マリアは犬が恐いようだが、ピヨールはマリアが好きそうだ
普通なら1日に100km進んでも、イーストクロスからルルド領に入るのに5日はかかる。
だが今回は違った。ピヨールがいるのだ。
勇者の伝説で良くある千里の道を1日で渡ったと言うのは嘘では無かった。馬が疲れない方法を見つけたのだ。それに気がついたのはイーストクロスを出てすぐの所で、馬に乗り慣れないマリアがお尻を痛がって休憩せざるを得無かった時だ。お尻にピヨールを付けるのはどうかと思ったので、再び頭の上にピヨールを乗せる。犬が怖いらしいマリアは恐怖で硬直していたが、テンションの上がったピヨールがマリアの腕の中に飛び込んだ。
反射的にピヨールを掴んだマリアの手がピヨールのお腹をまさぐると、それが気持ち良かったのだろう、ピヨールが漏らすように鳴いた。
「クゥゥーン」
そして光った。強くは無いがその光は広範囲に届きマリアだけでなく俺やアンの疲れも癒された。
「よし、マリアにはそのままピヨールを抱き続けてもらおう」
俺の提案にマリアは顔を青ざめて抗議する。
「だが急いでいるのだろう?」
俺の言葉とアンの説得によりマリアは渋々頷いた。俺とアンは手綱を持って馬を操るから、ピヨールの腹を書き続ける事は出来ない。アンの後ろでしがみ付いているだけのマリアならそれが可能だ。
身体をアンと縛りつけたらと言う前提だがな。
マリアはアンと背中合わせになって縛りつけられる。半泣きになりながら後ろ向けの恐怖と犬の恐怖に耐え続けるマリアは。アンの馬が俺の前を走るたびに俺を睨みつけてくる。
まあまあ、そんなに怒らんでも。
だが、その手に抱かれたピヨールは相変わらず至福の表情だ。
おっさんよりも若い女がそんなにいいのか。
俺たちはそうやって全く疲れ知らずで走り続け、伝説よりは遅いが通常の半分以下の時間、たった2日でルルド領に入った。
王都のような関所は無いが街道の周りに広大な田園が広がるとそこはルルド領だ。反対側の王国とコリントス自治区との境界には長い塀と砦があるが国内側には特に領地を隔てるものは無いのだ。
ルルド領の領主であるルルド家では、代々、不要な関所は商いの邪魔にしかならないと言う考えがあるとか無いとか。王国だけでなくコリントス自治区にとっても重要な食糧生産地なので国境の砦以外に関所等が無くても大きな問題は起きにくいのである。
コリントス自治区に入る前に俺たちはルルド領の中心にある街マセでいろいろと準備をする事にした。俺やピヨールがいるとは言え、準備も無しに入れるほどコリントスは甘くはない。




