剣を振るうだけだ
俺は2人の背後に回り込もうとしている魔物を重点的に狙う。光の剣の斬れ味はいつも通り、斬れ過ぎる程に斬れた。
この剣の感触のなさには大分慣れたな。
元々重さも長さも丁度良かった。問題は斬った時の感触の無さだ。手応えが無いので、つい斬り過ぎてしまうのだ。
俺は自分で思っているよりも心配性なのかも知れん。
相手を斬り過ぎてしまうと獲物ならば場合によっては食べれなくなったり、魔物ならば体内の毒や不純物のある体液を無駄に撒き散らす事になる。
見切りが必要。
間合いや相手の動きを読み取る力が必要だが、それについて俺に起こった変化が良い方向に作用している様だ。
ピヨールとの意識の共有だ。
近くにいようが遠くにいようが俺はピヨールが感じたものを同じく感じることが出来る。これが意外と使える。ピヨールは犬だけあって匂いには敏感だ。また気配も俺よりも鋭く感じる。その情報を俺も同時に得ることが出来るので以前よりもより早く、深く、広く周りにいる相手を見切る事が出来る様になった。
ロンダと同等か、それ以上と言うところか。
俺に完全に見切られている人型の魔物達はなす術なく俺に斬られた。首を横に、体を縦に、俺は名も知らぬ魔物を両断する。
神経を研ぎ澄まし、ただ剣を振るうだけだ。それがお前が目指す剣士なのだろ?
昔、ロンダに剣士に成りたいと言った時の事を思い出した。ロンダの狩りについて行く様になってすぐの頃だ。
ならばピヨール、お前は既に剣士だ。後は上手く剣を振るうだけ。簡単な事だろ?
ロンダにそう言われては、そうだと言うしかない。俺は俺よりも強いロンダに少しでも追いつこうと剣士として狩りに同行した。剣だけを振るい、獲物も魔物も相手にしていった。ロンダはそんな俺に効率が悪いとか、無駄なことをするな等の説教は全くせず、必要な事だけ指示して来た。
上から来る奴に気を付けろ。
水の中の奴は上から狙え。
でかい奴は転がせ。
方法は自分で考えさせられる。剣士なのだから剣を使えと言われる以外は上手くいかなくても叱られることはなく、そして上手くいけば物凄く褒められた。
魔物を斬り捨てながら目の前にいるロンダの背中を見て俺は懐かしい気持ちになった。俺が戦いに参加した事に気付いたロンダが俺の姿を見てニヤリと笑う。アンは必死に剣を振っている。正に昔の俺の様に。
まあ、アンの方が当時の俺より筋は良いがな。
ロンダと俺が背後を守る中、アンが最後の1体の頭を剣で割った。崩れ落ちる魔物の頭から剣を引き抜きこちらを振り返ったアンは激しく呼吸しながら微笑んだ。
己の振るった剣の成果とも言える返り血を浴びた顔で微笑む姿を見たロンダがアンを褒める。
「いい女になったな。お前はいつか俺の様にモテるぞ」
次回、投稿は1/12(火)の予定です。




