アンの剣
ゼヒーリの町には魔物の姿は無かった。魔物達は一般的には突如現れると考えられているが、実際には何処かで発生して移動してきているはずだ。サンジドーロ、二モス、ブカリに魔物達が移動して行った様に。
ゼヒーリで補給をし、アンジェリカ用の細身の剣を買い町を後にした。港町タリフに向かう為に。ゼヒーリを出てすぐにアンジェリカはアンの指導によって剣の修行を始める。
剣の持ち方、振り方を素振りをして教えているが、なんだか修行しているアンジェリカよりもアンの方が辛そうだ。体力があまりなさそうなアンジェリカだが修道院はそんなに生易しいところではない様で修行に何とかついてきている。
それとは逆にアンは日に日に険しい表情だ。それを見てロンダはニヤリと笑っている。どうやら微笑んでいる様だがそうは見えず。見つめられているアンもアンジェリカも少なからず怯えている様だった。
「何かの問題でもあるのか?」
夜中の見張りの時に聞いてみた。
「……ない」
「だが、アンジェリカよりも辛そうだったが?」
俺がそう言ってアンを見ると表情を読まれまいとアンが顔を逸らす。
「いや、言いたくないなら構わんのだがな」
そう言って俺は寝転びアンに背を向けた。
「自信が……無い」
俺は黙って聞いていた。
「私は弱い。その私が剣を人に教えるなど……勇気殿やロンダ殿に会う前であれば自信を持って出来た。私は自分が強いと思っていたから。でも今は違う。自分の弱さを知り……自分の剣を見失ったのかも知れない」
アンが立ち上がり剣を構える。
「剣を振り上げ、真っ直ぐ振り下ろす。この様な素振りを繰り返して本当に強くなれるのかと。勇気殿やロンダ殿の様に」
ゆっくりと剣を振り下ろし肩を震わせる。
「私はこんなにも弱いのに」
俺は立ち上がりアンの横に立つ。そして、アンの手から剣を奪い正面に構える。
「ロンダや俺が素振りをせずに強くなったとでも思うか?」
アンが俺の顔を見る。
「素振りをせずに強くなった者など俺は知らん。剣士なら休まずやらねばな」
俺は一振りだけアンの剣を振り抜いた。
ボッ
切っ先が空を斬り裂く音がする。
「休まずにな」
俺はそう言ってアンに剣を返し、そしてもう一度寝転んだ。アンが何処かに歩いて行った後、少し離れた場所から素振りの音が聞こえてきた。




