959 プリッシュ号
うぷっ。食い過ぎた。
さすがに朝から丼飯は胃に来るな。ってか、飯ってこんなに胃に溜まるものだったっけ? 腹がパンパンだわ。
ソファーに寝っ転びながら膨れた腹を擦る。
「ベー様。今日の予定は決めておりますか?」
食後の腹ごなしにコーヒーを飲んでいると、珍しいことを尋ねて来るミタさん。どったの?
「少し、故郷に帰ってもよろしいでしょうか?」
こりゃまた珍しいこと。なんかあったの?
「いえ、物資が不足してると連絡がありましたので、様子を見ながら聞きに行こうと思いまして」
「イイんじゃねーの。行って来なよ。今日は城でゆったりしてるからよ」
公爵どのも第二夫人も仕事があるとかで、話は夜にってことになった。なので今日はゆったり過ごそうと考えていたのだ。
「ありがとうございます。プリッシュ様。ドレミ様。いろは様。よろしくお願い致します」
丸っきり信用ねーオレ。あ、今さらですね。すんません。
ミタさんが消え、静かなときが過ぎる。
ドレミはメイド型でオレの横に立ち、いろははドアの前で塞ぐかのように立っている。
プリッつあんは……視界から消えているのでわからん。が、部屋の中にいるようで、鼻歌は聞こえた。
レイコさんは知らん。寝てんじゃねーの?
ゆったりまったりな時間。コーヒーの香りとプリッつあんの鼻歌。なんとも平和な時間で結構である。
が、この時間が苦痛なのか、プリッつあんがオレの目の前に現れた。
「ベー。わたしにも飛空船作ってよ」
はぁ? なに言っちゃってんの君は?
「いらんだろう。飛べんだからよ」
「ベーだって歩けるけど馬車やゼロワンに乗ってるじゃない」
いやまあ、そう言われたら反論のしようもねーが、なぜに飛空船よ? そんなに欲しいなら殿様にねだれよ。サイズ的には同じなんだから。
「嫌よ。小人族の飛空船、ダサいんだもん」
そりゃ女の感性から言ったら無骨でシャレオツな形ではないが、男から見たらカッコイイもんだぜ。
「ねぇ、作ってよ。可愛いのかお洒落なの」
そんな高度なことを要求すんなや──と思ったら、ふとアイデアが浮かんだ。
「速さは求めるか?」
「そんなに求めないかな? 空の散歩って感じがいいわ」
それなら大丈夫だ。遊覧って感じだからな。
オレが浮かんだアイデアは飛行船だ。ただ、前世のようなスタイリッシュな飛行船ではなく、ラグビーボールのような風船に舟をぶら下げてファンタジー仕様の飛行船だ。
結界工房を空中に展開し、無限鞄から材料を放り込む。
錬金の指輪で鉄の塊を鉄工材や鉄線に変え、風船部の骨格を作った。
そこに浮遊石をバランスよく配置し、浮遊のバランスを確かめる。
「そこはなんなの?」
「寛ぎ空間だ。まあ、キャンピングカーみたいなものだ。上がリビング。下が風呂や台所、収納部屋だ。できたら自分の好みに仕上げろ」
「窓つけてよ窓! あ、前半分はサンルームにしてよ! 内装は淡い青にして」
言われるがままに仕上げる。
ちなみに内装系の素材は買い揃えているので、プリッつあんの要求に応えられるのです。
「横は丸窓にして。あ、カーテンはわたしがやるからかけられるようにだけしておいてね」
とか口うるさいメルヘンの要望をできるだけ取り入れて風船部の内部は完了。で、外幕はなににしたらよろしいので?
「外幕?」
金属板で覆うのは嫌だろうから布で覆うんだよ。なんの柄がイイ?
「花柄がいいかな? ある?」
オレに死角はなし。ちゃんと揃えてありますとも。
「あ、これがいい!」
いくつか出した中から桜柄を選んだプリッつあん。和風好みか?
まあ、なんでもイイわと、皺が出ないように凧糸で鉄骨に結んで行く。
手間のかかる作業だが、結界術を使えば一時間もかからない。ハイ、完成。
次は舟だ。
「立って操縦するのと座って操縦するの、どっちがイイ?」
「座って操縦するほうがいいわ」
なら、操舵輪とペダルで操縦させるか。
舟の部分は白にして前で操縦できるようにする。推進力はプロペラでイイか。どうせ結界で動かすんだからな。
風船部と舟をシルバーアクセサリーの鎖で四ヶ所繋ぎ、風船部に昇降できる梯子をかける。
「こんな感じでイイか?」
「ちょっとイメージと違うけど、これでいいわ」
それはなにより。外装が気に入らないのならフミさんにでも変えてもらえ。
「プリッつあん、操縦系を作るから操縦席に座れ」
結界工房は一メートルくらいなので小さくなって入ってください。
なんの躊躇いもなく結界へと飛び込み、飛行船のサイズに体を調整。操縦席へと乗り込んだ。
「操舵輪、ハンドルっぽいものを回してみろ。ちゃんと左右に回るか?」
右に左に回すプリッつあん。イイ感じのようだ。
「それで右左に曲がるからよ。下のペダルは右が上で左が下に動く。操縦は単純にしたから細かい動きはできないが、防御力と衝撃吸収は高いから心配はいらん」
結界工房を消し、飛行船を解き放つ。
「傾きは感じるか?」
「大丈夫。水平になってるわ」
空を飛ぶメルヘンだけあって、感覚は人とは違うようだ。
「部屋の中を飛ぶにはまだデカいな。プリッつあん、もうちょっと小さくできねーか?」
「わかったー」
と、二回りほど小さくなる。まあ、そんなものか。部屋広いしよ。
「しばらく部屋を飛んでろ。操縦系を調整していくからよ」
「了ー解! プリッシュ号、はっしーん!」
まんまだなと思いながらプリッシュ号の操縦結界を調整していった。




