夢じゃないよな?
周りに広がるのは見慣れない景色、夢にしては感覚がはっきりしているし、ほっぺもつねってみたが痛い。
「やったぜ!異世界だ!冒険だ!ファンタジーだ!」
俺は嬉しくて、つい大声で叫んでしまった。そして数分後この行動を大きく後悔することになった。
「ぜーはー、ぜーはー。」
息が苦しい、喉の奥から血の味がする。足が痛い、苦しい。
俺は今、全身が黒ずくめで頭から角が生えた鬼のような生き物に追われている。
遡ること数分前、嬉しさのあまり大声で叫んでしまった俺は、どうやらこの鬼のような生き物を挑発してしまったようで、今必死に奴らから逃げている。
不幸中の幸いというべきか奴らは背が低く、おまけに重たそうな木の棍棒をもっているせいで走るのが遅い。そのおかげで日頃運動不足な俺もどうにか今まで逃げ延びてきたが、そろそろ限界が近くなってきた。
ちらっと後ろを確認してみると、あの鬼たちは3匹。相変わらず走るのは遅いが、ペースが全く乱れてない。
対する俺は今にも足が止まりそうだ。絶体絶命。そんな言葉が頭の中に浮かんできて、必死にそんな考えを頭から追い出そうとして前方への注意が逸れた。前には3メートル位のちょっとした崖があって、それにきずかず思いっきり体を地面に打ちつけた。
痛い。
必死に立とうとするが、足をひねってしまったようで、よろよろと転んでしまう。
あの鬼たちが近づいてくる、もうだめだ。俺は怖くなって目を閉じた。
突然体がふわっと軽くなったようなかんじがして、驚いて目を開けてみるとそこには女の子がいた。
「危ないところでしたね。」
そう言うと少女はふっと微笑んだ。