ピヨールのしくみ
目の前にいる小猿鬼達に光の剣を突き出す。いつも通り剣は何の抵抗も無く小猿鬼を貫き、突進してきた小猿鬼自身の勢いによって斬り裂かれていく。声も無く崩れ落ちる小猿鬼達は前にいる仲間が斬り裂かれても御構い無しに突進してきた。
小猿鬼が道なりにしか襲ってこないのは、こいつらの足が短く、がに股過ぎて草むらを歩きにくいからなのだろうか?
休むこと無く小猿鬼を斬り続けていると、ついついつまらぬ事を考えてしまう。
サンジドーロへの道は馬車1台がやっとと言う程度の道だ。その道幅一杯に3体から4体の小猿鬼が並んでいる。手には槍や太い棒を持ち、俺を突いたり、殴ったりして殺そうとして来る。
当たらんよ。
ピヨールの加護を頼りに防御を無視して動いても良かったのだが、そうすると後ろで見ているロンダやアンに文句を言われそうなので俺は自分が出来る最高の動きで小猿鬼を斬り続けた。
普段なら呼吸が続かず1分と持たない本気の本気だ。だが今はピヨールの光のおかげでその状態で居続けられる。
これが勇者の力か。確かに人の域は超えている。しかもこの光の剣だ。
勇者の力をもって作られたこの剣と不滅の体力。そんな者が真面目に剣の修行をして行ったら誰がそれに勝てるというのか?
俺はそこそこの剣士だ。自分でもそれは認めている。だが、ここまでは強くない。
ピヨールさまさまだ。
「ワン!」
俺の考えが伝わった様で肩の上のピヨールが元気良く吠えた。
俺の目の前で光の剣が伸びる。俺は一瞬、剣を落としそうになる。本気で振り回す為に両手で剣を持っていたので何とか対応出来た。剣が急に伸びると剣の重心が変わる。その為、握り方も、振り方も調整しないといけないのだ。
ピヨールが興奮すると剣が伸びるのか?
俺は刀身が2倍程になった光の大剣を横薙ぎに3回振り抜き一旦、周りにいる小猿鬼を全て斬り捨てた。数瞬ではあったが、俺と小猿鬼の間にポカンと空間が出来る。その一瞬の隙をついて俺は肩の上のピヨールの腹をかいてやった。
「クゥーン」
ピヨールが目を閉じて声を漏らす。すると光の剣が元の長さに戻った。
戻るのか。
ピヨールの腹から剣に手を戻した俺は、空いた空間に雪崩れ込んできた小猿鬼の間をすり抜ける様に斬り裂いた。先頭から小猿鬼を斬り続けて3つ目の丘の上にたどり着いた俺は、その先の光景を見て驚いた。
これは……大軍だ。




