序章「僕は君を愛している」
ちょっと変わった恋愛を書いたつもりです!
いろいろおかしなところがあるかもしれませんが
素人の作品としてちょっと目をつむって頂ければと思います!
ちょっと痛いところあるかもしれませんが、若気の至りとして気にしないで頂けると助かります。
愛と憎しみは表裏一体。
二つで一つ。
愛してるからこそ、憎らしい。
憎んでいるからこそ、いとおしい。
* * * * *
私には殺したいほど憎んでいる相手がいました。
その相手を殺してやりたくて仕方がありませんでした。
けれどその相手は私がこの世で最も愛している人でした。
僕にはこの世でたった一人だけ愛している人がいました。
他の誰よりも愛している人がいました。
けれどその人は僕がこの世で最も憎んでいる人でした。
* * * * *
薄暗い部屋の中で僕は彼女をベットの上に押し倒し、その上に馬乗りになっていた。
「君を愛しているよ。だから僕は君を殺したい。これって何かおかしなことかな?」
彼女の首に手をかけゆっくりと、じわりじわり絞めながら僕は彼女に言う。
彼女は僕の下でただ笑っている。
まるで僕を嘲笑うかのように。
彼女は一切抵抗する事をしない。
僕は更に手に力を込めて彼女の首を締め上げる。
彼女は全然何ともないという表情で笑っている。
………………。
何だか馬鹿馬鹿しくなった。
ゆっくりと手の力を抜いて、その手を首から体にまわし、覆い被さり抱きしめる。
彼女は首を絞められていた反動で咳き込む。
僕は無言でその彼女の首元にキスをする。
すると彼女も僕を抱きしめキスをする。
触れるだけのキス。
彼女の唇は冷たい。
「愛しているわ。真夏。私には分かるのよ。君には私を殺せないこと」
彼女はそう言って微笑む。
「だって真夏。私が君を殺すのだから」
そして再びキスをする。
こんどは舌を入れてくる。
僕はディープキスが嫌いだった。
彼女はそれを分かっててしてくる。
僕は真夏という名前で呼ばれるのも嫌いだった。まるで女の子みたいな名前。大嫌いだ。
彼女はそれも分かっててやってる。
彼女は僕を憎んでいる。
でも彼女は僕を愛している。
だからせめてもの復讐で小さな嫌がらせをしてくるのだ。
僕は上体を起こし、彼女の体から離れる。
そのままベッドから下りて立ち上がる。
「腹減ったな。何か作ってよ」
彼女、雫に向かって声をかける。
すると雫は体を起こしながら呆れた声で言った。
「もうお腹空いたの。さっき食べたばかりじゃない」
「減ったものはしょうがないじゃないか。何か作ってってば」
僕が催促すると雫は、やれやれといった感じで台所に立った。
僕はベットの脇にある椅子に座り、彼女の背中を見つめる。
僕らの住んでいるアパートは1Kしかない。
玄関を入ってすぐが台所であり、リビングであり、寝室だ。だから僕の座っている椅子から台所に立っている彼女の様子がすぐに見える。
冷蔵庫の中を覗く彼女の、腰まで伸びた長い黒髪が僕の視線から君の背中を隠している。
「君の髪って綺麗だよね」
ふと呟いてみる。
「急にどうしたの?」
彼女は作業を続けながら僕に問う。
「ただ。何となく思っただけ」
一度も染めたことのない黒髪は艶やかで全く傷んでいる様子はない。
「なら私も何となく思ったけど、真夏また髪伸びたんじゃないかしら。前髪長すぎよ」
「これは元からだよ」
僕は目を完全に隠してしまっている前髪に触れながら言う。
「切ってあげようか」
彼女は振り返り、料理の手を止めて笑顔で言う。
僕が前髪を切るのが嫌なことを知っていて聞いてくるのだから、たちが悪い。
「君って時々、すごく意地悪なこと言うよね」
「そうかしら」
彼女はクスクスと笑い、料理に戻る。
全く……。
「そういうところも好きだよ」
僕は微笑みながら言う。
「知ってるわ。私はそういう君が憎らしいの」
そう言って振り返り、意味深な笑みを浮かべる。
包丁を持つ彼女は、今すぐにでも僕を殺しそうな雰囲気があった。
つかの間の沈黙。
「知ってるよ」
そう僕が彼女には聞こえないくらい小さな声で呟く頃には、雫は料理のほうに向き直っていた。
僕は知ってるよ。
心の中で呟く。
雫。
僕が君を愛しているのと同じくらい、
君が僕を憎んでいることを。
それでもなお
僕は君を愛している。