魔城崩壊
俺はおぶっているアンジェリカの紐を締め直し、ロンダとアンの後を追う。入口から部屋に入ると既に戦闘が始まっていた。
大トカゲだ。
部屋は玉座の間の様で細長い作りになっている。一番奥に黒い人影があり部屋の中央あたりでロンダとアンが3匹の大トカゲと戦っていた。
大トカゲ!? ということは、奥のは魔王か?
「ギャギャギギギャー」
聞いたことがある声が玉座の間に響いた。火の玉が来る!
「ロンダ!!」
俺は肩の上のピヨールを掴んでロンダに向かって放り投げた。ロンダはそのピヨールを振り返る事なくキャッチする。
「ん? 犬のピヨール?」
大トカゲの口が大きく開き火の玉が現れた。ロンダがピヨールを火の玉に向ける。俺が盾と間違ってピヨールを掲げたのとは違って、ただ盾に使えそうだから使ったという感じだ。
「ワン!」
だがピヨールは元気よく吠える。
大トカゲの火の玉はかき消え、口を開けたまま固まっている。俺は一気に大トカゲの前に詰め寄り光の剣で斬り裂いた。硬さなど感じる事もなく大トカゲ達は寸断される。細切りになった大トカゲを俺は更に細かく斬った後、肉片を撒き散らした。
「何をしている?」
「勇者殿?」
ロンダとアンが俺の行動を不思議がる。
「奥にいるのは魔王だ。前に一度戦った。奴は大トカゲの死骸を使ってでかくなる」
俺がそう言うとロンダが首を傾げる。
「死骸ででかくなるのか。だがピヨール。ここは死骸だらけだぞ?」
そうだった。この城は床も壁も天井も死骸だった。俺がそれに気づいて大トカゲの肉片を見ると、撒き散らした肉片が床や壁と同化していた。
「奴の胃の中とでもいうのか」
アンが剣を構える。
「俺を食うと、どうなるか教えてやる」
ロンダが魔王に向かって歩き出す。確かにロンダを食ったら腹を壊すどころではすまなそうだ。だが俺達が魔王の元に近づいても魔王は微動だにしなかった。
「こいつ、抜け殻だぞ」
ロンダの表現は的確だった。玉座らしい物に座っている魔王は、その頭部に大きな穴があり中は空っぽだった。そんな状態でも魔王としての魔力は残っている様で足が根の様になって死骸と繋がっている。
「ワン!」
ロンダに掴まれたままのピヨールが吠えると魔王の抜け殻は浄化され消え去った。
おい、それヤバイだろ?
「走れ!!」
ロンダが叫び、俺たちは城の出口に向かって走り出した。
ビタ! ビチャ! ボタッ!!
壁や天井の死骸が魔力の供給を絶たれて崩れ落ちる。床の死骸もただの腐った肉片へと変わり俺達は足を取られた。
「まずい!」
天井から大量の死骸が俺たちに降り注ぐ。
「ピヨール!」
「ワン!」
ピヨールが体を光らせる。俺はそれを天井に向かって掲げた。光に触れた死骸が瞬時に浄化されて行く。が、死骸の量が桁外れだ。落下の衝撃は抑えられたが、結局、俺たちは死骸まみれとなった。
その直後にピヨールによって浄化されたとは言え、腰のあたりまでどっぷりと死骸にまみれた後では、臭いが消えた気がしない。
「風呂に入りたいな」
死骸の山の中で俺がつぶやくと、ロンダとアンがそれに賛同した。魔城は完全に崩れ落ち、ただの死骸の山となった。腐臭に包まれた中を俺たちは橋へと戻る。が、当然、橋も無くなっていた。
「渡れんな」
ロンダはそう言うと辺りを見渡し魔城の奥の森を指差した。
「西はあっちだ、森を抜けるぞ」
そう言って歩き出す。 馬車と男は? と言いたそうなアンだったが、それを言ってもどうにもならないとわかり黙ってロンダの後に続いた。
俺は1人振り返り、崩れ落ちた橋の向こうを見る。だがそこには俺達の戻りを待つ馬車の姿は無かった。男は目覚める事が出来る様には見えなかったが何があったのか知る術はない。
背中にアンジェリカ、肩にピヨールを乗せて俺は森へと歩いた。
2015年最後の投稿となりました。10月末から始めた投稿も、42回目。楽しみながら続けることができたと思います。来年は1/4から、再開する予定ですので、よろしくお願いします。読んでいただけたみなさん、本当にありがとうございました!よいお年を!!




