピヨールが勇者になってすぐに魔王が現れた。何とか倒す事ができたが、他の場所でも魔王か、それに匹敵する竜のような魔物が出ているかもしれない。
それを退治に俺が行くかどうかはわからないが、このピヨールが駆け出してしまったら行くしかない。この犬の飼い主は俺だからだ。だが、その行動が俺の思うままかというとそうではない。それでも今後の旅を考えるとこんな便利な犬を誰かにやるつもりは無い。
売ればいくらになるか。
そう思ったことは道すがら何度もあるが、金より命だ。でも今後はお金をもらおう。俺はそう決心した。そう、これは決定事項だ。
そうなると、回復するのにいくらもらうか決めておかないとややこしくなるな。俺は医者ではないので、傷や病気の度合いは見た目でしか判断できない。邪魔臭いな。とりあえず、持ち金全部という事にしておこう。
命が惜しかったら金を全部よこせ。
たちの悪い盗賊みたいだ。さすがにこれはないか。では、ここは優しい気持ちで半分としよう。半分か、とっても良心的だな。よし、これも決定事項だ。
朝イチであまり書ききれませんでした。今日はサンデーとマガジン読んでたのでちょっと時間が足りなかったかもです。