新たなる剣士
アンジェリカが乗ってきた荷馬車はサンジドーロの町民達からの感謝の気持ちだと言う。サンジドーロの南にあるゼヒーリまでは歩きでは10日かかるらしい。荷馬車でも8日はかかる。俺たちに荷馬車を届けて、直ぐに町に戻るつもりだったアンジェリカだが結構な距離を来てしまったので俺たちは荷馬車に乗ってアンジェリカをサンジドーロに送って行った。
「聖水を樽に入れておきました。魔物に眠らされた者がいたらこれで目覚めると……あっ!」
荷台に積まれていた樽の説明をアンジェリカがしていると喉が渇いていたのかピヨールが樽に頭を入れて聖水を飲みだした。
「お待ちください! お犬様!!」
お犬様!?
「ワン!」
ピヨールは元気良く吠えると強く輝き出した。そして再び樽に頭を突っ込み聖水を一気に飲み干してしまった。
そんなに飲めるのか。
子犬程の大きさのピヨールの何倍もある樽の水が全て無くなっているのにピヨールの大きさのはそのままだ。
「こ、これも……神の思し召しでしょう……」
アンジェリカはそう言い残して町の中へ帰ろうと背を向ける。
「ついて来ないのか?」
ロンダが聞いた。
「いぎまずぅ」
アンジェリカが振り返り、即答する。
「……」
アンは不満そうだ。
「死んでも知らんぞ」
ロンダが尋ねる。
「死にまぜぇん」
何処から出したのか手に棒を持って構え出した。
「そうか、お前も剣士を目指すか。面白い、お前は今日からアンの弟子だ!」
「えっ!?」
アンはロンダの顔を見つめて、首を横に振った。
「教わり、教えると上達が早い。これは決定事項だ! そうだろ? ピヨール?」
ロンダが御者台の上の俺を振り返る。
「あ、ああ。確かに人に教えると上達は早くなるな」
「……わかりました」
アンが渋々返事をする。
「神の思し召しです」
アンジェリカが再び荷台に乗る。ロンダは仁王立ちで前を見ており、アンはアンジェリカから一番遠い位置に腰掛ける。そしてピヨールが俺の肩に飛び乗った。
重っ!!
ピヨールの体重が重くなっている。飲んだ聖水の分だけ増えたのかも知れない。
重いぞピヨール。
肩から降ろそうとピヨールを掴むと腹の辺りがタプタプしていた。
「クゥーン」
肩の先から首元へ移動して来たピヨールは、そのタプタプの腹を俺に押し当てる。どうやら降りたく無い様だ。
仕方ない、乗っていろ。
「ワン!」
アンジェリカを送り届けた時間が丸ごと無駄になったが俺たちは再び南に向かって出発した。




