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犬勇者  作者: 吉行 ヤマト
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廊下を塞ぐ黒いやつ

 魔城の奥にある扉は真っ黒の塊で、最初俺は扉だと気付かなかった。先に辿り着いていたロンダとアンが扉の前で何か話し合っていた。


 「この扉はお前が開けろ」


 ロンダがアンに指示を出している。


 「し、しかし……これは……」


 アンが扉を見て触れるのを躊躇している。


 話し合っていたのでは無くアンを鍛えていた様だ。城に入る前は気合い十分だったアンだが、今は少し泣きそうな顔になっている。


 アンでも恐怖で泣く事があるのか。


 「この黒いのが扉なのか?」


 俺が2人の背後から声をかけるとアンが小さな悲鳴を漏らして肩を一瞬すぼませた。


 「扉だな。変わってはいるが」


 俺に扉が見える様に体をひねったロンダの奥に黒くうごめく物が見えた。


 これは触りたくないな。


 「これ、魔物だろ?」


 「そうだな」


 「さっき扉と言ってたが?」


 「扉でもある」


 そう言えなくも無いか。


 「アン、こいつは扉の様な魔物だから、斬ったらどうだ?」


 「こら! 勝手な事をするな! それをこいつに考えさせていたのだ」


 いや、そうは見えなかったぞ。


 「き、斬ります」


 アンが剣を構える。


 「待て」


 ロンダがそれを止めた。


 「何処を斬る?」


 アンが困った様な顔をしてロンダの問いに答える。


 「ま、真ん中をこの様に」


 アンが剣を斜めに動かした。


 「それでは届かん」


 「届かない? ですか?」


 アンにはロンダが言った意味が伝わっていない。


 「お前に、この黒いのがどれぐらい分厚いか分かるのか?」


 「い、いいえ。分かりません」


 「それなのに、こいつの表面を斬って倒せるのか?」


 「た、倒せません……」


 アンがしょげている。


 「お前の剣なら真っ直ぐ突き刺せ。場所はここだ」


 ロンダは黒い扉の右上を指差した。


 「どうして、ここだと?」


 アンが不思議そうに尋ねる。


 「勘だ」


 いや、それじゃ分からんだろ。


 「アン、このうごめく触手をよく見てみろ。ロンダの言った場所がわずかだが触手が長く、多いのがわかるか? つまりここに何かあると言うことだ」


 「そうだ」


 そうだ、じゃない。


 「わ、分かった」


 アンが右上の一点に向かって剣を構える。俺とロンダは数歩後ろに下がった。


 「アン、必要以上に力は込めるな。あと、つき刺したらすぐに後ろに跳べ。突くよりも速く引き抜けよ」


 「分かった」


 アンは深呼吸してから構えを変え、一気に扉を突き刺した。寸分の狂いもなく剣はロンダが指し示した場所に突き刺さる。そして素早く引き抜き、後ろに跳んだ。


 ミキャキャキャキャキャキャキャ


 聞いた事がない様な音が鳴り、黒い扉から無数の鋭い針が飛び出る。下がっていなければ全員殺られていただろう。


 「いい動きだ」


 ロンダがアンの動きを褒めた。飛び退いた場所ギリギリまで伸びてきた針に言葉を失ったままのアンは、その場にへたり込んでいる。針が伸びきって暫くすると黒い塊ごと針は崩れ落ち廊下が続いていた。廊下の先は扉のない入口になっていて、その奥は部屋になっている様だ。


 「行くぞ」


 ロンダがそう言って歩き出す。アンは慌てて起き上がりロンダの後をついて行った。


 姉妹というか親子だな。

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