ピヨールを追って
「グホッグホォォエ……」
玉座の前で床に這いつくばっている男がいる。
「お前が悪者?」
兵を全て切り捨てたロンダが男の前に立ち確認する。だが男は咳き込み嗚咽するだけで答えることが出来ない。
「一応、捕らえておくか」
男を捕らえ兵を倒すと部屋は静かになった。残っているのは30人程の兵と捕らえた男と匂いだけだ。
「思ったより歯ごたえが無かったな。金を惜しむからこうなるんだ。まあ次は無いが」
ロンダの声は床に這いつくばって咳き込む男には届いていない。
「口で息を吸うと楽だぞ」
ロンダが言う。そんなわけ無いだろ。
「いや、たいして変わらん」
倒れている兵が、ちゃんと死んでいるのか確認しながら俺は部屋の外にいるピヨールの様子を確認した。
「あいつ、何処に……お!?」
ピヨールは部屋の外ではなく城の通路を走っていた。
「ロンダ、ここは任せた」
「何処に行く?」
「ピヨールを追う」
「ピヨール? ああ、犬のことか。逃げたのか?」
「いや、何かを追っている。それを確かめる」
「面白そうだな、こいつ斬って俺も行こうか?」
「ダメだ。おれにも仕事をさせろ」
「……分かったよ。ピヨール」
俺はロンダを置いて部屋を出た。ピヨールは……城を出て王都にいるようだ。ピヨールの事を考えるとその風景が頭に浮かんだ。俺は螺旋階段を駆け下り、1階に飛び降りるとそのまま場外に出た。
「おお! 生きて出てき……な、なんだ! 貴様のその匂いは!?」
入口で会った兵が声をかける。
「中の兵は倒した。アソフォンらしき男も捕らえている。ところで子犬を見かけなかったか?」
俺の質問に兵が戸惑いながら答える。
「子犬? 何を……あ、いや、確か城から出てきたのが一匹いたぞ?」
「どっちに行った?」
「あっちだ。ポルト通りを抜けた裏道に入って行ったぞ」
兵が指した先に大通りから別れた小道があった。先程、頭に浮かんだ景色だ。
「わかった」
俺はそう言って兵を残し裏道に向かって走った。ピヨールはまだ子犬だけあって走るのは遅い。だが疲れないのでずっと走り続けることが出来る。
一気に追いつかないと面倒だ。
俺は全速力で裏道を走った。細い路地は入り組んでいたが、ピヨールの気配を頼りに俺は分かれ道を進んだ。
「ピヨール!」
「ワン!」
俺の声を聞いてピヨールが嬉しそうに俺の肩に飛び乗った。
「ワン!」
そして俺に走れと吠える。ピヨールが肩に乗った瞬間、何故、ピヨールが駆け出したのか。何を追いかけていたのかがすぐに分かった。
俺は疲れを知らぬ体で走り続け、裏通りから大通りへと飛び出す。其処には小さな馬車に乗り込もうとしている1人の男がいた。
ピヨールでも十分追いつけそうな太った男だ。男は俺に気づいて慌てて手綱を握り馬車を走らせた。通りには人はおらず馬車は乗り捨てられた物の様で車輪の回りがおかしかった。そのせいで走り出してすぐ車軸が折れ、車輪が外れて男は地面に転がった。
「動くな」
俺が光の剣を男に向けると男は漏らしながら俺に命乞いをして来た。
「アソフォンか?」
指に大きな金の指輪をしていたので、そう尋ねると男は素直に頷いた。
「そうか」
俺はそれだけ言うと壊れた馬車から馬を解き、手綱を切ってそれで男を縛った。
「お前に会いたがっている者がいるのでな」
小便臭いアソフォンを連れて俺は城へと向かった。
ん? アソフォンの匂いが分かるぞ?
「ワン!」
匂い玉のせいで俺の体は悪臭を放ち周りの匂いなど感じる事は出来なかったのだが、ピヨールは消臭も出来る様だ。
便利な奴だ。
俺はピヨールの腹を城に着くまでかいてやった。




