塔の装置
ピエトパオ侯の説明で俺は遠くを見る装置を覗き込む。この装置には名前があったらしいが、何だったのか忘れたらしく、遠くを見る装置や、単に装置と呼ばれているらしい。
「塔の装置とも呼んでいます」
とピエトパオ侯の騎士が教えてくれたが、正直、どうでも良い情報だった。
「ベスボ火山から麓の森を見てみろ」
装置の前に立つ俺にそう教えてくれるピエトパオ侯。装置は足元の台に支柱で繋がっているが、縦にも横にも回転できる作りになっていて、両手で持つ事で自由な方角を見ることができる。
「太陽は見るな」
それがこの装置の唯一の掟らしく、ピエトパオ侯は絶対に駄目だと言い切った。
「分かった」
俺は言われた通り、ベスボ火山を見る。山のあちこちから細い煙が上がっていた。
「煙が出ているな」
「そうだ。数年に一度、燃えている」
「大丈夫なのか?」
「ああ、麓の森がそれを吸収しているからな」
火山の炎を森が吸収? そんな事ができるのか?
「あの森は深い。想像以上にな」
麓の森に装置を向けるとその森の異様さが目についた。
黒い?
木々に葉があり、生い茂った森ではあるが、その色がほぼ黒と言って良い程に暗かった。
いや、本当に黒いのか?
「黒いな」
「そうだ。あの黒い森には入ってはならん」
ピエトパオ侯は新たな掟を教えてくれた。だが、行くなと言われれば行きたくなる。
「行きたそうだな?」
「まあな」
「手前の森の魔物を掃除出来れば、行っても構わんぞ」
「本当か?」
「だが、行くならピヨールだけだ。他の者には無理だ」
そんなに過酷なのか?
「あの森は底なしだ」
底なし?
「森なのに底なし?」
「そうだ。底なしだ」
これは、絶対に行かなければ。




