走れピヨール
ピヨールが元気良く街道をかけて行く。前を走る荷馬車を追うのが楽しいのか興奮している様で徐々に光り出す。光が強くなるのに合わせてピヨールの尻尾の振りが激しくなり速度も上がっていく。
ピヨール頼むぞ。
「ワン!」
俺の心の声に応える様にピヨールが吠えた。小川に沿って曲がっているせいで街道の先は見えないが、ピヨールが確実に荷馬車に近づいているのは感じる事が出来る。速度が上がったピヨールに比べて疲れが見えてきたのか荷馬車の速度は徐々に落ちてきた。
今だ! ピヨール!!
俺が心の中でそう叫ぶとピヨールが返事をしたのが伝わった。そしてピヨールは荷馬車の荷台に向かって飛び上がる。荷馬車の荷台の縁に足をかけたピヨールは、そこで止まらず更に飛び上がった。その飛び上がったピヨールの着地点にいるのは泣き叫ぶアンジェリカだ。
トトーン
前足で顔を引っ掛け、後ろ足で蹴り抜いた。
「いぶっ」
アンジェリカが荷台の上で仰け反り、倒れこんだのが分かった。ピヨールはアンジェリカを踏み台に興奮して走り続ける馬の背中に飛び乗った。
ビヒィイイィイ
いきなり背中に乗られて驚き嘶く馬だがピヨールの光に包まれて直ぐに落ち着きを取り戻した。そして、ゆっくりと止まる。
いいぞピヨール!
ピヨールが元気良く返事をする。恐らく俺のいる場所から2つ3つ先の曲がり道あたりまで走っていった様なので俺は急いで駆けつけた。
「ゆうじゃざばぁああぁぁ」
荷台の上に這いつくばっているのがアンジェリカの様だ。徐々に大きくなるその姿に若干の哀れみを感じながらも何故お前がいるという疑問が先に立った。
「ここで何をしている?」
腰を抜かしたのか起き上がれなさそうなアンジェリカは涙と鼻水にまみれた顔で俺を見上げた。
「がみのおぼじめじでずぅ」
ああ、このアンジェリカはそういう奴だったな。
額と鼻がピヨールの土台となったのだろう、擦りむけて赤くなっている。
「ピヨール」
「ワン!」
俺は馬の背中でくつろいでいるピヨールを読んで捕まえると、アンジェリカの頭の上に乗せてやった。
「ワン!」
「ひいぃ!」
完全にピヨールに怯えるアンジェリカだがピヨールの光に包まれると額と鼻の擦り傷も、溢れ出し垂れ下がった涙と鼻水も綺麗に消えて行った。
「神の思し召しです」
抜けていた腰も治った様で荷台の上に両膝をついてアンジェリカは祈り出した。
「ここで何をしている」
俺はもう一度アンジェリカに確認した。




