914 なんて魔王?
「……お前、いったいなにしに来たのよ……?」
次々と現れる牙ネズミを捕獲し、手際よく解体していると、茶猫が訊いてきた。なんか、疲れ果てたような顔して。
……表情豊かな猫だよ……。
「なにって、牙ネズミの捕獲だろう」
他になにがあるんだよ?
「おれには牙ネズミの乱獲に見えんだがな。つーか、最初の話はどこいったんだよ!」
最初の話? なんのことだ?
「そのマジで忘れてる顔止めろや。テメーはどこまで自由なんだよ!」
「どこまでと訊かれたらインフィニティの先までと答えよう」
オレはオレのしたいことをする。そこに一切の躊躇いも遠慮もねー!
「……もういいよ……」
と、肩を落としてその場で丸くなった。自由な猫だよ、まったく……。
まあ、猫なんてそんなものと解体を続けた。
「……解体飽きた……」
さすがに三百匹もやるとダレてくるわ。
「しかし、牙ネズミ、どんだけいんだよ?」
飽きて来たらマンダ○タイム。あーコーヒーうめ~!
「これでも減ったほうだよ。一番凄かったときは通路を塞いでいたからな」
いつの間にかテーブルに上がり、ペ○シを飲む茶猫。なんつーか自然に入って来ましたね、君……。
……いやまあ、下水道でマ○ダムタイムしてることに突っ込まれそうだがな……。
「お前、よく生きてんな」
オレには結界があるからなんら問題ねーが、魔法や魔術を使わず、己の肉体だけで相手すんのは無茶苦茶だろう。世界最強はそんなにスゲーのか?
「おれの毛は牙ネズミの歯より頑丈で、爪が異様に鋭いんだよ。体力もバカみたいにあるし」
「……この世界の猫、どんだけだよ……」
もう魔獣とかの域を通り越して獣王級に突入しちゃってるよ。
「よし。オレ飽きたから代わりに牙ネズミ狩ってこい」
「本音を出しすぎだ! もっと柔に建前を言えや!」
そんな日本人的思考は捨てやがれ。この時代は我の強いヤツが美徳とされんだよ。いや、ウソですけどね。
「君の力をオレに見せてくれ。スーパーキャットよ」
「誰設定でどんな状況だよ?」
そこは君の想像力で補ってください。オレには想像できないんで。あ、ドレミ。コーヒーお代わり。
「……ほんと、お前は最悪のほうに自由だよ……」
どんな方向だよ、それ。自由に善し悪しなんてねーわ。
「ベー様。ちょっとこれを見てください」
側路に並べた裂いた胃を観察していたレイコさんが声をかけて来た。なによ?
「胃の中にこれが入ってました」
なにかの肉片っぽいものを指を差した。それがなんだってんだい?
別に霞を食って生きてるわけじゃねーんだ、胃になんか入ってのは当たり前だろうが。
「明らかに獣や人の肉ではありません」
言われてよく見れば確かに獣の肉ではねーな。なんだこれ?
消化途中で色や形は崩れてよくはわからないが、塊に肉の繊維がない。なんか吐いたときのカマボコって感じだな。
……お食事中の方がいたらすみません……。
「雑食なので野菜の欠片もありましたが、この不思議なものをがほとんどのようです」
つまり、牙ネズミの主食か。こんな下水道で主食となるものなんてあんのか?
「……魚、ではねーよな?」
「はい。骨は出てきませんでした」
「なにかの植物か?」
ファンタジーな世界。下水道でなる植物があっても不思議じゃねー。実際、不思議なキノコが生えているの、見たことあるし。
「たぶん、違うと思います。ちょっとここを見てください」
と、側路の水側を指差した。
「苔か?」
「はい。じめじめしたところで生息する苔で、エサにしている生き物もいます」
なにか、含みがあるように言うレイコさん。
苔はなにかで削られたような齧られたように、至るところ剥げていた。
「……嫌な予感、と言うか、確実に嫌なことが起こっている感じだな……」
これまでのことを考えたら、なに一つイイことが出てこねーよ。
「……なに深刻な顔してんだ? ここの牙ネズミはタコを食ってるぜ」
そんな重大発表はもっと小出しにして出せや。胃がキュッとするわ。
「いるのか」
「いますね。確実に」
「つーか、そう言う生き物なのか?」
いろいろな意味を込めて尋ねた。
「はい。何千と卵を生み、苔なども食べて、悪環境でも生きられるくらい生命力があります」
理解したレイコさんが重要なことだけを教えてくれた。
「この領都、呪われてんじゃね?」
嫌がらせの呪いならこれほどの嫌がらせはねーぞ。
「かもしれませんね。ちなみに、グラーニからも魔石は採れます。なんの偶然か、牙ネズミと同じ白の魔石です」
「ほぉう。それはそれはお気の毒に」
嫌がらせの呪いが一転して祝福の恵みになりました~。
「……お前、なんて魔王……?」
「愛と平和を願う心優しい村人ですがなにか?」
そんな「うわ~」って顔はノーサンキュー。誰がなんと言おうとオレは村人です!




