ビッグブリッジの女神が生まれた瞬間だ
マリアがピヨールを抱えて兵達の元へ歩き出す。
「姫、何を?」
将軍がマリアに尋ねる。
「勇者様のお力をお借りします。そうだ爺、怪我をしている者を集めて」
将軍はマリアの言っていることの意味がわからず不思議そうな顔で首を傾げていると、横で膝をついていたアンが立ち上がり将軍に進言する。
「ビラボア将軍、どうかマリア様の仰られる通りに。お願い致します」
「う、うむ、そうか。分かった」
将軍が兵に命令する。
「負傷した者を前へ。他の者は道をあけよ」
兵達が立ち上がり、マリアの前をから移動し、そこに負傷者を運び出した。ロンダの投石や、混乱した自軍の兵に押し倒された者、川に落ちて這い上がってきた者などが次々に運ばれて来る。総勢300名ほどがマリアの前に運ばれた。普通に動けるが軽い怪我をおっている者はもっといるだろう。
これをやったのが、ロンダ一人だとは言わない方が良さそうだ。
「お前達に怪我を負わせたのは俺だ。俺だけだ」
だがロンダがすぐにバラした。負傷者も運んで来た者もこの場にいる兵全員がロンダを睨む。ロンダはそれを見て更に踏ん反り返ると
「自業自得だ。欲に駆られてコリントスにのこのこ攻めて来たお前達が愚かなのだ。ここまで来るのに何人の村人や賞金稼ぎ達を斬ってきたか考えるがいい。それでも納得がいかないなら、いつでも俺と俺の弟のピヨールが相手になってやる」
俺も入れられた。兵達がロンダに向けるのと同じ目で俺を睨む。
お? この光景、懐かしいな。
アンデーヌの村でロンダに怯える者達からよく俺は同じ目で見られたものだ。ロンダの横でつい俺はニヤけてしまった。
「ピヨール。お前ここで笑いが出る様になったか。強くなったんだな」
そう言ってロンダが俺のケツを叩いた。ロンダは昔から俺のケツが好きだ。
「アレク、ロンダさん、許してあげて。彼らは愚かな王の命令に従っただけなの。あなた達も2人の事をそんな目で見ないで。彼らは私、前王ペドロ・フェストスが娘マリア・フェストスとその騎士アスタルテの命の恩人なのですよ」
マリアの言葉を聞いた兵達が俺とロンダを睨むのをやめた。
「ああ、分かった。ロンダももういいだろう。それよりマリア、怪我人が待っている。早く治してやれ」
「ワン!」
俺の言葉にピヨールが返事をした。
「ひっ……」
マリアが軽い悲鳴をあげて、ピヨールを怪我をしている兵の頭の上に置く。
あ、いや、別に頭の上じゃ無くていいぞ。
「あ、あの……姫様?」
マリアの行動に頭にピヨールを乗せられた兵や周りの兵が困惑する。
「ワン!」
ピヨールが光り出した。神的な光が怪我をしている兵とマリアを包み込む。その光の中で兵の怪我が見る見るふさがり治っていく。ほんの数秒の出来事だが、見ていた者全員が言葉を失った。
「ひ……姫……さま……」
マリアは続けて兵の怪我を治していく。その都度、マリアはピヨールの光りに包まれた。目の前で見ていた兵にはマリアが手に持ったピヨールが光っていることがわかるだろうが、後ろの方ではマリア自身が光っている様にしか見えないだろう。
「女神だ……」
1人の兵がそう呟く。
「ああ、女神の奇跡だ」
「我らの姫は女神だぞ!」
兵達がマリアを女神と呼び出す中、マリアはピヨールに怯えながら兵の怪我を治し続けた。その怯える姿が、兵は自らの痛みに耐えて兵を救う様に見え、更に女神と言う掛け声が大きくなる。
ミノア軍の陣は、女神というつぶやき、掛け声、そして叫びに包まれた。




