俺の名はラナシだ
「あんた名前は?」
「俺か? 俺はピヨールだ」
「ピヨール?」
男は俺の顔をまじまじと見つめる。
「知っているのか?」
「まあその珍しい名前だからな」
ピヨールという名の誰かを思い出したが勘違いだろうと視線を逸らしながら男はそう言った。
「そうか?」
「皇帝の新しい夫。しかも子供の夫の名前と同じだ」
そう説明した後、男は俺に顔をもう一度見た。
「俺の名はラナシだ」
「ラナシ? ピヨールより珍しくないか?」
「いや。この辺りではよくある名だ」
「そうか」
「1人なのか?」
ラナシがそう聞いて来た。恐らくずっと俺の事を見ていたのだからアルオレンが一緒にいた事は知っているはずだ。
「連れがいる」
「そうか、その連れはどこに?」
会話を引き延ばそうとしているのか、ラナシの目の奥の気配が少し変わった。
俺の闇に変化が起きないか、あれこれ質問しているのか。
何かの報告に必要なのだろうが、それはそれで俺にとっても面白いと言える。
話につきあってみるか。
「船が出るまで時間があるから何か食べる物を取りに行っている」
恐らくラナシも知っているであろう事をそのまま説明する。
「なるほど。ならば、俺は飲み物を取って来るか」
ラナシは立ち上がると船の中ではなく、船を降りて何処かに消えて行った。
あいつ、ずっと一緒にいるつもりか?




