食い倒れとロンダの問いかけ
50回目の投稿となりました。読んでいただけているみなさんありがとうございます!
二モスがある岩山に俺たちは1日に2度登る事になった。ピヨールの力で殆ど疲れない俺と、そもそも疲れを知らないロンダとは異なり、アンから疲労の色が隠せない。林での激戦の後の2回目の登山で完全にばててしまっている。
俺は俺の肩にずっと乗っているピヨールを捕まえてアンの頭の上に乗せてみた。
「体が……楽になる。勇者殿……」
疲れ果てたアンの顔に生気が蘇る。疲れを癒されたアンであったが、それと同時に空腹も蘇ったようでピヨールを頭の上に置いたまま腹の虫を鳴らした。
クゥゥゥゥゥ
「そう言えば飯がまだだったな」
「ワン!」
ピヨールをアンの頭の上に置いたまま俺は食事の支度をする。食事と言っても調理をする訳では無く味付けして燻製にした肉と木の実を切って食べやすくするだけだ。以前は小刀を使っていたが光の剣を手に入れてからは小刀では無く光の剣でこれらを切っている。
細かいものを切って切っ先の感覚に少しでも慣れる為だ。干し肉は木の枝で作った串に刺してから少し炙る。その間に切った木の実をアンとロンダに渡す。ピヨールには味付けの無い干し肉を同時に食わしてやる。
木の実を頬張るアンの兜の上にピヨールの垂らしたよだれが次々に垂れるがアンは気づいていない様なので俺は干し肉炙りの作業に戻った。
遠征中は食事は日に1回しか取らない。歩きながら何かを摘まむのでこうやって落ち着いた食事の回数は極力減らすのだ。
敵に襲われる可能性があるからな。
干し肉は1番よく食べるロンダから順に配っていく。その間、俺は干し肉を焼きっぱなしになる。
「肉を食わないといい女になれないぞ」
「はい!」
「ワン!」
木の実を食べ終わったアンが干し肉に喰らいつく。ロンダを真似てアンが次々と干し肉を頬張る。俺はロンダ2人分に干し肉を供給する為に火力を上げ炙り続けた。
ピヨールもまだ欲しそうだな。
炙った干し肉をロンダとアンに渡すついでにピヨールにも味付けしていない干し肉を食べさせる。移動中全く疲れていなかった俺だが、この作業で一気に疲れてしまった。
腹八分目、と言うかまだ半分ぐらいだなと言う余裕の表情のロンダの横で、腹一杯で苦しそうなアンが最後の一欠片を飲み込み、そのまま倒れこんだ。
頭の上のピヨールが倒れこんだアンのお腹の上に乗るとアンが断末魔の様な声を漏らす。
「ぐるじぃいいぃ」
ピヨールの光でも消化の促進はできない様だ。俺はお腹が膨れてぷっくりしているピヨールを持ち上げ俺の肩に戻した。
「今日はここで休もう」
動けなさそうなアンを見て俺はそう決めた。
「わかった」
ロンダはあっさり納得する。
「すみまぜぇん……」
寝転び口を抑えているアンの兜を取り、鎧を緩めてやると少し楽になった様で、そのまま寝てしまった。
体の疲労は無くても精神的に疲れていた様だ。
「抱くのか?」
「抱かん」
「そうか」
ロンダが俺を見つめながら聞いてくる。
「アンが好みか?」
「嫌いではないが」
「そうか」
ロンダが全く目線を逸らさない。
「抱くのか?」
「いや、だから抱かんぞ」
「そうか」
俺はこの後、アンが目覚めるまでの間、ロンダに63回同じ質問をされ、同じ数だけ抱かんと答えた。
「よし! 行こうか」
一睡もしていない筈のロンダだが何故か晴れ晴れしい顔をして歩き出した。その後をぐっすり寝たアンがついていく。
体力は回復したが、ロンダの質問で精神的に追い詰められた俺は少しフラつきながら2人の後を追った。




