死骸の橋の上
霧に包まれた魔の山にある魔城に入るには、死骸で出来た橋を渡らねばならない。一歩踏み出すごとに、肉片が崩れて腐臭を放つ。
「臭いな」
「ワン!」
俺の呟きにピヨールが応え体を光らせた。光に包まれると腐臭が消える。
そう言えばそうだったな。
だが同時に光は足元の死骸も浄化し出した。
「待て、ピヨール。そこまでだ!」
「ワン!」
ピヨールが光を消すと俺の鼻に再び腐臭が突き刺さる。
「光の量を抑えられるか?」
「ワン!」
ピヨールは首から上だけを覆うように体を光らせた。
「いいぞ、その大きさのままでいろ」
「ワン!」
橋の真ん中辺りまで来たが後ろから誰もついて来ていない様なので俺は後ろを振り返った。後ろではアンと修道女のアンジェリカが死骸に怯え、腐臭に涙しながら一歩ずつ歩いているせいで全然前に進んでいない。
その2人の様子を後ろでロンダが見守っている。こう言う時、ロンダは決して相手を急かしたりはしない。ただ黙って見守る。そして命の危険が無い限り手助けをする事もない。
「死骸だがこの橋は丈夫だ。だから踏み抜いて落ちる事は無いぞ」
そうは言っても涙で前が見えないので2人は思った様に前に進めないでいる。
俺は引き返した。
「アン、大丈夫か?」
「あ、ああ」
「だべでしゅ」
アンと修道女が俺の問いに答えた。
ああ、アンジェリカだからアンか。じゃあ、アンだとややこしいな。
「ピヨール、アン達を頼む」
「ワン!」
俺の肩からアンの肩へとピヨールが飛び移り、互いの肩を掴み合って体を支えていた2人が光に包まれる。
「こ、これは!?」
アンが驚く。涙でぐちゃぐちゃの顔も光に浄化されたのか元通りだ。
「き、奇跡です!」
アンジェリカが、ちゃんと喋れるようになり両手を合わせた。
「おい、しゃがむなよ」
俺がそう言う前にアンジェリカは両手を合わせて跪き祈ろうとして、膝で踏み抜いた死骸の腐臭で悶絶する。
「ごれぼ、がみのおぼぢめしゅうう」
ドサッ
盛大に顔から死骸の橋に倒れこむアンジェリカ。気を失った様だ。
「ははは、ここまでか。まあ、少しは根性見せたな」
ロンダはアンの背中を叩き、アンジェリカを拾い上げると俺に放り投げた。
「捨てるか、助けるか、お前が決めろ」
そう言って俺の横を通り過ぎる。俺はピヨールを肩に乗せたアンの様子を確かめてから、死骸まみれのアンジェリカを担いでロンダの後に続いて橋を渡った。アンとピヨールも俺の後からついて来ている。
橋を渡りきった所で俺は地面にアンジェリカを寝かせた。そして、アンの肩の上にいるピヨールを掴んでアンジェリカの顔に乗せる。
「ワン!」
ピヨールが光ってアンジェリカにまとわりつく死骸をキレイに浄化した。
「次は助けるな。こいつの為に成らん」
ロンダがアンの肩に手を置いて俺に言う。
「面目無い……」
アンがロンダに頭を下げた。
「死臭にまみれ、そこを生き抜いてこそ、女は強く、美しくなる。俺の様にな」
ロンダがニヤリと笑うが、アンは顔を引きつらせて怯えている。
「この先は、勇者殿の力を借りずとも戦い抜いてみせます」
アンが片膝をついて俺とロンダに宣言した。
「もちろんだ。この城には魔物がウヨウヨいそうだからな。だが無理はするな。俺の後に続けばいい。ピヨールも最初はそうだった」
「はい!」
何だかアンがロンダの弟子に見えて来た。
「ピヨール。お前はバンデリガを守ってやれ。勇者ならそれぐらい出来るだろ。これも修行のうちだ」
ロンダはそう言うとアンを連れて城に向かって歩き出す。俺は再び、死骸が綺麗に浄化されたアンジェリカを担いで、2人の後を追った。




