修道女たち
「院長様!」
俺とアンが肉を焼き、ロンダが獲物を解体している広場にアンジェリカが走ってきた。
「アン!」
アンジェリカに似ている女性は柵を越えてアンジェリカに駆け寄る。
「どうしてここに? 王都に行ったのでは無いのですか?」
再会を喜ぶのかと思いきや院長と呼ばれた女性は駆け寄るアンジェリカの前に腕を組んで立ちはだかった。
「申し訳御座いません。王都が襲われ避難した町でこのサンジドーロから救援を求めて来た方に出会い、勇者様と共にここまで帰って来ました」
アンジェリカが院長の前に立ち、ここに来た訳を説明した。
「救援を求めた!? ひょっとしてそれはメイロスでは?」
院長がそう言うとアンジェリカは首を横に振った。
「名は分かりません。最初は怪我が酷くこの町の名しか話さず勇者様の軌跡で怪我が治った後は眠ったまま目覚める前にはぐれてしまいました」
「はぐれた? はぐれたとはどう言う事ですか?」
院長の質問は続く。そのあいだに俺は簡易ではあるが大きい燻製室を組み立てる。柵に使っていた戸板等を借りたのだが、男達はロンダの勇姿を見て完全に惚れ込んでしまった様で何でも簡単に貸してくれた。アンは一生懸命、火を燃やし続けている。
「魔の山の魔城に行ったのですが、その時、眠ったままのその方と馬車を残して魔城に向かい、魔城から戻った時に馬車ごと居なくなっていたのです」
アンジェリカは泣いていた。自分が修道女として相応しくない行動をとってしまった事を後悔する様に。
「自分の罪を認めるのですね。では私は何も言いますまい。あなたも人の子、止むに止まれぬ事情があったのでしょう。それより、よく戻って来ました。我が妹、アンジェリカよ」
「姉さん」
姉妹なのか。似ているからひょっとしたらと思っていたが。
2人はそこまで話してやっと抱き合った。姉妹の再会だ感動の場面なのかも知れない。
だが、そこは風向きが良くないぞ。
俺が組み立てた燻製室から漏れた煙が風に乗って2人を包み込んだ。
「ゲホッゲホッゲホッ!」
抱き合っていた院長とアンジェリカが涙目で咳き込み、足を合わせて少しだけ移動し煙を避ける。
抱き合うのはやめないのか。
院長とアンジェリカは互いの顔を見つめて声を合わせた。
「神の思し召しです」
その言葉とほぼ同時にロンダの魔物解体が完了し、広場は焼かれ待ちと燻製待ちの肉で埋め尽くされた。




