92 突っ込ませて
なんだよ! なんなんだよっ! なんだって言うんだよ! ふざけんなよ! もはや進化論とか生命の神秘とか超越しちゃってるじゃねーかよ。ほんと、なんなの? もはや生命に対する侮辱だよ。なんでもかんでもファンタジーで片付けられると思うなよ、こん畜生がよ!
「……あ、あの、いかがなされましたか?」
あ、うん。ちょっと待ってね~。今、この理不尽と戦ってるからさっ。
知らずのうちに地につけていた両手を握り締め、なんとか飲み込もうとする。
ガンバレ、オレ。理不尽なんてあって当たり前。上手くいかねーのが人生だ。ましてやこんななんでもありの世界じゃねーか。こんなことで負けてんじゃねーよ、オレ!
「……す、すまねーな、みっともねーとこ見せてよ……」
なんとか理不尽を飲み込み、脱力した体を根性で立ち上がらせた。
椅子へと腰を下ろし、ポットからコーヒー(モドキ)をカップに注いで一息入れた。
ふ~。よし、落ち着いたぜ。
「ワリーな。客を立たせ……いや、ほっといて。座ってくれ」
「いえ、お構いなく。無理を言ってるのはこちらですから。ですが、立ち話も無作法なので座らせて頂きます」
「……………」
もう突っ込みたくてしかだかねーが、今突っ込んだら負けだ。二度と立ち上がれねー自信があるぜ。
「あーなんつうか、いろいろ衝撃があり過ぎていろいろ忘れちっまったんで、最初からやり直してイイかな?」
椅子から立ち上がり、客……と対峙する。
「わかりました。では」
たぶん、背筋(?)を伸ばしてんだろう、気持ち姿勢(?)がよくなった。
「わたし、バンベルと申します。マスターの身の回りを任されている執事でございます。どうかお見知り置きを」
突っ込みてー! もう感情のままに突っ込みてーよ! なんだよ、これ。なんの拷問だよっ! もういっそのこと殺してくれだよ!
歯を食いしばり、必死に堪える。
「オ、オレはベー。まあ、愛称だが、長いし、言いずらいからベーでイイよ。もはやベー以外で言われても違和感しかねーからな」
「はい。では、ベーさまと呼ばして頂きます」
「呼び捨てで構わんよ。オレはただの村人なんだからよ」
「とんでもございません。強者に敬意をはらうのは弱者の義務。ましてやこちらはお願いする身。敬意なくして語ることはできません」
「……あーうん、そう。まあ、そっちがイイなら勝手にしな……」
なんと言ってイイかわかんねーよ、ほんと。
「はい。ベーさまのご寛大な心に感謝を」
「……………」
もうなにがなんだかわかんなきなってきたよ。
「あ、そー言やぁ、茶出してなかったな。飲めねーもんあるかい?」
いやオレ、なに言ってんだ? え? 壊れたか、オレの頭よ?
「大丈夫でございます。大抵のものは口にできます」
「……あ、ああ、そう。う、うん、そりゃよかったよ……」
壊れたのか麻痺したのかわかんねーが、体が勝手に動いてくれ、来客用のカップにコーヒー(モドキ)を注いでやり、バンベルの前に置いてやった。
「では、頂きます」
うん、飲むんだ。そして、そーゆー飲み方なんだ。いやもう、びっくり過ぎて爆笑してーよ。
「なかなか良い味のお茶でございますな。なんと言うお茶なので?」
「……便宜上、コーヒーって呼んでるよ。まあ、本物には遠く及ばない味だがな」
「そうでございますか。わたしとしては充分すぎるほど美味でしたが」
「……あ、あーうん、そりゃよかった……」
カップをテーブルに戻したバンベルは、まっすぐオレを見た。うん、考えるな、感じるんだ的なもんだけどな。
「我々に願いを言う資格がないことは重々承知してます。ですが、敢えてお願い致します──」
「──その前に、ちょっとイイか?」
ごめん。もう無理。そろそろ精神的に限界だよ。だからこれだけは言わせてくれ。突っ込ませてくれ。叫ばせてください。
「はい、なんでございましょう?」
深呼吸を三回して気を落ち着かせ、そして──。
「──なんでスライムなんだよっっ!!」




