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犬勇者  作者: 吉行 ヤマト
2007/2415

塔の装置

 ピエトパオ侯の説明で俺は遠くを見る装置を覗き込む。この装置には名前があったらしいが、何だったのか忘れたらしく、遠くを見る装置や、単に装置と呼ばれているらしい。


 「塔の装置とも呼んでいます」


 とピエトパオ侯の騎士が教えてくれたが、正直、どうでも良い情報だった。


 「ベスボ火山から麓の森を見てみろ」


 装置の前に立つ俺にそう教えてくれるピエトパオ侯。装置は足元の台に支柱で繋がっているが、縦にも横にも回転できる作りになっていて、両手で持つ事で自由な方角を見ることができる。


 「太陽は見るな」


 それがこの装置の唯一の掟らしく、ピエトパオ侯は絶対に駄目だと言い切った。


 「分かった」


 俺は言われた通り、ベスボ火山を見る。山のあちこちから細い煙が上がっていた。


 「煙が出ているな」


 「そうだ。数年に一度、燃えている」


 「大丈夫なのか?」


 「ああ、麓の森がそれを吸収しているからな」


 火山の炎を森が吸収? そんな事ができるのか?


 「あの森は深い。想像以上にな」


 麓の森に装置を向けるとその森の異様さが目についた。


 黒い?


 木々に葉があり、生い茂った森ではあるが、その色がほぼ黒と言って良い程に暗かった。


 いや、本当に黒いのか?


 「黒いな」


 「そうだ。あの黒い森には入ってはならん」


 ピエトパオ侯は新たな掟を教えてくれた。だが、行くなと言われれば行きたくなる。


 「行きたそうだな?」


 「まあな」


 「手前の森の魔物を掃除出来れば、行っても構わんぞ」


 「本当か?」


 「だが、行くならピヨールだけだ。他の者には無理だ」


 そんなに過酷なのか?


 「あの森は底なしだ」


 底なし?


 「森なのに底なし?」


 「そうだ。底なしだ」


 これは、絶対に行かなければ。

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