901 びっくりしたわ
オレ、メルヘンの台座扱いになっている件。
なに言ってんの? とか、それを説明しろとか、そんな酷なことは言っちゃいやん。
「羽妖精、初めて見た!」
「可愛い!」
「ご利益がありますように」
オレの回りに集まった人々がわいのわいの言いながら手を組み合わせ祈っています。
帝国は太陽神を信仰し、各地域では十四の眷属神のいずれかを祭っているそうで、祈る場合は手を組み合わせている。
まあ、信じたきゃ勝手に信じろな主義なので、一般的なことしか知らんが、メルヘンに対して同じことすんのは背徳なんじゃね?
とか思いはしたが、それも好きにしろ、だ。オレのかかわり合うことじゃねー。
つーか、この状況、いつまで続くのよ? そろそろ我慢の限界なんですけど?
結界で騒音をシャットアウト。
「プリッつあん、ちょっと頭から離脱しろや」
「嫌よ。自分だけ助かろうなんてさせないんだから!」
わしっとオレの髪を握るメルヘンさん。
……どこかに強制排除装置売ってねーかな……。
「こいつらは、プリッつあんを奉ってんだから、オレ、いなくてイイじゃん」
オレは台座になって喜ぶ趣味はねー!
「わたしだって知らない人から奉られたくないわよ。こんな欲望まみれの感情なんて気持ち悪いもの」
なにやらご立腹なメルヘンさん。感受性が高いのか?
「しかし、羽妖精の恩返しってなんだよ? 羽で衣でも作ってくれんのか?」
「そんな命を差し出してまで恩返しするバカはいないわよ。と言うか、なんで羽で衣なのよ? 足りる訳ないじゃない」
現実のメルヘンは使えねーな。お伽噺の鶴は反物を作ってくれたのによ。
「ねぇ、なんとかならないの? うんざりなんですけど」
現実のメルヘンに夢を見ちゃダメだとわかってるが、もうちょっと可愛げのある言葉を使いなさい。ひくわ。
「まあ、うんざりなのは同意見だ。ドロンさせてもらいますか」
──村人忍法、身代わりの術&ドロン。
結界で身代わりを創り、転移バッチで人垣の向こう側へと逃れた。
すぐに結界迷彩発動。その場から退避した。
「サプルたちはいいの?」
「ドレミ。連絡頼む」
連絡担当のドレミにお任せ。あと、イイように丸め込んでください。決して見捨てたんじゃないってのね。
「はい。お任せください」
ドレミのコミュニケーション能力は未知数だが、任せろと言うなら任せるのみ。オレは君を信じる!
テキトーに歩いていると、背後からサプルやミタさんが駆けて来るのがわかり、迷彩結界を解除した。
「あんちゃん、急にいなくなるんだから! びっくりしたじゃない」
オレはお前が分身したときは、そんな比ではなかったがな。
「申し訳ありません。わたしがマスターに進言しました」
猫からメイドにらなり、頭を下げるドレミ。ってか、あなた、どうやって連絡したのよ? 電波系か?
「なら、しょうがないか」
と、あっさり認めちゃうマイシスター。え!? お前らの間になにがあったのよ!? プリッつあん以上に信頼されてね?
そこで突っ込むのは悪手なので必死に我慢。スルー拳を発動して無理矢理流した。
「あんちゃん、次はどこにいくの?」
「ちがう屋台にいってみる。気分転換にコーヒー飲みたくなったからよ」
「でも、またあんなふうにならない?」
「大丈夫。今度はプリッつあんを隠すから」
「そうしてくれると助かるわ。あんな気分悪いの嫌だもの」
と言うのでプリッつあんだけに迷彩結界発動。まあ、オレには見えるからいまいち締まらないんだがな。
「ほんと、ベーって規格外よね」
「あんちゃんだからね!」
いや、妹よ。その表現は褒めてないと思うぞ。まあ、なんでもイイけどよ……。
レディ・カレットが言ったように、領都では外で食べる文化のようで、テキトーに歩いてたらイイ匂いが漂って来た。
匂いを辿って行くと、先ほどと同じく道の両側に屋台が並んでいた。
「ここは、広場があるんだな」
椅子とテーブルが置いてあるところを見ると、ここら辺のヤツらは家に持ち帰らずここで食うようだ。
「独身者が多いのかな?」
まだ、客はいないのでわからんが、酒を売る屋台も見えるところからして、労働者向けなのは確かなようだ。
「肉が多いな。なんの肉だ?」
見た感じと匂いでは鳥っぽいが。
「ホローノ鳥と水ネズミの肉だと思う。この辺に生息してて、専用の冒険者が捕って来ると聞いたことがあるわ」
ホローノ鳥は知らんが、水ネズミの肉はとても柔らかくく、捨てるところがない生き物なのだ。
「さすが森と湖のバイブラストだな。捕れるほどいるとは羨ましいよ」
水がキレイでナグサと言う水草が自生してるところにしか生息しないから、滅多には食えないのだ。
「よし。皆、バラけて料理を買って来い。ただ、買い占めはするなよ。でも、どこでなにが売られているかは覚えて来いな」
そう指示を出して、それぞれ屋台に向かった。
「おばちゃん、十人前ちょうだい」
オレが突入した屋台は、ホローノ鳥を使った野菜炒め的なものを売っていた。
「あいよ。皿はあるかい? なければ貸し皿になるが?」
ほ~ん。そう言うシステムがあるんだ。
「皿ならあるよ」
無限鞄から皿と言うより、盥に近い桶を取り出した。
「……大き過ぎないかい……?」
「じゃあ、入るだけちょうだい。金はあるから心配すんな」
十ラグ小銀貨を数枚出して見せる。たぶん、アーベリアンでは銅貨五枚に相当するはずだ。
「ま、まあ、買ってくれるならいいよ」
「買い占めにならね?」
「そしたらまた材料仕入れて作るさ」
なんてことはないとばかりに口にするおばちゃん。流通がしっかりしてんだな。
量が量なので、少し時間がかかるとのこと。まあ、待つのは嫌いじゃないので、椅子を出して、コーヒーを飲みながらできるのを待つ。
人通りが少ねーな。本当に商売として成り立つのかと、ぼんやり考えていたら、デカいブラシを抱えた十歳前後の子どもの集団がやって来て、屋台へと向かった。
「……いるんじゃねーかとは思ったが、マジでいたよ、リアル黒い兄弟……」
さすがにびっくりしたわ。




