第一章「僕らの出会い」
僕らが出会ったのは凍りつきそうなほど、寒い日のことだった。
僕の祖父が死んで、その葬式の日のこと。
僕はただ黙って運ばれていく棺を見ていた。
そんな僕に話しかけてきたのが一つ年上の従姉妹の雫だった。
「何を見ているの?」
そう彼女が僕に話しかけてきた。
僕が小学4年生、雫が5年生の1月のことだった。
* * * * *
急に話しかけられて、僕はびっくりして振り返る。
すると、見知らぬ少女は僕の隣に来て再び言った。
「何を見ているの?」
僕はそう尋ねる少女を不思議に思った。
何を見ているかなんて一目瞭然じゃないか。
「棺だよ」
僕は簡潔に答え、少女から棺に視線を戻す。
すると、少女は言った。
「つまらない答え。もっと違う言葉を期待したのに」
彼女は一体何を期待しているんだか。
僕は呆れた。
僕が黙っていると少女は僕に再び話しかけてきた。
「前髪長すぎじゃない? 目にかかっているわ」
そう言われて僕は前髪に手をやる。
確かに僕の前髪は長い。
目を覆い隠してしまっている。
でもーー。
「あんたには関係ないよ」
僕はそう言って突き放す。
すると、少女は再び僕に聞いてくる。
「君、ちょっと痩せすぎじゃない? 背も低いし」
確かに僕は平均よりも背は低いし、体重も軽いけれど。
「あんたには関係ないことだろ。しつこいな。あんた一体誰だよ」
さっきからいちいち煩いやつ。
「私? 私は君の姉だよ」
少女はそう言った。
姉?
一体何を言ってるんだ?
僕に姉がいたなんて聞いたこともない。
僕は生まれてこのかた、ずっと一人っ子だった。
「あんた一体ーー」
何を言ってるんだ? そう続けようとした。
そこへ彼女割ってはいる。
「ああ。正確に言うと今日から姉ね。君はうちに来るのよ」
僕はその言葉に彼女の方を見る。
「君のお母さん。自殺したんでしょ」
「!?」
何で知ってーー。
「お父さんもどこかへ消えちゃったって聞いてるわ。だから、お祖父さんのところにいたんでしょ」
僕は俯く。
「でも、そのお祖父さんも死んじゃったから行くとこなくなっちゃったんでしょ」
少女の言葉が僕の胸を突き刺す。
ーーひとりぼっちだねーー
心の中で誰かが呟く。
分かってるよ。
それくらいーー。
僕はいつだってひとりぼっち。
「だから、君をうちで預かることにしたの。だから、今日から君は私の弟」
兄弟なんて、いらない。
お前なんか姉じゃない。
「そんなこと聞いてない。お前誰だよ」
僕は少女を下から睨み付ける。
僕のほうが背が低いから少し見上げる形になる。
「私は君の姉だってば。でも、そうだな。昨日までは君の従姉妹だよ」
そう言って笑う。
「真夏。可愛いね」
「!?」
かっ可愛い?
こいつ一体何を言ってるだ?
僕は若冠警戒した。
それに、何で僕の名前を知ってるんだ?
「私は雫よ。これからよろしく。せいぜい私に殺されないように頑張ってね」
そうして彼女は僕の額に口づけをした。
僕は驚いて額に手をやる。
彼女は微笑んで僕に背を向けもと来たほうに戻っていった。
僕、今ものすごく不穏なこと言われた気がする。
僕は歩き去る少女を呆然と見送った。
* * * * *
あの日の帰り、僕は雫の父親に説明をされた。
今日から、自分が君の父親だと。
そして、僕は雫の弟となったのだ。
あの日、僕らは初めて出会った。
けれど、もしかしたら雫は以前から僕のことを知っていたのかもしれない。
そして、あの時の言葉。
雫はあの時から僕のことを殺したがっていた。
誤字脱字が、あればよろしくお願いいたします。